日本学術会議で関村直人等が行った津波検証の問題点-特に福島県2007年津波想定について-
当記事は「福島原発沖日本海溝での地震津波を前提にGPS波浪計を設置していた国土交通省」の続編と捉えて欲しい。国土交通省と福島県が一体どのような津波対策を取ったのかについて、日本学術会議の検証に反論する形で分かったことをまとめたものである。
【1】『原発と大津波』を無視する日本学術会議の「検証」
最近、日本の国立アカデミーで内閣府の機関でもある日本学術会議の中で、次のような検証作業が行われたことを知った。
福島第一原子力発電所事故以前の津波高さに関する検討経緯-想定津波高さと東電の対応の推移-(日本学術会議、2017年8月1日)
参考資料 福島第一原子力発電所事故発生以前の津波高さに関する検討経緯(日本学術会議、2017年8月1日)
検証結果の趣旨は「東電は事前に分からなかったのだから津波想定で失敗したのは仕方がない」というもののようだ。
検証作業は18回に渡って行われたそうで、検討に当たった委員会は下記のメンバーである。
委員長 松岡 猛 (宇都宮大学)
幹事 澤田 隆 (元日本工学会事務局長)
委員 矢川 元基 (原子力安全研究協会会長)
関村 直人 (東京大学)
柘植 綾夫 (科学技術国際交流センター会長)
成合 英樹 (筑波大学名誉教授)
白鳥 正樹 (横浜国立大学名誉教授)
宮野 廣 (法政大学)
吉田 至孝 (福井大学、原子力安全システム研究所)
亀田 弘行 (京都大学名誉教授)
学術団体の元締めにも拘らず、津波工学者はおろか、地震学者すら入っていない。一方で、爆破弁発言で醜態を晒した関村直人が参加している(なお、爆破弁発言の検証は無い)。また、福島原発事故の前から諸外国の過酷事故対策を知りながら、原発宣伝を優先するように策動していた原子力安全研究協会が名を連ねている(同協会の犯した罪についてはいずれ機会を見て書くことになるだろう)。
本文と参考文献一覧を見たが、添田孝史『原発と大津波 警告を葬った人々』や海渡雄一他『朝日新聞「吉田調書報道」は誤報ではない: 隠された原発情報との闘い』などの新資料を提示した文献は軒並み無視されている。
一方で、「話題」スライドが存在している。
残念だが、東日本大震災の後に津波研究を行った者達が発表した論文は震災津波の解析や今後の研究技術のあり方などに関するものが大半で、福島第一の津波想定を検証するような論文は見かけた記憶が無い。また、数少ないそうした論文があったとしても、日本学術会議が指摘するような「話題」が提起されたことも無いだろう。彼等が「話題はあくまで学術会議内でのことを指すのだ」と言い張るのでなければ、それらは、各地の訴訟や添田孝史氏、共同通信の鎮目記者等が提供したものである。
都合の悪い文献を無視すれば、東電や国に有利な結論に導くことは簡単だ。では何故、今更こんな検証を行ったのだろうか。恐らく、組織の名前を使ってオーソライズすることを狙っている。場合によっては第3者の検証事例の一環として、反論材料として訴訟で提示したかったのだろう。控訴審投入用の予備隊といったところか。
だが、重要な指摘を無視して行う反証に価値は無い。ついでに言えば、日本学術会議は初期のJEAG、小林論文、損害保険算定会から、国交省(=国家自身)が行った津波想定も軒並み無視している。大きな間違いの一つはここにある。
【2】福島県2007年想定について再考する
ただし、当記事はここで終わらない。日本学術会議が取り上げた資料の見方にも、問題のあるものが潜んでいる。例えば、福島県が行った2007年の津波想定が、東電の最新の津波想定より低いと評価した事実が証拠の一つとして書かれている。今回はこの福島県の津波想定について一度考えてみたい。
【2-1】これまで認識されてきた経緯
日本学術会議の検証結果では次のように書かれている。
東京電力は、自治体が評価した防災上の津波計算結果を把握し、対策が不要であることを確認していた。
