北朝鮮による中距離弾道ミサイル「火星12」が日本の上空を通過するなど、かの国のミサイル開発がニュースになることが多くなりました。
その北朝鮮の弾道ミサイルが日本の原発を狙うとか狙わないとかという話があります。国会でも議論された*1テーマですし、警鐘を鳴らす識者もいます*2。
弾道ミサイルと聞いても、普段よほど関心を寄せてなければなんのこっちゃ分かりませんし、狙った所に当たるかどうか聞かれてもすぐには答えられませんよね。かくいう私自身も詳しいことはほとんど分かっていません。
そこで本稿では、弾道ミサイルと原発というテーマに絡めて、これくらい知っているとちょっぴり弾道ミサイルのことが分かった気がする!というはじめの一歩のそのまた一部分をまとめてみます。
弾道ミサイルとはその名前の通り、ミサイルの軌道(弾道軌道)がほぼ放物線を描きます。ロケットエンジンは放物線の前半で使い切って切り離し、弾道頂点を過ぎるとあとは慣性に従って着弾します。北朝鮮から日本に向けて弾道ミサイルが撃たれた場合の軌道イメージはこんな感じです。
弾道ミサイルの特徴といえばやはり速度です。遅いものでもマッハ5(時速6,120km)、速いものだとマッハ20(時速24,480km)にも達します。その代り、巡航ミサイルのようにウネウネと機動したり、低高度を飛んでレーダーをかいくぐるような器用さはありません。弾道ミサイルはその速度で敵防空網を突破し、大きな運搬能力で核兵器や大量破壊兵器を目標に叩き込むのです。
弾道ミサイルにはいろいろな分類の仕方がありますが、射程距離を基準にするとおおむね以下の4種類に分けられます。
例えば、北朝鮮が韓国を攻撃する際には「スカッド」というシリーズのミサイルを用いますが、これは短距離弾道ミサイル(SRBM)です。日本を攻撃するのは、準中距離弾道ミサイル(MRBM)である「ノドン」、「北極星2号」。グアムを攻撃するのは中距離弾道ミサイル(IRBM)の「火星12」、そしてハワイ~米本土へ到達するものは大陸間弾道ミサイル(ICBM)というような分類のされ方をしています。
我が国への主な弾道ミサイル脅威であることから、本稿では「ノドン」を主に取り上げることにします。 なお、弾道ミサイルの弾頭が核弾頭である場合、被害範囲は大変広いものであるため、狙い撃ちできるかどうかなどは考慮する必要がありません。ですから、本稿及び次稿では、通常弾頭(非核兵器)による攻撃を想定します。
北朝鮮の弾道ミサイルは原発を狙い撃ちできるか、という問いを解く上でいくつか指標となるものがあります。そのひとつに、弾道ミサイルの精度をしめす「CEP(Circular Error Probability)」というものがあります。読み方は、せっぷ。
日本語だと半数必中界、円形公算誤差などといったりします。ニュースなどで理解する際には、「50%の確率で着弾が期待される半径」というくらいの意味でよいかと思います*3。
ノドンのCEPはこれまで2,000mほどと見られていました。しかし、中国が開発したGPS衛星「北斗」を活用することによって、190mにまで精度を上げてきているという情報があります*4(信ぴょう性についてはまだ議論があるようですが)。 本稿では北朝鮮に有利なシナリオとなるように、あえて現在推定されている最も優秀なCEP値を採用することにします。
とはいえ、CEP190mと言われてもピンと来ないかもしれません。もう少し具体的なシミュレーションとして、北朝鮮からも近い福井県高浜原子力発電所1号建屋を標的と想定します。
この地図で言うと、50%の確率で赤円内にミサイルが着弾するかもしれない精度=CEPです。10発撃てば、5発はこの円内のどこかに着弾すると期待されます。円内には1号炉だけでなく補助建屋、2号炉建屋、中央制御盤、海水取水設備などもありますね。ふむ。。。これは危ない。
しかし、CEPは命中精度を示すものですので、これだけだと標的である1号炉建屋に直撃するかどうかまでは分かりません。 もう少し落ち着いて見てみましょう。
では、標的への命中確率をパーセンテージで表してみます。ここで少々計算が必要なのですが*5、結論から言ってしまうと、高浜原発1号炉建屋(直径約22m)にノドンを1発撃ってそれが直撃する確率は、約0.6%です。
今回の計算ではCEP=190mとしたので、CEPが大きくなれば当然命中確率も悪くなります。この0.6%という数字を高確率だと受けとる人は少ないでしょう。言うまでもなく、実戦環境下ではCEP、命中確率ともにカタログスペックを下回ると考えるのが妥当です。
