イグジットとは、リード権を自分から他の相手に渡す行為のことです。第一章の項目がいきなりイグジットなので驚かれた方も多いかもしれませんが、イグジットの技術はハーツにおいて群を抜いて重要です。それはなぜか。ハーツにおいては、次の2点においてリーダーは著しく不利です。
不意にリード権を取ってしまい、リードしたカードの下にいらないカードやSQを捨てられ、どうにかイグジットしようとするも常にリードの1つ下のランクのカードを出され、結局ほとんどの点数を取ってしまった。このような経験は皆さん一度はされたことがあるかと思います。このようにならないためにも、イグジットが重要なのです。
当然ですが、イグジットは原則としてイグジットカード(C3やD2等のロウカード)を用いて行います。イグジットカードが潤沢にある場合はそれらを順番に使えば問題ありませんが、多くの場合そこまでイグジットカードが豊富にあることはなかなかないでしょう。イグジットカードに乏しい場合、以下のテクニックを用いてイグジットカードを節約もしくは防御する必要があります。
最も基本となるテクニックです。ウィナー(勝つカード)を先にキャッシュ(取る)してからイグジットします。先にイグジットしてしまうと、あとあとウィナーで勝ってしまった時に他のカードをリードする必要に迫られます。例えば、ダイヤモンドのA2と持っている場合、先に2を使ってしまうと次にDAで勝った時に他のスートをリードしなければなりません。DAを取ってからD2を出すのが多くの場合正解です。
また、例えばダイヤモンドをAKと持っている場合、ダイヤモンドをリードされると自分にリード権が渡るのは確実です。このような場合、先に両方をキャッシュしてから他のスートでイグジットします(ただし、SQがまだ出ていない場合はこれに限らない)。このように、あるスートのウィナーを全て取り切ることを「ストリップ」(はがす)といいます。
これも、ウィナーのキャッシュと双璧をなす基本テクニックです。エリミネイトとは、あるスートを刈り取って他のオポーネントが1枚も持っていない状況にすることを言います。
例えば、スペードのAKQJT9と持っている場合、他のスートをリードしてイグジットしてもスペードをリードされると永遠にリード権を取ってしまいます。このような場合は、先にスペードのJT9などを取ってしまい、オポーネントにスペードが残っていない状態にしてからイグジットしましょう。ちなみに、この場合SAもSJも強さは同じですが、自分がSQを持っていることを悟られることを少しでも遅らせるためにSJから順にとった方がいいでしょう。
なお、当然のことながらこれを行う場合はそのスートが何枚出たかのカウンティングが必須となります。最初のうちは難しいかもしれませんが、せめて1つのスートだけでもカウンティングを行う練習をしておきましょう。カウンティングの能力はあとあと大きな差となって表れてきます。
この2つは、イグジットカードを守るために必要です。ハーツではトリックを勝つ能力というのは軽視されがちですが、リードされたくないスートがある場合はウィナーは貴重なストッパーの役目を果たします。
例えば、C3は確実なイグジットカードですが、C3だけ大事に持っていてもクラブをリードされればあっさりと刈り取られてしまいます。イグジットカードに乏しいハンドではイグジットカードを刈り取られることは致命的です。これを避けるために、例えばクラブをAT3と持っている場合は1トリック目にCAではなくCTをフォローします。クラブのコンティニューが来てもCAを出せば、C3が刈り取られるまでに1トリックは猶予ができるというわけです。
それでは、以下でイグジット方法の具体例を見ていきましょう。Hearts Strategy: The Grand Exitに良い例が挙がっていましたので、このハンドで説明します(リンク先は英語)。
オープニングリードは左で、クラブ2、T、Aと出ました。どのようなプランをたてますか。
ここで重要なのは、イグジットカードがH2のみしかないということです。要するに、このハンドで確実にイグジットできるのは1回きりです。ムーンも事実上不可能なので、H2を出した以降もしリード権を得てしまうと、ほぼ確実に残り全てのトリックを勝ってしまいます。ハートを取ってしまうのはともかく、SQを取ってしまうのは絶対に避けなければなりません。
正しいプレイは、リンク先に書いてある通り、まず第1トリックをC8で負けます(ウィナーの保持)。この時点で、クラブのKQがウィナーに昇格(promote)します。その後のプレイは以下の通りです。なお、上のリンク先で書かれているプレイとは手順が前後していますが、下記のプレイがよりよいプレイです。
