筆者は生まれも育ちもラーメン激戦区・高田馬場です。
ラーメンが好きでいろいろな店に行くうちに「あれ、またこの製麺箱か」と興味を持ったのが『三河屋製麺』の麺箱でした。調べてみると色々な人気店に関わっていて、Twitterでも #三河屋製麺 とハッシュタグを付ける方もいるくらいの人気。これはただ者ではない!
近年、レビューサイト等で目にする低加水麺、多加水麺という言葉。本当の意味を製麺のプロに聞いてみようと思いたち、「株式会社三河屋製麺」 代表取締役の宮内様にインタビューをしたところ、意外な事実がわかりました。
そもそも『製麺所』は何をするところ?
皆さんは、『製麺所』をご存じですか?何をするところでしょうか?
その名のとおり、麺を作ることを生業とする会社。最近は店からの細かなオーダーを受けつけるところが多く、その味はけっして自家製麺のものにも劣らない。
引用:製麺所とは - ラーメン用語 Weblio辞書
つまり、麺を作る会社ですね。
通常、ラーメン屋では「製麺所」に注文した麺を使用する場合と、自店で機械を購入し、オリジナルの「自家製麺」を作る2通りがあります。今回は「製麺所」に着目し、ご紹介いたします。
まずはラーメン屋が描く麺のイメージをヒアリング。その上で提案、試食…要望に近づいていく。
宮内様:「低加水麺」、「多加水麺」でも、イメージで言っていただければ問題ありません。「硬いやつ」「滑らかなもの」「伸びにくい」「もっちりしている」等でもOKです。そういった話をヒアリングした上で提案をします。
1番良いのは一緒に試食をしていただくこと。麺の感想を聞き、“もうちょっとつるっとした方が良い”など要望があれば、試食の麺をベースに改良します。また、具体的な有名店のイメージなどがあればそれに近いものを作ります。1本お電話をいただければ喜んで提案に伺います!
-オリジナルで作ってもらうと、料金はその分高くなりますか?
宮内様:麺の料金は材料費をもとに算出しているので、オリジナルだから高いということはありません。注文数が多ければある程度安くなります。その代わり、1度作った在庫数は必ず引き取って欲しいです。
大切なのは、ラーメン屋が“求めている麺”に寄り添うこと
-どのようなプロセスで、ラーメン屋の求めている麺と噛み合っていくのでしょうか。
宮内様:20年前から考えると今はとんでもない数の麺が存在します。「太い麺にしてくれ」と言われて、どんどん太い麺を要求されたことがありました。今までの常識から外れるくらいまで太くなり、うどん用の刃で切って持っていくと、それが採用されたんです。結果、それが世の中ではやってしまいました。常識を外れて独自路線を貫いていると、こうしてはやることもあります。
そういった部分で三河屋製麺も評価をいただくことがありますが、自分は「そんなに太い麺はやめた方がいいんじゃないか」とずっと言っていました(笑)。
⇒商品案内 | ラーメン つけ麺の麺は業務用生中華麺専門の製麺所 三河屋製麺
-想定外のことも起きるんですね…。麺のアイテム数は今どのくらいですか?
宮内様:今は200以上のアイテムがあります。今あるアイテムは、全て誰かの特注麺でした。
専属で誰かに流さない約束の麺というものもありますし、他の店が使用していいものもあります。気に入った店がその麺を使えば、在庫が回ってまた新鮮な麺が手に入る。その内最初に注文した人が麺を変えたとしても、そのアイテムは残ります。途中で製造を止めたものもありますので、20年間では数え切れないほどのアイテム数です。
製麺のプロに聞く。麺の「加水率」って?
宮内様:実のところ、低加水の麺、多加水の麺というものはありますが、この「加水率」は明確に定義されていないんです。
麺生地を練る時の水の量が多いか少ないかだけで、ざっくり言うと加水30%以下は低加水、37~38%以上は多加水と言われています。
例えば100gの粉に水を30cc入れたら、加水30%。つまり粉に対する水の量のことです。しかし、自分たち製麺業者にとってこの数字はそれほど意味がなく、同じ30%でも全然違う硬さを作ることができます。食べてもらって、「ちょっと柔らかいから硬くして」「今30%だから29%にしようか」などの会話はもちろんあります。ですが、「とりあえず30%の麺をもってきて」となると定義がないので難しい。そういう時には低加水麺を求めているんだな、と察知しています。
-加水率の計算方法は、会社によって違う?