「よろしい、ならば戦争だ!何百発もつるべ撃ちして命中確率を上げるのだ!」というアイデアもありますが、現時点でノドンの発射機は50基程度にとどまっています*6。可能な一斉発射数を全弾撃てば1号炉建屋に1発当たる確率は約30%となりますが、それでもなお高い確率とは言えません。そして第一波を撃ち尽くした後に他の標的を攻撃する余力はもはやありません*7。
精度や正確度は確率に過ぎませんから、初弾がたまたま標的に直撃することは起こりえますが、そのような運頼みの使用法は兵器の運用としてあまりに拙劣です。弾道ミサイル保有国はいずれもそれを理解しており、ピンポイント攻撃に際しては巡航ミサイルや精密誘導兵器を用いています*8(なお、北朝鮮には巡航ミサイルはありません)。
もちろん、たとえブラフ(はったり)でも繰り返し原子力施設への攻撃意欲を示せば、我が国としては政治的に対策を迫られる必要がでるかもしれません。その場合、我々は蓋然性の低いリスクに限られたリソースを配分しなければならなくなります。北朝鮮が「原発は無慈悲な弾道ミサイルの標的だ」と嘯くだけで、日本に消耗を強いることができるかもしれませんから、あながち無駄な恫喝ではなくなるわけです。
一方で、北朝鮮は弾道ミサイルによる日本への攻撃意図を明らかにしてはいますが、その標的として言及しているのは在日米軍基地や大都市に対するもので、日本の原子力施設へ攻撃を示唆したのは一度だけです(しかも核弾頭による攻撃を想定)*9。少なくともイチかバチかの原発攻撃に弾道ミサイル(核・非核問わず)を使おうという意図は消極的です。
ノドンをどのように使うかを決めるのは我々ではなく北朝鮮です。本稿のような考察はどこまでいっても推測にすぎません。より確からしいことは、北朝鮮はミサイル/ロケット技術の開発にまい進すると同時に、その運用法についても熟達しているということです。弾道ミサイルが原子炉建屋のような特定の建造物を狙い撃ちすることなどできない、少なくともふさわしい兵器ではないと北朝鮮が知っているという推測は、彼らが熱烈に核開発と弾道ミサイル開発をセットで行っていることから導き出せるのではないでしょうか。
「北朝鮮はノドン通常弾頭で原発を攻撃するのか?」という議論については、軍事的にはある程度結論が出ていると言えますね*10。
>>『弾道ミサイルと原発:(2)北朝鮮の弾道ミサイルは原発を破壊できる?』へ続きます。
*1 平成27年7月29日我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会参照。
他にも、芦沢崇、弾道ミサイル攻撃発生時の危機対応、東京海上日動リスクコンサルティング株式会社、2017/9/23、5ページ、のような報告書においても通常弾頭の攻撃対象候補として原発が挙げられています。
なお、原発への攻撃は国際法違反です。『ジュネーヴ諸条約第一追加議定書第五十六条危険な力を内蔵する工作物及び施設の保護』“1危険な力を内蔵する工作物及び施設、すなわち、ダム、堤防及び原子力発電所は、これらの物が軍事目標である場合であっても、これらを攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない”(外務省HP)。金正恩党委員長にとっては考慮する材料ではないでしょうが。。。
*2 個人的に最近読んだものですと、元・米国務省分析官のベネット・ランバーグによる、「北朝鮮のもう一つの脅威 ー日韓の原発施設に対する攻撃に備えよ」、フォーリン・アフェアーズ、2017年10月などがあります。ランバーグ氏は2015年にも中東の原子力ブームに対してテロや空爆に対する脆弱さを警告する同様の論文を書いておられますが、残念ながらいずれもあまり緻密な論説ではありません。
*3 CEPは命中確率とは異なります。精度を表す指標であり、正確度を示すものではありません。
*4 米国科学者連盟(FAS)「Nodong」、 サーチナ、中国の技術利用して北朝鮮の弾道ミサイル命中精度が大幅向上か(2014/8/6) 。電波妨害などにより北斗GPSを使用できない場合は、従来通り慣性航法(INS)のみとなるため、CEPも2,000~mに戻るかもしれません。
