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発刊:2016年7月21日(文藝春秋)
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November 20, 2017 09:00
by 牧野武文
中国のネット民「安大也」のブログが話題を呼んでいる。安大也は、無線中継機を使って、5キロ先のネット回線にタダ乗りすることに成功したからだ。安大也が投稿をしたニュースメディア『今日頭条』には、多くのコメントがつき、賞賛の声が寄せられている。
安大也の自宅には4MBプランのブロードバンドしかなく、しかもベストエフォート型のため、実際は4MB/sも出ず大いに不満に感じていた。PC、スマートテレビ、複数台のスマートフォンを同時に使ので、どうしても40MBレベルの速度が欲しかった。
友人が高速ブロードバンドを自宅に導入した話を耳にした安大也は、せめて職場の回線をなんとか利用できないかと考えた。だが問題は、安大也の自宅と職場は、直線距離にして1.3キロも離れていることだった。
それでも見通せることができるのであれば、深セン市のメーカーTP-Linkの無線LAN中継器を使って、1.3キロを中継できるのではないかと思いついた。2.4GHzの電波を使えば直進性が高いので、できるかもしれないと考えた。
しかし職場も自宅も13階にあるのだが、途中に高層マンションがあるため遮られており、直線で見通すことができないことだ。
ところが、遮っている高層マンションをよくみると、2棟が並んで建っていて、間が空いている。2.4GHzの電波は直進性が高く、反射をしやすいので、2棟の間を反射しながら、うまくすり抜けてくるのではないかとも思えた。
自宅と職場の直線距離は約1.3キロメートル。ただし、途中がやや土地が高くなっており、しかも邪魔な高層マンションがあり、直線では見通せない(「今日頭条」より)
自宅から職場方向を見た風景。じゃまな高層マンションがあるが、直進性のある電波が2棟の間を反射しながらすり抜けてきそうだ(「今日頭条」より)
安大也は、個人間取引サイト「タオバオ」(淘宝網)でTP-Linkの無線LAN中継器を改造し、出力をあげたものを入手した。さらに、アンテナの角度を調整するなどの試行錯誤をした後、見事職場のブロードバンド環境に自宅から接続することに成功した。
残念なことに電波が弱く、下りの速度を測定してみると0.3〜0.5MB/s程度の速度しか出なかった。それでも何かの拍子に、調子がよくなり0.7〜0.9MB/s程度の速度が出ることもあった。それから半月、さまざまな試行錯誤、アンテナの向きの調整を職場と自宅でしながら、約0.8MB/sの速度の安定運用ができるようになった。
これは自宅の4Mプランのブロードバンド回線と同じ実測値になり、充分の満足できる成果が得られた。
使用した中継器のアンテナ。これで直進性の高い2.4GHzの電波を発射して、中継をする(「今日頭条」より)
0.8MB/s程度の速度で安定運用できるようになった。高速ではないが、安大也としては充分な成果だった(「今日頭条」より)
安大也の実家は農村にあり、ネットの接続はもっと貧しい環境だった。ブロードバンドのサービス地域から外れてしまうため、携帯電話ネットワークの3G回線を利用するしかない。年に何回か帰郷した時に、インターネットを使いたくても3G回線では通信費が高くなってしまう。
ブロードバンド回線を利用するには、直線距離で約5キロ離れた町へ行く必要があった。安大也は町に友人の家があり、その友人はブロードバンドを導入していたので、その家でインターネットを使わせてもらっていた。
安大也は、自宅でブロードバンドを中継した経験を活かして、今度は実家から友人の家までの5キロを中継してみようと考えた。
安大也の実家は丘の麓にあり、丘が邪魔をしているため実家と友人の家は直線で見通せない。近くの山に中継点を作り、そこで電波を反射させるという方法をとることにした。
幸いにも友人の家は比較的高い場所にあり、敷地の中に見通しのいいテラスがある。しかも、なんの目的だがわからないが、古びた鉄パイプまで設置されているので、そこにWi-Fi電波を反射するアンテナを設置した。
かなり複雑な構成になってしまい、友人は不可能ではないかと言う。安大也本人もさすがに難しいだろうと思いながらの作業になったが、実際にやってみると、意外にも1.91MB/sの速度が出て、しかも安定運用できた。理由はよくわからないが、農村であるため、干渉する電波が少ないからではないかと思われる。
実家の方は、5キロの距離があり、しかも実家が窪地にあるため、近くの山で反射をさせて中継するという複雑な方法をとるしかない(「今日頭条」より)
実家付近の様子。裏山に中継器を設置し、実家横の電柱の上に受信機を。そこからは有線で実家にネット回線を引き込んでいる(「今日頭条」より)
5キロも中継をしているのに、1.91MB/s の速度での運用が可能になった(「今日頭条」より)
中国では、ほぼ全土にブロードバンドが提供されていることになっているが、一昔前の日本の「携帯電話カバー率」と同じだ。つまり、その自治体の中心地に提供されていれば、その地域すべてがカバーされる計算で、統計情報が作られている。そのため都市部であっても、ブロードバンドが提供されていない地域が、飛び地のように点在している。
ネットを四六時中使いたい若者にとって、自宅がブロードバンド提供地域に入っているかどうかは切実な問題だ。また中規模都市では、自宅の回線速度がなかなか上がらないため、リアルタイムネットワークゲームを楽しみたい人は、高速回線が確保されているネットカフェに行く習慣もまだ残っている。
その中で、安大也がブログに投稿した記事は、大きな反響を呼んだ。おそらく、真似をしてブロードバンドの中継を試みる人も出てくるだろう。ただしこの接続方法にはいろいろなリスク(セキュリティはもちろん会社との問題も)があり、真似する人が増えれば、各種問題が出てくることも懸念されている。
寛帯(kuandai):ブロードバンド。現在、中国のブロードバンド加入世帯は約2億7000万世帯で世界1位。光ファイバーが急増する一方、DSLが激減していて、世代交代が起きている。
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