【ベルリン=石川潤】メルケル独首相が率いるキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)、自由民主党(FDP)、緑の党による3党連立協議が決裂した。19日深夜、FDPのリントナー党首は記者団に「誤った統治をするぐらいなら統治しない方がよい」と述べ、協議からの離脱を表明。メルケル氏も「共通の解を見つけられなかった」と協議決裂を認めた。次の政権の行方は極めて不透明になり、ドイツや欧州の政治が不安定になるリスクが高まっている。
3党は11月16日を期限に基本合意を目指してきたが、難民問題や地球温暖化対策についての政策の違いを埋めきれず、19日に期限を延長して協議を続けてきた。だが同日深夜になっても合意の見通しが立たず、これ以上議論を重ねても、政策を一致させるのは難しいと判断したようだ。
メルケル首相は20日未明、リントナー氏の発言を受け、FDPの連立協議からの離脱について「共通の解を見つけられなかったことを残念に思う」と述べた。
連立協議は9月24日の独連邦議会選挙を受け、10月半ばから約1カ月続いていた。親ビジネスのFDPと環境政党の緑の党の主張が激しく対立し、当初から波乱含みだった。終盤には互いに歩み寄りの姿勢もみせていたが、妥協しすぎると党内を説得しきれなくなるとの懸念が各党それぞれに浮上し、合意の障壁となっていた。
特に難民問題では、緑の党がシリアなどからの難民の家族を受け入れるように主張したのに対し、CDU・CSUとFDPが強く反対していた。地球温暖化対策では、緑の党が石炭火力発電の廃止を主張し、FDPなどが経済に悪影響を与えると反発していた。
協議の決裂によって、今後の選択肢は(1)CDU・CSUがほかの連立相手を探す(2)少数与党政権(3)再選挙――の3つとなる。ただ、ほかの連立相手を探すにも、第2党のドイツ社会民主党(SPD)は下野する意向を繰り返し示しており、連立協議に応じるかは微妙だ。ほかの組み合わせで過半数を握るのも、かなり難しい状況といえる。
少数与党政権になれば、政策ごとに閣外協力などを得る必要があり、政権基盤は不安定となる。再選挙に踏み切るにしても、安定政権につながる結果を得られるとは限らず慎重論が強い。
いずれにしても、すぐには次期政権の展望を開くことは困難で、ドイツに政治空白が生まれかねない。欧州1強といわれるドイツの政策決定が滞れば、マクロン仏大統領が唱えるユーロ圏改革にブレーキが掛かるなど、欧州政治にも影響が広がる。
12月には英欧州連合(EU)離脱交渉がヤマ場を迎える。12月14~15日にブリュッセルで開くEU首脳会議で、英側が求める将来の通商協議入りを承認するかどうかが焦点だが、メルケル氏の求心力が低下するなか、難しい政治決断を下せるかが課題になる。
主要7カ国(G7)首脳を最も長く務めるメルケル氏は、自由や民主主義といった西側先進国の価値観の重しの役割を果たしてきた。ドイツの政治力の低下は、ポピュリズム(大衆迎合主義)の台頭に揺れる世界をさらに不安定にしかねない。