ついこの間まで「地方創生」を連呼していた安倍政権が、今度は「人づくり革命」だと騒いでいる。地方創生で地域を活性化し、地方の人口減少を食い止めるのではなかったか。内閣府の関連サイトを見ると、予算は相変わらず使われているようだが、何か成果は生まれているのか。地方自治総合研究所の今井照主任研究員は、地方創生は人口減少対策として効果がないどころか、その逆の結果になりかねないと警鐘を鳴らす。
将来、日本の人口が減少することは抗えない事実です。しかし、なぜ人口減少が起きようとしているのか。その原因については、必ずしも多くの人がわかっているわけではありません。
世界全体で見れば、人口はまだまだ増え続けていますが、先進国については、いずれ人口が減る。だから日本もそういう流れにある、と何となく思われているのではないでしょうか。
しかし、それはちょっと違います。
下の【図表】を見るとわかるように、日本では世界の中でも「最も急速に」人口減少が進もうとしているのです。その結果、人口構成のひずみが急拡大して、高齢者への福祉サービスがひっ迫し、残念なことに長生きが祝福されない時代が来ている。
だからこそ、若年世代は将来に対して無力感を覚え、社会にコミットしようという意欲を喪失するのかもしれません。年金滞納や投票率の低下、排外主義への同調もこうした文脈で起きていると考えるべきです。
しかし、どうして日本だけで急速な人口減少が起こるのか。
結論を急ぐなら、それは「国策の失敗」にほかなりません。詳しいことは次回で書く予定ですが、問題は政治・行政がそれを理解していないことです。だから、こうしている間にもなお、人口減少をさらに加速させるような政策が次々と打ち出されていく。
「日本ではこれから人口減少が進み、地方や自治体が消滅する」と喧伝する、政官一体となったキャンペーンが2014年に始まりました。自分が暮らす町の将来はいったいどうなってしまうのか、と不安を掻き立てられた人も多いことでしょう。
そのとき、マッチポンプさながらに国が用意したのは「地方創生」という政策です。
ところがこの政策は、人口減少対策としてはまったく見当違いなものになってしまった。なぜなら、問題の構造を捻じ曲げて認識したためです。その結果、地域活性化どころか、むしろ「地方消滅」を促進する可能性すらあります。
地方創生政策を推進する「まち・ひと・しごと創生本部(地方創生本部)」は、法律制定に先んじて、2014年9月、内閣府に設置されました。担当大臣には内閣改造で自民党幹事長からの入閣となった石破茂氏が任命されています。
当時、この組織は「地方創生先行型」交付金1700億円のほかに、「地域消費喚起・生活支援型」交付金2500億円という大きな予算を所管していたのです。
全国の自治体が、後者の交付金をもとに「プレミア商品券」や「半額旅行券」をばら撒くように発行し、これらを販売したコンビニエンスストアではわずか2分ほどで売り切れたり、横流し騒ぎが起きたりしました。おそらく皆さんの記憶にも新しいことと思います。
そもそも、「プレミア商品券」や「半額旅行券」を発行することが、自治体や国の仕事なのかという根本的な疑問もありますが、何より問題なのは、これだけの公費を投入してどれだけの成果があったのか、ということです。
実は、あまり知られていないと思いますが、会計検査院はこの事業について会計検査を行っています。
2017年3月に出された報告書を読むと、結論こそグレーになっているものの、そこに記された言葉の端々から「いら立ち」が読み取れます。所見の最後では、内閣府に対して効果検証を求めていて、会計検査院としての責任を回避しています。