福島第一原子力発電所事故以前の津波高さに関する検討経緯-想定津波高さと東電の対応の推移-(日本学術会議、2017年8月1日)PDF21枚目
日本学術会議が元にしたと思しき、東電事故調の記述は次のようになっている。
『福島原子力事故調査報告書』東京電力2012年6月20日P19より。赤枠(筆者)の部分が2007年福島県想定。直前の文章では
平成19年6月、福島県の防災上の津波計算結果を入手し、福島県が想定した津波高さが当社の津波評価結果を上回らないことを確認した。
と記載されている。
政府事故調も大体同じである(『政府事故調中間報告(本文編)』2011年12月P394)。
この点については、私を含めて誰も異を唱えてこなかった。異を唱える場合は、他の津波想定を隠していただろとか、そういう文句の付け方だった。
だがこれは私を含め、そもそも福島県が何故2007年に津波想定を行ったのかについて、検証してこなかったからだ。そして、福島県自身も検証したという話は聞かない(茨城、宮城、岩手では東日本大震災の対応をまとめた記録を刊行した際、曲がりなりにも事前の津波想定について検証作業が行われた)。隠蔽で有名な集団だから、無くても特に驚きはしないが。
【2-2】スマトラ沖インド洋大津波後、国交省の指導を受けて津波想定した福島県
話は、2004年12月のスマトラ沖地震津波から始まる。この災害は日本の防災関係者に大きな影響を与えた。学者達が議論してきた地質構造の細かな相違は、防災行政上は特に議論にもならず、同じような津波が日本近海の海溝型地震で起こったらどうなるかに関心が向けられた。
国土交通省はスマトラ沖の教訓化を急ぎ「津波対策検討委員会」を発足、2005年3月に提言をまとめ、その中で「概ね5年以内に可能な施策」を盛り込んだ。当ブログで既にふれた閘門管理システムやGPS波浪計の整備もそうした施策だが、住民が避難する際に役立てることを目的としたハザードマップも、次のように決められた。
重要沿岸域のすべての市町村で津波ハザードマップが策定できるよう、津波浸水想定区域図を作成、公表。
津波対策検討委員会 提言 2005年3月
福島県沿岸は全て重要沿岸域に包含された。
なお、「津波想定を行ってハザードマップ作成」という方針は2003年に国交省で作成した「ハザードマップ作成マニュアル」で示しており、スマトラ沖の後もその方針を踏襲していた。県のHPからは削除されているが、当時次のように案内していたことも裏書きする(この他、国土交通省東北地方整備局 東北地方水災害予報センターには今でも津波浸水想定区域図へのリンクが残っている)。
福島県では、平成18年度から平成19年度にかけて、県内の沿岸市町が作成する津波ハザードマップや津波避難計画の作成支援を目的として、津波想定調査を実施し、津波浸水想定区域図を作成するとともに、津波による被害想定を行いました。
福島県津波想定調査(福島県HP、アーカイブ)
これが福島県の2007年調査が行われた背景である。作業分担としては次のようになったようだ。
- 津波浸水想定区域図:県で作成
- ハザードマップ:各自治体で作成
コラム
なお、スマトラ沖がきっかけとなり、国土交通省の方針に従って津波想定を行ったのは茨城県も同様である(当方も2014年3月に茨城県に照会して確認済み)。一方、津波常襲地帯として知られていた宮城などは99年度の津波浸水予測図に対応して先に動いていたから、スマトラ沖の前に県レベルでの津波想定は作成していた。
【2-3】推本予測を元に想定を求められたのに何故か推本予測を捨てた福島県
ところが、福島県はここで間違いを犯した。調査報告をまとめるにあたって、内閣府の下部組織である中央防災会議の資料のみを参考に想定地震を決定したのである。その結果、福島県沖での海溝地震は想定から除去されてしまった。
東電原発訴訟を追っている人は御存知の通り、2000年の省庁再編以降、国の津波想定を扱う防災組織は大きく分けて2つあると認識されていた。
- 中央防災会議:1960年の伊勢湾台風を契機に設立。政府の防災方針を決める。内閣府運営。
