昭和考古学とブログエッセイの旅へ

昭和の遺物を訪ねて考察する、『昭和考古学』の世界へようこそ

禁煙界のラスボス、禁煙鬱の憂鬱

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今年の5月に禁煙してから、今月でめでたく半年となりました。半年間、よく耐えた。自分の礼を言いたいくらいです。

これほど時間が経つと、ふだんの生活でタバコを吸いたくなる気持ち、いわゆる「吸魔」はほぼありません。

それでも時折、フラッシュバックのようにタバコが頭をよぎったりするので、全くないというのは嘘になります。しかし、以前と明らかに違うところは、同じタバコを吸いたいでも時間が経つと「思う時間」に違いが出てくることです。
禁煙始めから3日くらいは、四六時中タバコのことしか考えられません。CPUがすべて「タバコ吸いたい」になり、それ以外の思考の余地はありません。これを「魔の72時間」と言います。

その生き地獄のような72時間を越えると、たいていは楽になり、禁煙1ヶ月を越えると、「吸魔」は依然あるものの、別のことを考えると消えるほどの程度となります。意識しないとタバコのことなど忘れています。ただのニコチン中毒の方は、ここでほぼ「禁煙達成」です。
3ヶ月もすると、自分が以前喫煙者だったことすら記憶のどこかに飛んでいます。私もこうしてブログを書いていて、
「そうや、俺は5月まで吸ってたんやった」
と、まるで第三者目線になっています。

 

禁煙者には2つのタイプがあることが、自分自身の経験からわかってきました。
一つは「ニコチン中毒型」。禁煙者としては軽症のタイプで、「魔の72時間」は相当苦しいものの、それを越えるとそれまでの苦痛がウソのように楽になります。
また、禁煙外来やニコチンパッチなどが有効なタイプでもあります。


もう一つのタイプが「口唇期型」
「口唇期型」というのは私の造語ですが、いわゆる「口唇期」については以前ブログに書いたのでそれをご覧下さい。

 

parupuntenobu.hatenablog.jp

 

parupuntenobu.hatenablog.jp

 


いわゆる「口が寂しい」タイプですが、禁煙にとってこれほどの大敵はありません。
禁煙したければ禁煙外来に行く、もはや方程式になりつつありますが、これはあくまで「ニコチン中毒型」に有効なだけであって、「口唇期型」にはおそらく全く効きません。
今回は気合と根性だけで禁煙し、何故か成功しましたが、過去には禁煙外来でもらえる禁煙薬、チャンピックス以外すべて試したことがあります。しかし、効果は全くなし。心の奥底から出る「口の渇望感」とが、ニコチンの離脱症状より苦しいのです。なんというか、口に何か含んでいないと、ソワソワして落ち着かないのです。

 

ニコチンの離脱症状は、寝るか禁煙外来でチャンピックスを服用すればしのげます。つまり対策があるということ。
しかし、「口の渇望感」は赤ちゃんの時の「口唇期」に根っこがあると思われるので、根本的な対策はなし。どうしてもというのなら、禁煙外来ではなくて精神カウンセリングの方かも知れません。
根本的な対策がない以上、「口が寂しい病という不治の病と割り切って、死ぬまでお付き合いするしかないかなと半分諦めています。私は既に、「口唇期障害」「口唇期症候群」と自分で「病名」をつけてしまっています(笑

 

 

最強の離脱症状。それは禁煙鬱

禁煙者を苦しめる離脱症状は数あれど、その中で最強の症状があります。

その名は「禁煙鬱」

 

禁煙鬱は、読んで字の如く禁煙することによって引き起こされるうつ状態のことです。
禁煙していると最初は達成感や充実感などで心が充足されます。
しかし、次第にその快感が落ち着いてくる頃、急に不安になったり何もやる気が起こらなくなったり、うつ病に似た症状が出てくるのです。

禁煙鬱というものは私なりに定義すると、

「禁煙中のある期間に、うつ病と似たような、あるいは同じ症状が発生する一時的な症状」

ということです。
「禁煙ブルー」という人もいますが、私の経験論では、「禁煙鬱」と「禁煙ブルー」は少し別ものかなと。
「禁煙ブルー」は寝るとリセットされるものの、「禁煙鬱」は寝ようがなんだろうが続くという大きな違いがあるので。


