安倍晋三首相は、17日の所信表明演説で「幼児教育の無償化を一気に進める」と述べた。こんな内容だ。

 2020年度までに、3歳から5歳まで、すべての子どもたちの幼稚園や保育園の費用を無償化する。0~2歳については、低所得世帯を対象に無償化を図る。

 19年10月に消費税率が8%から10%に上がることになっており、増税分を無償化などの財源に充てる。

 来月上旬、教育無償化などを盛り込んだ2兆円規模の政策パッケージを取りまとめる予定だ。だが、制度設計に向けた本格的な議論は始まったばかりである。

 増税分の使い道を変更し、教育無償化などに充てることは、自民党内でも国会でも、議論らしい議論がなかった。 自民党や国会での議論を「中抜き」し、安倍首相の一存で唐突に選挙公約に掲げ、解散に踏み切ったのである。

 本来なら国民に信を問う前に、党内議論を深め、国会で審議を尽くすべきだった。制度設計が不十分なまま公約に掲げたため、今になって、見直しを余儀なくされる事態に陥っている。

 政府は幼児教育・保育の無償化について、財源に限界があるとして、当初、認可外保育施設を無償化の対象から外す考えだった。

 方針を転換し、認可外施設を対象に加えることになったのは、子育て世代から「不公平だ」「公約に反する」と反発が相次いだからだ。

 無償化よりも待機児童問題の解決を優先すべきとの声は今も多い。

■    ■

 現在の保育料は所得に応じて設定され、低所得世帯などは既に無償化されている。3~5歳で所得制限を設けずに無償化した場合、所得の高い世帯ほど大きな恩恵を受けることになる。

 自民党が17日に発表した教育無償化などに関する提言骨子案は、金持ち優遇にならないよう上限を設けることを求めているが、無償化に制限を加えればこれも選挙公約に反することになる。

 幼児教育が無償化されれば、子どもを保育所に預けて働く親が増えるのは確実だ。それに見合った施設の整備、保育士の確保が進まなければ、待機児童問題は悪化するおそれがある。

 優先すべき課題は何なのか。国会で審議を尽くし、合意形成への努力を惜しまず、丁寧に制度設計を進めてもらいたい。

 子どもの貧困対策を進める沖縄県にとって無償化は所得格差や貧困の世代間連鎖を解消する絶好の機会だ。

■    ■

 2兆円の政策パッケージが固まった段階で、県は次年度以降の無償化対応策をまとめる必要がある。

 幼児教育であれ高等教育であれ、無償化が効果的に運用されれば、貧困の世代間連鎖を断ち切る有効な政策手段になるだろう。

 内閣府沖縄担当部局に一括計上される沖縄振興予算もこの際、見直したほうがいい。 ハコモノ中心のハード事業から、人への投資を重視したソフト事業へ。施策の重心を移行させる時だ。