- 地震研究推進本部(推本):1995年の阪神大震災後設立。地震の研究観測を集約して防災に反映させる。文部科学省運営。
福島第一原発の沖合を含む日本海溝沿いでマグニチュード8クラスの津波地震が30年以内に20%程度の確率で発生すると予測したのは推本で、2002年7月のことである。しかし、中央防災会議は2004年2月の会合でこれを対象外とする旨を決定したのである。
出典:もっかい事故調オープンセミナー「原発と大津波 警告を葬った人々」発表資料P49(リンク)
ところが、福島県が推本予測を無視するのは論理矛盾であった。まず、ハザードマップ作成マニュアルでは、次のように推本予測も考慮するように書かれていたからである。
「津波・高潮ハザードマップマニュアル(案)」国土交通省津波・高潮ハザードマップ研究会事務局(2003年12月) PDF14枚目
更に決定的材料として「津波対策検討委員会」が重要沿岸域に東北地方太平洋岸を含めたのは、推本予測を意識したからであった。
「説明資料1 我が国における津波被害と防災認識」津波対策検討委員会(2005年2月6日配布)PDF8枚目
「津波対策検討委員会が推本予測を捨てなかったこと」は極めて重要である。2004年に中央防災会議が推本予測を「捨てた後」の出来事であり、自治体の防災行政に直接の影響を与えたからである。言い換えるならば、中央防災会議(内閣府)が捨てた推本予測を、国土交通省はもう一度拾い、3番目のプレイヤーとして躍り出たのだ。この決断のために裏で御膳立てした官僚は激賞されて良い。原発事故と言う観点からは、それ程価値のある決断と言える。
これが、福島県が津波シミュレーションを行っても10m以上の水位が得られなかった原因の一つ目である。推本の言う通り福島沖に波源を置いてシミュレーションすると原発前面に10m以上の大津波が来ることは、東電自身がこの数年後に秘密裏に計算していた(事故後の報道で判明)。
したがって、2007年の福島県津波想定調査は、津波対策検討委員会提言の要求を満たさない、欠陥調査であり、行政不作為である。これ程の悪影響をもたらした行政不作為が長年にわたり解明されていないのは極めて不健全である。
【2-4】東電の福島県津波想定ミス解釈~そのまま当てはめてはいけない~
とは言え、福島県は津波想定を行い、報告書にまとめた。次に問うべきは、その結果を入手した東電の過ちである。
それを示す前に言葉の問題を述べる。役所は金と責任が絡むとき、言葉の使い方を揃える。スマトラ沖の後国交省が「津波浸水想定区域図」という単語を使いだしてから、関係する事業ではこの単語が使われた。
東日本大震災以降、これらの津波浸水想定区域図とハザードマップは順次更新されていったが、この単語で検索した結果、一部の自治体のデータはネット上に残っていた。まず、先程の福島県HPを見てみよう。
また、実際の津波は、これ以上の高さになることも考えられます。地震が発生したら、まず避難しましょう。
福島県津波想定調査(福島県HP、アーカイブ)
次に、相馬市のハザードマップが残っていたので見てみよう。
この地図は、福島県が平成19 年7 月に発表した、「津波浸水想定区域図等調査」の結果に基づいて作成したもので、予想浸水域を表示しています。
あくまで「想定の津波」によるものですので、到達しない場合、または、想定を越えて津波が押し寄せることも考えられます。
「津波ハザードマップ 原釜・尾浜地区」相馬市2008年3月(魚拓)
これが、福島県の津波想定の正しい受け取り方である。
このような一言が付け加えられている理由は、津波想定には不確実性が伴うので、「津波・高潮ハザードマップマニュアル」でその対応策を書いてあったからである(下記引用の他、同マニュアル4章で詳しく議論されているが、想定水位=最高の高さではない、という考え方は一貫している)。
津波・高潮ハザードマップに供する浸水予測区域の設定に際しては、現在の最先端の技術水準において、一般的に表 3.2.1に示す項目の条件設定が必要となる。