上述したテクニックを忠実に守っていることがおわかりでしょうか。以下、簡単な解説です。
上で説明した通りです。スペードのAKQJ8でエリミネイトしています。注意すべき点は、スペードの第1トリックをS8でダックしている点です。これはウィナーの保持(ルーザーの処理)にあたります。
スペードをエリミネイトし終えた後、ダイヤモンドとクラブのウィナーを全てキャッシュしています。自分がSQを持っていない場合はなかなかウィナーのキャッシュもしづらいものですが、このハンドの場合自分がSQを持っているため気兼ねなくキャッシュすることができます。このように、スペードに十分な長さがある場合は、オポーネントがSQを持っているよりも自分がSQを持っている方が都合がいいことが多いです。
なお、これに関連して、例えば序盤にハートがブレイクし、自分のハートはキングのシングルトンで、イグジットカードに乏しくムーンが無い場合、リードを得たらすぐにHKをキャッシュした方がいいことがほとんどです。うまくHKを何処かで捨てられればいいのですが、ハートリードが来てHKが勝ってしまうことが圧倒的に多く、その場合は貴重なイグジットカードを1枚無駄にしたことになるからです。
このハンドのポイントはここです。第1トリックから一貫して、ハート以外のルーザーが1枚(DQ)になるようにプレイしています。
例えば上記のハンドでは第1トリックにC8をフォローしましたが、CKまたはCQをフォローするとどうなるでしょう? 仮にCQをフォローしたとして、クラブにルーザー(C8)が残ってしまいます。すると、あとあとDQ(またはC8)を出して負けに行ったときに、ハートをリードされると困ったことになります。HKやH8がトリックを勝つ保証はどこにもなく、ハートで3連敗した後残ったC8(またはDQ)でトリックを取ってしまうとその後全てのトリックを取ってしまいます。なお、リンク先に書かれているプレイはウィナーのキャッシュを行う前にDQを処理していますが、DKに負けたあとハートで3連敗するとやはり残りをすべて取ってしまうため、上記のプレイを正解としました。(ただし、このようなプレイ(DQが取られた直後ハートが3連続でリードされる)が行われる蓋然性や、K82のハートで3連敗する確率は低く、仮にそのように進行してもダメージはそこまで変わらないため、リンク先のプレイが明確に悪いというものでもないかもしれません。)
上記のプレイをフルハンド(リンク先に記載)で注意深く観察すると、SQは最終的にNorthに行くことがわかります。かわいそうなNorthは、AT63という素晴らしいハートを持ちながら、H3でトリックを勝ってしまい、その後全てのトリックを取ってしまいます。
このようになってしまったのは、ハートの2がNorthではなくSouthにあったことが原因でした。もしNorthのH3とSouthのH2を交換してしまうと、もはやSouthにはほとんど打つ手がありません。このように、あるスートのロウエストとセカンドロウエストの間には極めて大きな差があります。特にイグジットカードに乏しい場合や、長いスートではそうです。ロウエストカードが非常に貴重であることを肝に銘じておいてください。
パスの後、次のようなハンドになりました。
ムーンを狙っていましたが、HQのカバーパスが来てしまいました。クラブリードを勝ち、SJをリードするとHTのディスカードが現れました。どうプレイしますか。
「ムーン狙いがばれない内にHQをリードする」と答えた方、気持ちはわかりますが残念ながら不正解です。HQを取られてしまうと22点コースです。正解は、クラブとダイヤモンドのウィナーを全てキャッシュし(ストリップ)、スペードをエリミネイトしてからHQをリードします。これが取れればムーン達成ですし、取れなければイグジット成功で、ハンドは既に自分以外は持っていないスペードのみとなっていますので、その後トリックを取ることはありません。
このように、ムーン狙いの場合、「取れればムーン達成」のカード(シングルトンのハートになることが多い)でイグジットすることができます。実際はこう都合よくいかないだろうと思われるかもしれませんが、意外と頻出のテクニックです。本当にどうしようもないハンドの場合、シングルトンのハートが最後の"命綱"となることもあります。当然ながら、1枚でもハートを取られてしまうとこのテクニックは使えないので注意してください。
DJルールを採用している場合限定ですが、どうしてもイグジットしたい場合にDJをリードすることができます。誰しもDJは欲しいカードなので取ろうとしますし、仮に誰も取らなかったとしても自分がDJを得ることができ、被害が少なくなります。