禁煙鬱は、ネットの禁煙者コミュニティではかなり認知されている症状です。試しに「禁煙うつ」とググってみると、経験談がどっさり出てきます。

が、科学的(医学的)には認められていません。禁煙と鬱の因果関係がわからない以上、認めるわけにはいかない。これが医学界。
私も過去に禁煙外来で話したら、担当医に
「はいはいはい迷信乙」
と斬り捨てられた記憶があります。
しかし、禁煙するとうつ状態になる人がいるという現実は、どう説明するのか。頭の良い偉い人に言わせれば、「気のせい」なのでしょうが。

 

主な症状を箇条書きすると、

・すべてにおいてやる気が出ない、身体が動かない(謎の倦怠感)
・死にたくなる
・寂しさが増幅される
・根拠のない、理由不明の不安・情緒不安定
・理由もないのに泣いてしまう
・人に会いたくなくなるor億劫になる(プチ引きこもり)

などなど、うつ病とほとんど変わらない症状が出てきます。


最初の離脱症状の「イライラ感」「眠気」「吸魔」はどちらかというとベクトルが外向きの症状ですが、禁煙鬱は内向きと言えるかもしれません。

禁煙鬱は禁煙者が100%陥るものではなく、起こる時期も期間もバラバラ。それが余計に「気のせい」扱いされる所以です。

 

 

何故禁煙鬱が起こるのか?

これは医学界で認められていない以上、「これだ!」という原因はありません。


うつ病の原因でさえも、実はまだはっきりしていません。ただし、もう一息のところまでは迫っており、脳のある器官と脳内物質が絡んでいるのではないか、という事まではわかっています。
うつ病の人にほぼ共通する一つが、セロトニン分泌量が通常の人より少ない」ということ。

セロトニンとは神経伝達物質の一つで、ドーパミン」「ノルアドレナリンと並んで脳内三大神経伝達物質とされています。
セロトニンの役割は、「ドーパミン」「ノルアドレナリン」の過剰分泌を抑えること。この2つの物質が過剰分泌されると、いわゆる「暴走」を引き起こします。
また、安静と安心を与え冷静さと落ち着きを促す役割もあり、「脳内の精神安定剤」という言い方をしている人もいます。

そのセロトニンが不足するとどうなるのか。
やる気が出ない、気分が落ち込む、集中力がなくなる等・・・うつ病と似たような症状を起こすことがわかっています。
また、ドーパミンノルアドレナリンの「暴走」を抑えきれず感情のコントロールが上手くいかなくなり、キレやすくなったり衝動買いが増えたりして行動も変わってくると言います。

喫煙していると、ニコチンが神経伝達物質の代用品として脳をコントロールしてしまいます。特にセロトニンの役割である「心の平静」の主導権が完全にニコチンに握られることに。
脳は基本的に「楽をしたい生き物」です。サボれるのならサボりたい・・・これが脳の性格。
そこへニコチンがやってきて、
「あんたの仕事、俺がやってやるよ!」
と声をかけられると、脳は喜んで
「じゃあよろしく♪」
とお仕事を放り出して他人任せにしてしまいます。
ニコチンに任せっきりの脳は神経伝達物質、特にセロトニンの分泌を忘れ、脳がニコチンに乗っ取られてしまう状態に。これを俗に「ニコチン脳」と言います。
喫煙者が事を始める際、または終わった際にまず一服するのは、「ニコチン脳」によって脳の切り替えスイッチさえもニコチンで担っているということです。


そんな状態で禁煙を始めると、脳内ですでにセロトニンが自然分泌されなくなっているため、脳が
「大至急ニコチン補給の要を認める!」
という信号を発し続けます。禁煙始めの、寝る時以外すべての時間に襲う「吸魔」を、脳科学的に説明するとこんな感じ。
しかし、数日経ち全くニコチンが来ないと悟った脳は、重い腰を上げ自分で分泌しようとしますが、しばし他人任せにしていたため分泌方法を忘れています。
よって、一時的にセロトニンが空・・・とは言わないけれど、きわめて少ない状態になります。セロトニンの分泌が足りないと・・・つまりうつ病患者と同じ状態になるということです。

 

しかし、この理屈では説明できないことがあります。

上の理屈だと、脳がセロトニンなどを分泌し始めると症状が治まる上に、禁煙鬱は起こらないことになります。しかし、禁煙鬱はたいがい、禁煙を始めて数ヶ月後、人によっては1年後に起こったりします。1年もセロトニンが分泌できないなんて、今の医学界の理屈ではあり得ない。よって禁煙鬱なんてあり得ない。これが医学的見解です。

確かにこちらの方が筋が通っている気がするのですが、それでも禁煙鬱は現実に起こるんですよね。

 