(中略)なお、設定以外の条件についてのマップへの記載は、紙媒体のハザードマップの限界を超えているが、最悪の場合に備えて対応できるよう、緩衝領域(バッファ)の設定や(4.4(3)参照)想定を超える災害発生の危険性をマップ上に記載する等により対応する。「津波・高潮ハザードマップマニュアル(案)」国土交通省津波・高潮ハザードマップ研究会事務局 PDF45枚目
従って、県の想定水位が原発の津波想定より低いことを示したところで、原発の安全を保証する材料にはならない。何の意味も無い行為である。東電本体は元より、東電設計およびシーマス、ユニック等は津波想定のプロ集団であり、このようなミスは仕方無いでは済まされない。
ミス解釈の責任が、説明を行った福島県にあるのかは分からないが、少なくとも東電グループにあることは疑いない。各訴訟の準備書面を全て把握できていないが、この瑕疵もこれまで見逃されていたのではないか。
コラム
なお、東電も福島県も黙っているが、福島県津波想定調査報告書概要版P53によると、明治三陸の規模はMw8.6と設定している。つまり、東電は2007年にこの波源で追試を行った数ヶ月後の2008年3月に、明治三陸の波源を福島沖に仮置きして海溝地震をシミュレーションして15.7mの津波高を得るのだが、この社内試算では明治三陸の規模をMw8.3と半分以下に縮小した。Mw8.6の件を忘れる筈もない時期で、極めて悪質だが、何故か誰も指摘していない。一方、福島県の報告書で津波の高さは遡上高のみ示されており、明治三陸タイプが最も大きく、福島第一に近い下記の2地点で次のような結果となっている。
双葉町:前田川河口6.2m
大熊町:熊川河口6.7m
従って、東電の5mという水位(遡上高ではないと思われる)はまずまず妥当な追試と言えるだろう。数値面からも、安全率による割増は認められない。
【2-5】省庁間連携と自治体の事後チェックを怠った国にも責任はある。
なお国交省は、着想と提言は良かったが、他省庁との連携(経産省の説得)、自治体の施策チェックと言う点では、失敗した。興味深いことに、検討委員会では素案を提示した後の意見で次のようなものがあった。
意見 38
例えば、「国土交通大臣は、すみやかに、この提言に盛り込まれた事項その他必要な事項を関係地方公共団体等に示すとともに、関係地方公共団体等で講じた措置または講じようとする措置の報告を求め、これらを集約し、分かりやすい形で国民に提供すること」といった文言を追記。
「説明資料3 委員から頂いたご意見」 第3回 検討委員会(2005年3月16日)PDF6枚目
その結果、提言の最後には次のような文言が盛り込まれた。
また、地震防災対策の一環として、そのフォローが必要であるとともに、各省庁が横断的に講じるべき津波防災対策の施策で、さらに検討を要するものは、省庁連携の下に、専門的知見をもって推進すべきである。
この提言が歴史的価値を持つに至るかどうかは、行政のみならず国民及び各界各層の取組み次第である。国土交通省は、速やかに、この提言に盛り込まれた事項に関し、直接関係する事項を可能なものから実行していくことはもちろん、関連事項を関係地方公共団体等に示すと共に、関係地方公共団体等で講じた措置または講じようとする措置の報告を求め、これを集約し、分かりやすい形で国民に提供すべきである。
津波対策検討委員会 提言 2005年3月 PDF14枚目
青字の2点は明らかに未達であり、国の責任が認められる。他省庁のとの連携に関しては、歴史に残る安全神話を答弁した第一次安倍政権が、本来は経産省に連携すべしと命じるべきだったのかも知れない。それ以上の解明は、ジャーナリスト・研究者・当事者・官僚が共に取り組むべき課題である。
【2-6】割増しのヒントはあったのか
さて、それでは想定結果の何倍を提示すれば良かったのか。「津波・高潮ハザードマップマニュアル」はその答えを明示していない。下記のように浸水予測区域の外側にバッファ(緩衝空間)を設けるように指示しているが、具体的な数値は無い。割り増し比率は自治体に任されている。先の相馬市の場合は、バッファの明示は無い(避難場所の選定に当たって何らかの基準として用いられた可能性はある)。
