3 Lines Summary
- ・残業代の全額支払いと定時出社で、残業が激減
- ・デンマークのように社員を幸せにする会社を目指す
- ・男性の子育て参画が、女性の幸せな働き方の実現
今年の流行語の1つとなった「働き方改革」。
この改革に10年前から取り組み、この2年間で残業を4割削減、女性管理職比率30%を達成した会社がある。その会社は、ウェブサイトの運営支援など、デジタルマーケティングを行うIT企業「メンバーズ」(都内中央区:東証1部上場)。創業1995年、従業員数約800名だが、平均年齢31歳の若い会社だ。
しかしメンバーズがここに至るまでの道のりには、業績悪化や株価低迷、そして社員の4人に1人が離職するというピンチがあった。
目指す会社経営の姿は「世界一幸せな国、デンマークのような会社」だ。
剣持忠社長にその取り組みについて鈴木款解説委員が聞いた。
残業代の全額支払いと定時出社で、残業が激減
ーー先月メンバーズは、月平均残業時間を2年で約4割削減したと発表しました。これで今年度上半期の残業時間は月平均16時間。ここまで残業を徹底的に減らす「働き方改革」を、なぜ、どうやって行ってきたのですか?
10年くらい前にさかのぼりますが、大口の取引先がなくなって業績が悪化し、2期連続の赤字となりました。株価は低迷し、取引先からは「保証金を入れないと取引しない」、監査法人からは「もう監査をしたくない」と言われ、社員の離職率が25%に達したんです。
仲良くやっているつもりだったのですが、4人に1人が会社を辞めてしまったんですね。
そこで「これまでは社員のことを考えてなかったんだ、社員の幸せが伴った再建をしよう、会社の考え方を根本から変えよう」と思ったのが、働き方改革のスタートでした。
ーー当時社員の働き方はどんな感じだったのですか?
デジタルマーケティングってそうなんですけど、不夜城みたいに夜11時から会議やったり、朝はルーズだったり。だから、女性が結婚するとみんな辞めちゃうんですね。
そこで、これは奇策なんですけど、残業代は全部払うかわりに、みなし残業は止めることから始めました。当時、同業者から「みなし残業を止めたら倒産するぞ」と言われました。でもそうしないと、残業を減らそうという動機がなくなるので、まず残業代は100%払うと。そうすることで長時間労働の是正をやっていこうと決めたんですね。
ーー残業代を満額支払うというだけでは、長時間労働を止めるのは難しいですが?
また、裁量労働制が長時間労働をもたらしていると考え、これもやめました。それまでは裁量労働の名のもとに、午前10時とか11時に社員が出社していました。それを、午前9時の定時出勤にしたんですね。さらに、ショック療法的に、遅刻は認めない、朝礼をやる、チャイムを鳴らす、など学校みたいに厳しくやって。当初はマネージャーからもすごく反対されましたし、嫌で辞めた社員も少しいましたね。
ーー定時出社にしたことで、長時間労働の是正につながったのですね?
最初のうちは嫌々やっていましたが、やはり労働時間は短くなりました。当時は平均残業時間が50~60時間だったのが、30時間まで減りました。さらに、女性が結婚しても辞めなくなりました。
ーーなぜ定時出社でここまで残業が劇的に減ったのですか?
当時は、社員に時間の概念がなく、誰も効率的に働こうという意識がありませんでした。ですから社員数が増えるほど、乗数的に無駄が生まれていたんですね。加えて「クリエイティブの仕事って時間じゃないよね」という幻想が、悪しき習慣を生んでいました。
そこで、すべての案件ごとに利益率を管理して、時間がかかり赤字になるビジネスは撤退することにしました。
これによって「クリエイティブであっても時間が大事だ」と、社員が時間を意識する風土が生まれましたね。
ーー2年前までは残業時間が30時間だったのを、どのようにさらに4割減らしたのですか?
30時間に減った後は、いったん止まったんですね。しかしIT業界の人手不足が進んでいく中で、30時間をさらに減らして15時間にしようと決めました。社員の中には「これ以上残業が減ると給料も減る」という声もあったので、そこを打破しようと新たに「2019年度までに月額固定給25%ベア、年収20%アップ」を目標に掲げました。
目標は「デンマークのような会社」
ーー社長は「デンマークのような会社」を目標にしているそうですが、これはなぜですか?
社員を幸せにしたいと掲げたものの「では幸せって何だよ」と勉強し始めて、世界一幸せな国と言われているデンマークに、6年前視察に行きました。
デンマークは労働時間がすごく短くて午後4時に帰宅し、家族のだんらんの時間が豊富にあります。夏休みは1.5か月程度取るのが一般的で、共働き率も高く、資源もない国なのに日本人の1.5倍の給料が払われています。
そうした状況を見て、デンマークのように社員を幸せにする会社を目指すべきだと考え、それをベンチマークにしました。また、共働きしやすい会社にするのも目標に掲げました。
ーー共働きしやすい会社にするためには、どのような取り組みをしていますか?
制度として時短もありますし、レスキュー在宅勤務制度、つまり子どもが熱を出した場合など、在宅勤務するのを認めました。また、ベビーシッター料金の補助も出しています。
男性社員の意識改革が遅れているのは明らかだったので、男性社員の育児支援制度の利用率を5割に高めようと、率先して使ってもらっています。いまでは男性社員が育児休暇を半年とか、長い人で1年とか取得しますね。今後もっと増えるんじゃないでしょうか。
ーーメンバーズでは、2年間で女性の管理職比率を倍増させて、政府が掲げる30%目標を今年達成しましたね。
当社は女性社員が多いですし、そもそもクリエイティブは女性的な感性が大事です。
そこで30%の目標を掲げて、男性の尺度で管理職を選ぶのをやめたら、あっと言う間に女性管理職が増えました。
男性の子育て参画が、女性の幸せな働き方の実現に
では、剣持社長の「デンマークのようにメンバーズもなりたい」というメッセージを受けて、社員はどう動いたのか?
メンバーズでは、働きやすい環境づくりや女性社員の活躍を推進するWomembers
Program(ウィメンバーズ・プログラム)が策定された。その推進委員会は去年4月のスタート以来、女性だけでなく、子育てパパや若手社員も参加し、働き方改革に取り組んでいる。
改革の1つが女性管理職比率アップだが、ほかにも男性社員の育休取得、在宅勤務制度などの整備にも力を入れている。
委員会の委員長を務める早川智子さんは、男性社員の子育て参画について、「女性社員の幸せな働き方の実現につながると考え、会社として推奨している」という。
一方、イクメン社員はこうした改革をどう受け止めているのか?
マネージャーを務める會谷雄一朗さんは、今年5月の妻の出産後、育児に伴う在宅勤務制度を2週間程度活用した。チームの部下からも、こうした制度を活用することを応援されたという。
「当社では同じチームで育休を取ると、他の人の評価点がプラスされる制度があります。こうした『見返り』があるので、皆喜んでサポートしますし、妻の家族からは『何ていい会社なんだ』と言われてますね」(會谷さん)
すべての社員が幸せに暮らし、働くことができる「デンマーク型」の会社を目指すメンバーズの取り組みは、働き方改革が思ったように進まない企業のヒントとなるか。