私の禁煙鬱経験

禁煙鬱は、何の前触れもなく発生します。
私の場合も、ある日突然やる気がなくなりすべてが億劫で憂鬱な気分に。情緒が不安定になり、得体のしれぬ不安感に襲われました。
かといって仕事があるのでそうもいかず、動かない身体を引きずってなんとか出勤はしていました。しかし、上司「生ける屍」と言われたほど魂が抜けていました。
何故か、むしょうに過去を思い出したこともありました。
幼稚園から小学生、中学生から高校生へと昔の記憶が泉のように湧き出で、頭がパニックになるほど鮮明に思い出したこともありました。
何かの虫の知らせなのかと、幼いころに住んでいた場所へ戻ったこともありました。
それは禁煙鬱なのかと言われると科学的な根拠はないのですが、個人的には禁煙鬱の症状の一つだと思っています。

 

 

禁煙鬱になったらどうするか?

まるで永遠に続くんじゃないかという禁煙鬱も、当然永遠に続くわけではありません。長くても数週間でケロッとするのですが、おそらく、禁煙鬱は禁煙によるセロトニン分泌不足、または不安定が影響していると、私はにらんでいます。
となると理屈は簡単。セロトニンを増やせばいいのではないか。

セロトニン分泌方法は

 

・規則正しい生活

・規則正しい食事
・寝る前にスマホやPCなどをいじらない
・適度にリラックスする
・ストレスをためない

(参考記事:禁煙を始めるとうつ病の症状!?克服のためとるべき5つの対策とは | Midica(ミヂカ)

 

などがありますが、細かいことは言い出すとキリがない。

私のおすすめはただひとつ、「運動」です。

 

セロトニン分泌を活発にさせる方法の一つとして、「運動」があります。
これも、サイトによってはリズミカルな運動とかなんとか、どこからか貼ってつけたようなことを書いていますが、おそらくうつ病や禁煙鬱の経験者ではないなと。
言っちゃ悪いが、経験していないからどこかのコピペのようなことしか書けないし、説得力も字面からにじみ出てこない。

ただし、言っていること自体は正解です。
イギリスでは、太古の昔からこんなことが言い伝えられていたそうです。
「気分が滅入った時は体を動かせ」
英国ではこれを軽症のうつ病の治療に活かし効果を上げていましたが、科学的には深く突っ込んだ研究がされていませんでした。
それに目をつけたのがアメリカ。
アメリカで、自分で動けるうつ病患者に、毎日裸足で公園を30分間ウォーキングしてもらい、1ヶ月続けてもらいました。すると6割の人に改善効果があり、1年続けると9割に効果があったという結果が出ました。
アメリカでは既に、この結果を元に運動がうつ病の治療の一つとして取り上げられているとのことです。

私はNHKスペシャルで概要を知ったのですが(見た時はまだ実験段階)、この本でその科学的根拠(理屈)を知りました。

脳を鍛えるには運動しかない!  最新科学でわかった脳細胞の増やし方

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禁煙鬱の時にこれを知り、同じ「うつ」なら応用できるのではないかと。ウォーキングなどとこだわったり限定する必要はないと思います。「身体を動かすこと」自体が良いのではないかと。

私の場合の運動は、自転車でした。

ちと運動するかーとフンバツしてクロスバイクを買い、気分転換にちょっと遠出をすると、今まで見えなかった風景が見え、見慣れた近所なのに風景が新鮮に見えたことがありました。

または、通勤通学の帰り、いつも使う駅の手前1~2駅で下り、歩いて帰ってみるのも良いと思います。散歩で運動する上に、未知の世界を歩く新鮮さも得られます。スマホGoogle mapを使ってもいいので、敢えて知らない道を使ってみるのも、頭の清涼剤となります。たかがそれだけですが、かなり頭を使います。それだけでも軽いうつなら吹き飛びます。

 

生活に支障が出ている場合は、精神科受診も選択肢に

ただし、禁煙鬱が長引いた場合や症状がひどい場合、そして動けなくなったりふさぎ込んでしまった場合は、自己診断は禁物。精神科・心療内科への受診もおすすめします。

特に「死にたい」「生きる意味を失った」となると突発的に自殺する可能性もありえます。これは机上の理屈ですが、禁煙鬱でも同じ「うつ」なら抗うつ剤精神安定剤でかなり和らぐはずです。

ただし、禁煙鬱は医学界では認められていないので、自分の鬱状態をどう説明するかですね。

最後に、禁煙鬱は本当にあります。都市伝説ではありません。
私のように「はいはい迷信乙」で片付けられないよう、一刻も早い世間への認知を望みます。