「津波・高潮ハザードマップマニュアル(案)」国土交通省津波・高潮ハザードマップ研究会事務局 PDF73枚目
ただし、数値的根拠について公開文献でも参照材料はあった。以前紹介した気象庁による津波予報、および国土庁による津波浸水予測データベース作成の際、次のように述べている。このデータベースは2000年代以降のハザードマップに繋がる基礎資料として作成されたものなので、関連性は高いと言える。
「新しい津波予報」のイメージを図2に示します。一つの目安として、もしも海岸から避難する場合には、予想高さの2倍以上の高さの場所に避難すれば、危険率は1%未満にまで小さくなるはずです。
日本地震学会広報誌『なるふる』12号(1999年3月)PDF5枚目
津波予報と津波浸水予測は同じ幹から分かれた2つの枝であり、不確実性についても首藤伸夫が理論化している。従って、津波想定の不確実性に2倍の数値を当て嵌めて原発防災を考えるのは、1つの見識となる(『原発と大津波』読者であれば、原子力発電所の津波評価技術で安全率1倍となった経緯を御存知だろうが、そこにも通じる話)。
『なるふる』の1%以下という指摘を単純に当てはめると、IAEAが推奨する10万炉年に一度の炉心損傷確率を達成するためには、最低でも想定の2倍の津波が来ても安全な必要があった。1000年に一度の大津波で防護されている水位を超える確率が1%の場合、(1/1000)X(1/100)=1/100000となるからである。実際には、東日本クラスの津波は500年程度とのしてきもあったりするので、1000年に一度との論は現在では楽観的だが。
福島県2007年想定調査で用いた波源モデルでは、福島第一、第二共5m程度だとされているので、『なるふる』で推奨の倍率2を掛けると10m以上となる。即ち10m盤上の構築物でも、1階にあるような開口部は何らかの対策が求められる。
なお、『なるふる』が指摘する津波予報と同じデータベースを使用している国土庁津波浸水予測図の場合、福島第一の前面は8mであり、遡上は10m盤に達していることが既に知られている。ここに倍率2を掛けると、東電が行うべきだった津波対策は16mとなる。
更に、2002年の『原子力発電所の津波評価技術』で得た数値6.1mに倍率2を掛けると約12mとなる。ただし、これは既に『原発と大津波』第2章で言及済みである。
【3】「話題」スライドの情報源についての疑問
話を日本学術会議に戻す。
彼等が唯一有効性を認めた原子力技術協会の提言だが、震災後誰も省みる人が居なかったところ、身内からの警鐘だが(組織自体が業界で傍流扱いだったためか)無視されたものとして、私がブログで再評価したものである。彼等にとっては、業界人が自ら指摘したことがとても大切なのだろう。
その傍証に、原子力技術協会が『エネルギーレビュー』2006年7月号で発表した米ウォーターフロード原発3号機の事例は全く参照されていない。基本的には提言の内容に沿った記事だが、カトリーナ来襲の3日前、パッケージ型の非常電源をレンタルして据え付けたことは、日本語文献ではこの記事しか触れていない。言うまでもなく、最短で可能な電源対策の一環として、再評価すべき内容である。
もし2011年3月7日の「お打合せ」での結論(福島沖での大津波を想定する)を吉田所長が聞いており、且つ、『エネルギーレビュー』の記事を所長や彼の部下が覚えていたら、恒久的な津波対策が完了するまで、同じようなことをやれば済むからだ(社有の電源車を配置変更したり非常電源をレンタルする)。これはブログを書いた直後に見つけていたが、別の機会を見て記事で紹介することはしていなかったものだ。
【4】何も理解していないことが分かるスライド
次のスライドの説明は意味不明である。それも1枚に3ヶ所。
【4-1】場所を限定すると最も高い津波高が得られる?
