NTTドコモが発表した2画面の折り畳み式スマートフォン「M」=10月、東京都中央区

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 インターネット接続サービス「iモード」時代に日本独自の進化を遂げて「ガラケー」と呼ばれた従来型携帯電話(フィーチャーフォン)を多数生み出したNTTドコモが、スマートフォン時代の今、再び独自スマホの開発に力を入れ始めた。

 第1弾として年明けに2画面の折り畳み式スマホ「M」を投入するのに続き、3画面折り畳み式なども構想中だ。米アップルなど世界のスマホメーカーや各国の携帯事業者も注目する折り畳み式をいち早く開発したのは、無線技術者として日本初の携帯電話開発に携わった吉沢和弘社長と森健一執行役員プロダクト部長の「あうんの呼吸」があった。そのワケとは…。

 「ほら」

 今夏、吉沢氏が森氏に見せた古い資料には「未来の携帯電話」として、今のスマホのような端末のコンテ図が描かれていた。その資料は、数字のみを表示する携帯電話しか世になかった1990年代前半のものだったという。

 「あ、やはり、ドコモの前身(エヌ・ティ・ティ移動通信網)の時代から、こういう未来の携帯電話を開発する思いは魂としてあったんだと感じ、社長から大きく背中を押してもらった」

 森氏は、将来のスマホ構想を吉沢氏に説明した際のこんなやり取りを打ち明けた。

 将来のスマホ構想の中には、「変態端末」と呼ばれるほど独自色豊かな機種もあったガラケー時代の技術を応用したものもあるという。来年1月以降に発売するMは、2つの画面を合わせて大画面で動画視聴などを楽しめるが、画面部分とキーボード部分が2つに分かれるセパレート式など「やりようによっては受けるかもしれない」と森氏は意欲を示す。

 「ガラケー時代に変態端末を開発した精神が、今の技術で新たな商品として新しい光を放つこともあるのでは」とも意気込む。

 ただ、もちろん、一部の物好き向けだけに独自スマホを開発し続けるつもりはない。Mは、現在の10倍の高速大容量通信が可能になる第5世代(5G)移動通信方式の平成32年実用化を控える今だからこそ開発する意味があると考える。

 森氏は「大画面で大容量の動画を見ることができるようになる5Gの時代が到来すると、大画面と持ち運びやすさを両立できる折り畳み式は、スマホの業界標準(デファクトスタンダード)になる可能性もある」と予想する。実際、Mは、ある国の携帯電話事業者から「自国の他の携帯事業者が販売できないよう、当社と独占契約を結んでくれ」と頼まれるほど好評だったという。

 「折り畳み式スマホは今後、第2弾も第3弾もある。スーツの内ポケットから取り出して3画面に広げてタブレット端末並みの大きさにできれば新聞も見やすい。私自身も欲しい」

 森氏はこう夢を語る。

 ガラケー時代にさまざまな独自端末を国内メーカーと共同開発したドコモを含む日本の携帯事業者は、海外展開に失敗した苦い過去がある。

 だからこそ、ドコモは今回、中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)と組んでMを開発。その上で、積極的に海外携帯事業者へセールスするなど当初から「海外」を見据えていた。その結果、米通信大手AT&Tと英大手ボーダフォンが販売を決め、ロイヤルティー収入もドコモに入る仕組みになっている。

 ただ、世界のライバルも指をくわえているわけではない。Mは2画面をヒンジ(ちょうつがい)でつなぐ方式のため、どうしても画面と画面の間に隙間が生じる。これに対し、韓国サムスン電子は画面そのものを折り畳み、見開きで楽しめるスマホを来年にも商品化する見通しだ。耐久性など商品化のハードルは高そうだが、得意とする有機ELパネルの曲がる特性を生かし、こうした課題の克服を急ぐ。アップルも折り畳み式iPhone(アイフォーン)を検討しているとみられる。

 折り畳み式など次世代スマホのデファクトスタンダード争奪戦はもう本格化しつつある。ドコモは今後、ガラケー時代に培った技術を生かし、国内だけでなく世界で通用する独自スマホを次々に投入する予定だ。ガラケーのリベンジを果たせるか-。逆襲のドコモに注目が集まる。(経済本部 大坪玲央)

 NTTドコモ NTTの子会社で、携帯電話など無線通信サービスを提供する日本の最大手移動体通信事業者。平成3年8月、NTTから分離・独立しエヌ・ティ・ティ・移動通信企画を設立。商号はエヌ・ティ・ティ移動通信網、エヌ・ティ・ティ・ドコモを経て25年10月からNTTドコモ。平成29年3月期の連結売上高は4兆5846億円。携帯電話の契約件数は7488万件でシェア46%。