「外交はカネで買えるのか?」――。
この古くて新しい問題を再提起したのが、今年のAPEC(アジア太平洋経済協力会議)だった。中国がカネの力にモノを言わせて他国を靡かせていく、俗に言う「札束外交」のことだ。
思えば1980年代から90年代の前半にかけて、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだった金満日本に対して、第二次世界大戦後の秩序を構築した米欧諸国の人たちが、同じ問いを発していたものだ。あれから数十年の時を経て、いまやわれわれが、日増しに肥大化していく隣国に対して、同じ思いを抱くようになった。
11月のアジアは、APEC、東アジアサミット、ASEAN首脳会議と続く外交の季節である。10日、11日に、ベトナムのダナンで開かれた今年のAPECの主役は、初めてアジアを歴訪したトランプ大統領でも、来年3月の大統領選で再選を狙うプーチン大統領でも、「インド太平洋戦略」という新たな外交戦略(中国包囲網)を引っ提げて臨んだ安倍晋三首相でもなかった。主役はまさしく、「アジアの新皇帝」を目指す習近平主席だったのである。
そもそも、このベトナム中部のビーチは、首都ハノイよりも、むしろ中国南端の海南島からの方が、格段に近い。南海艦隊の巨大な基地がある三亜から、わずか230㎞の距離だ。そのため普段から、中国人観光客たちがビーチを「占拠」していて、後背地では中国企業の工場進出ラッシュが続いている。
APECのメイン会場となったのは、美しいビーチ沿いに先月完成したばかりのアリヤナ国際会議場だった。1万2000㎡もの広さを誇る国際会議場でも、同じく会場となった北側に隣接するフラマホテルでも、習近平主席は、ふてぶてしいほど威風堂々、皇帝然と振る舞っていた。あまりヤル気のなさそうなトランプ大統領、顔色が冴えない安倍首相と対照的に、「権力の絶頂」の匂いプンプンである。
習近平主席ら中国代表団は、メイン会場の南側に隣接するクラウン・インターナショナルホテルに陣取ったが、そこへは各国首脳がひっきりなしに訪問し、APEC関連行事の合間に行った首脳会談も、分刻みだった。
11月10日午後、APECのCEOサミットが開かれていたメイン会場は、2000席すべてが埋め尽くされていた。お目当ては、北京から駆けつけたばかりの習近平主席である。主催したベトナム政府は、わざわざ習主席の到着に合わせて、CEOサミットの開始時間を遅らせる配慮まで見せた。
午後2時20分、「主役」が会場入りすると、会場の全員が起立し、拍手で迎えた。習主席は、右手を振り上げて会場の声援に応える。そして司会者から改めて紹介を受けた後、「世界経済の転換の機会を掴み、アジア太平洋のさらなる発展を求めていく」と題した35分間の基調講演を行ったのだった。
「アジア太平洋地域は、世界最大の経済市場であり、世界経済の牽引役だ。(2008年の)金融危機から10年、国際社会は共に努力し、世界経済を回復の軌道に乗せた。いまや世界経済は、徐々に好転してきている。『往く者は諫めるなかれ、来るものは憂うなかれ』と中国人は言うが、こうした変化に果敢に応対していかねばならない。
昨今、世界経済を成長させるエンジンは、深刻な転換を迫られている。新たな科学技術と産業革命が台頭し、デジタル経済とグローバリゼーションが加速的に発展し、新産業、新モデル、新業態が次々に創出されている。それらの発展の理念は、創新・協調・グリーン・開放・共益だ。
2030年まで持続的な発展を進めるためにも、気候変化を始め、世界規模のチャレンジに、国際社会が共通認識を持って対応していくべきだ。多国籍主義を堅持し、ウインウインの関係を追求し、緊密なパートナーシップ関係を打ち立て、人類は運命共同体だという意識を持って取り組んでいかねばならない。
世界経済の深刻な変転を前に、アジア太平洋地域では、改革と創新の大きな潮を湧き立たせるのか、それともそれらを遅らせて徘徊してしまうのか? 答えは明らかだ。われわれは共同で勇敢に立ち向かい、発展と繁栄の光明な未来を開闢するのだ。