宮内様:はい、加水率の計算方法は会社によって異なる場合があります。
三河屋製麺では小麦粉100に対して、水分を割ります。この水分には「塩、かんすい、生卵」など水以外のものも含まれていて、それらが入っていても、加水率として計算します。水に溶けるものは全て“水”として目方を測るということです。そこに業界的な決まりはないので、会社によっては純粋に水のみを計ります。
ベースとなる粉も、実際には小麦粉以外のものが含まれることもあり、当然粉の量は増えますが、小麦粉だけで計算します。計算方法については定義がなくあやふやで、同じ会社とだけ取引をするのであれば問題ありませんが、他社と比較する際にはよく聞かないと全く違う麺ができあがります。何%の麺を使っている、ということだけでは不十分というワケです。
そのため、「伝えた麺と違う!」と言われることもあります。こちらの基準で持っていっても、ラーメン屋の基準には合わず、加水の定義は難しい。粉が強力粉、準強力粉、中力粉とあった時に、同じ30%の加水で全く同じ工程で作っても、全く違う硬さの麺ができます。それもまた、加水が当てにならなくなる要因です。
『自家製麺』を作るラーメン店のメリットやコストは?
宮内様:店主自身のこだわりで自分で作らないと気がすまないとか、製麺機を使わずに手打ち麺を作るのなら良いと思いますが、それ以外の理由で自家製麺にするのは私の個人的な意見としては、あまりメリットは少ないと感じています。
よく原料費のみで安く作れると考えている場合が多いようですが実際には、原価の三大要素である人件費、製麺スペースの地代家賃、メンテナンス費用も加味すると、製麺所から購入する場合と比較して割高になる場合もあります。小型の製麺機は安いもので70~80万円、本格的に作るなら300~400万円ほど必要です。
さらに、2店舗目ができると輸送コストも掛かってきます。各店舗ごとにしっかりと設備を整えるか、セントラルキッチンを作り、麺だけでなくスープ食材も全部運ぶかだと思います。自家製麺を作ることは、そんなに簡単ではないということです。
-自家製麺は、品質としてはどうですか?
宮内様:自家製麺の小さい機械は、そのほとんどがローラー1個で稼動しています。その点、製麺所の機械には大小複数のローラーがついています。機械製麺ではロール圧延も一種の練り工程と考えていますので、その全てを1個で済ませるには少し無理があります。
どの様な麺を製造するのかにもよりますが、小径ローラーのみの小型製麺機は理想通りの圧延をすることが難しいです。自家製麺で比較的細い麺、特に九州ラーメンのような超低加水の細麺を製造するのは非常にやっかいです。われわれが作っても難しいくらいです。ですが、つけ麺のような太麺なら問題ないと思います!
必死に売り込む努力を。オーダーメイドの特注麺といえば、『三河屋製麺』とまで言われるように
-“三河屋製麺といえばオーダーメイドの特注麺”として知られるようになったのはなぜですか。
宮内様:うちは中華麺のシェアでいうと、実は後発です。私自身はこの仕事をはじめて25年、社長になってからは17年なのですが、当初は中華麺はほとんど扱っておらず、そばやうどん麺を製造していました。
そんな中、ラーメン界では「96年組」と言われる麺屋武蔵、中野青葉、くじら軒などがオープンし、「ご当地」ラーメンではなく「ご当人」のラーメンがはやり出しました。味だけではなく経営者が出てきて、“湯切りがどう”といった形でもラーメンが盛り上がっていた時期です。
その時期に私が社長になり、世代が変わるタイミングでラーメンに切り替えたんです。ほとんど中華麺のラインナップもない中、運よくラーメン博物館の取引なども開始することができ、そこでひいきにしてもらえるようになりました。しかし、売り込むにあたってはアイテムが少なく、とにかくいろいろなものを一生懸命作り、「作ったので見てくれ!」という形でラーメン屋に売り込んでいきました。ダメ出しをされて、また要望を聞いてと、それを繰り返すうちに徐々にラインナップも増えていきました。
当時、中華麺を製造する会社で“特注麺を作る”ところはあまり見かけず、三河屋製麺は後発で知名度も何もないので、必死に売り込む努力をしました。営業努力をしていくうちに、時代が追いついてきたんです。また、注文を受けたラーメン店が有名になると、麺にも注目が集まります。「そこの麺はどの会社だ」となり、結果的に知名度向上につながったのだと思います。
-Twitterなどでも、#三河屋製麺というハッシュタグを付けているラーメン画像をよく見ますね。
宮内様:何かのきっかけで『製麺業者』があることに気づいてもらえると、普段行っているラーメン店の麺箱まで見てもらえるようになります。裏方の仕事ですが、名前を知っていただけるのはうれしいですね。
ラーメン屋の開業を目指している方へ
・低下水麺と多加水麺は存在するが、「加水率」に明確な定義はない。
・加水率は、会社によって計算の仕方が違う。
・『自家製麺』は費用面、スペース面から考えると簡単ではない。
・麺を注文する際は、ざっくりした「イメージ」からでもOK。徐々に要望に近づけていく。
・“オリジナル麺”を発注することも可能。
業界のプロとしてラーメンにまつわる幅広いお話を伺うことができ、製麺所としての「プロ意識」を感じました。
「製麺所の麺」と「自家製麺」はどちらがいいのか?!ラーメン業界は競争も移り変わりも激しい業界です。麺についてお困りの方、変更を考えている方は、まずは気さくな宮内様に電話一本、相談してみてはいかがでしょうか。
www.mikawayaseimen.com
カラメヤサイニンニク
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