狭い範囲を対象として最大津波高さを予測した方がより大きな値が算出されるはず
福島第一原子力発電所事故以前の津波高さに関する検討経緯-想定津波高さと東電の対応の推移-(日本学術会議、2017年8月1日)PDF5枚目
次の東電事故調の模式図を見て欲しい。本当にそれが導けると考えたのか。
『福島原子力事故調査報告書』東京電力2012年6月20日P18より。
日本学術会議の書いていることは逆である。一つの地震津波をシミュレーションする時は、津波高を計算する海岸の範囲を予め設定するが、その範囲を広く(長く)した方が、狭い範囲よりも高い津波高の地点を得ることが出来る。例えば、福島沖のケースで言えば、発電所の前後1㎞だけ計算するのではなく、南北100㎞とか福島県内の海岸全域などに対象を広げれば、「西暦何年の××地震を模擬したこのシミュレーションでは福島第二の方が高い」とか「あのケースでは相馬が最も高い」となる。逆に、福島第一での高さだけを計算すれば、求められる高さは福島第一のものだけしかなく、他の地点と比較のしようが無い。東電事故調の模式図で例示するなら、右の黒矢印の近くにある想定が、図中の海岸の範囲では最も大きな水位を与えている(赤の設計津波より僅かに高い)。
添田氏がツイートしていた千葉訴訟における「震源事件」に通じるものを感じる。
このような過ちを避ける方法の一つは、『原発と大津波』の冒頭に書かれている、55㎞遠方の地点(小名浜港)の津波観測データを持ってきたという建設時のエピソードの意味を良く考え抜くことである(仮に55㎞南ではなく100㎞程北の宮城県の値を持って来れば最初から高い想定値が得られる。理論的にはあり得る方法)。
【4-2】報告書に出てこない文献を参照したと主張
ついでに言えば、先のスライド、福島県の2007年の調査報告書の「7.参考文献一覧」をもう一度チェックしたが、津波災害予測マニュアル(1999年)は参照しておらず、本文にも登場しない。証言を取ったという記述も無い。事実に反するのではないか。
【4-3】福島県の津波想定が大きくなるのは合理的?
学術会議の資料からは、何故合理的なのかがさっぱり読み取れない。上述のように福島県の津波想定に関する部分は調査不足だったし、前の文章ともつながりが見出せない。
事実関係から言えば、福島県と茨城県では想定していた地震が別のもの(茨城県は延宝地震を含む)だから、比較不能である。仮に、推本予測のことを言っているとしても、「どの領域でもM8クラス」と書いているのであって、福島県が高くなる合理的根拠は無い。
強いて言えば、東日本大震災では、茨城より福島の方が概して津波高が大きかったと言うだけのことである。しかし、プレートテクトニクス理論から言えば、茨城沖を主たる波源とする津波地震が起きても全く不思議ではない。
【4-4】恥の上塗り集団
ここまで書いてきて思ったが、日本学術会議は単なる誤植と言うより、何も理解していないのではないか。というか、ほんのりやばい感じしかない。
関村や原子力関連団体は、只、福島事故の恥を上塗りしただけである。大方、事務局に3流役人でも当てがい、現政権へ忖度した結果だろうが、只でさえ凋落傾向にある日本の学術団体の権威を一層貶めるだけの結果に終わった。唯一救いがあるかも知れないのは、こんなレベルの低い検証作業にまともな人材は回さないという、面従腹背な役人の雰囲気も僅かに感じられるところ位、だろうか。
リベラル左翼でも学術団体の声明などに依存した主張を見かけるが、何でも忖度で簡単に信用を失うのが現代の世であることは覚えておいてほしい。
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