*5 そうは言っても計算しなければデタラメな話になるので、本稿では元・防衛庁技術研究本部(現・防衛装備庁)の技官・久保田隆成氏のサイト「ミサイル入門教室」にて公開されている計算ソースプログラムを活用させていただきました。同氏による解説記事 「射爆撃理論の基礎」も大変参考になります。大感謝。 なお、原子炉建屋の面積や半径はグーグルマップなどから。
*6 この評価は2013年のものですが、弾道ミサイルの専門家であるミドルベリー国際大学院モントレー校/Arms Control Wonkのジェフリー・ルイス氏に直接質問したところ、2017年時点においてもやはり50基より少ない数字であるとの見立てでした。過去記事参照。
*7 各種報告書によると、ミサイル保有数は200発です。過去記事参照。第二波攻撃をする予備はありますが、仮に保有数がもっと多かったとしても、50発も撃った後に移動発射機(TEL)に再装填する余裕を米国が与えるシナリオはいささか無理があります。 そして第二波で再び50発全弾撃ち尽くせたとしても、命中確率は100%に届かないんですよね。。。
*8 イスラエルは1981年にイラクの原子炉、2007年、2010年にはシリアで建設中の原子炉を航空機爆撃によって破壊しています。1981年当時イスラエルには短距離弾道ミサイル「エリコ1」が、2007年には「ノドン」と同じ準中距離弾道ミサイル「エリコ2」が配備されていましたが、弾道ミサイルによる攻撃を選んでいません。1981年のバビロン作戦では諸事情からレーザー誘導弾を用いず、厳しい特別訓練を受けたF-16が搭載する無誘導爆弾「Mk.84」によって実質的には巡航ミサイル攻撃のような形態をとっています。
*9 時事通信(2013年4月10日)「戦争なら破滅と威嚇-北朝鮮」によると、"北朝鮮の労働党機関紙・労働新聞は10日の論説で「わが軍は、日本などを撃破する報復能力を十分に保有している」と強調した。 さらに「日本には数多くの米軍基地と原子力関連施設、軍事施設があちこちにある」と警告。 また「(戦争が起きれば広島や長崎の)1940年代の核の惨禍とは比べられない莫大な被害に遭うことは避けられない」と威嚇した。 論説は「敵視策動が日本にもたらすのは破滅だけだ」と題されている。その中で「日本は新たな朝鮮戦争に対応した準備を進めている。 中・長距離攻撃を重視する現代戦で、日本全土はわれわれの報復攻撃の対象になることは避けられない」とも主張し、日本がミサイルの射程圏内にあると警告している。"(強調筆者)とのこと。
北朝鮮が具体的に弾道ミサイルの攻撃目標を明言し始めたのは、2017年に入ってからではないでしょうか。2017年3月、朝鮮人民軍戦略軍の報道官が朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の任務が「在日米軍基地への攻撃」であるとの談話を発表しています(朝鮮中央通信)。
ただ、労働新聞記事、朝鮮中央通信いずれのケースも核攻撃を想定しており、通常弾頭で日本の原発施設を攻撃すると公言した例はないようです。
*10 このことから、「ノドンを原発に向けて撃つ蓋然性は低い」という主張には同意しますが、「北朝鮮によるミサイル危機を煽るな」という意見には与しません。彼らのミサイルと核開発は明白な脅威です。ノドンが日本に向けられたものであることも事実で、通常弾頭でも人口密集地への攻撃となると大きな被害がでる恐れがあります。それゆえ、拙ブログではイージスBMDの拡充を布教しております<(_ _)> 本稿(1)と次稿(2)は、「原子力発電施設」への「弾道ミサイル」の「通常弾頭(非核兵器)」による攻撃が如何に効率的でないかを説明することを主旨としています。
その北朝鮮の弾道ミサイルが日本の原発を狙うとか狙わないとかという話があります。国会でも議論された*1テーマですし、警鐘を鳴らす識者もいます*2。
弾道ミサイルと聞いても、普段よほど関心を寄せてなければなんのこっちゃ分かりませんし、狙った所に当たるかどうか聞かれてもすぐには答えられませんよね。かくいう私自身も詳しいことはほとんど分かっていません。
そこで本稿では、弾道ミサイルと原発というテーマに絡めて、これくらい知っているとちょっぴり弾道ミサイルのことが分かった気がする!というはじめの一歩のそのまた一部分をまとめてみます。
◇ ◇ ◇
弾道ミサイルとは
弾道ミサイルとはその名前の通り、ミサイルの軌道(弾道軌道)がほぼ放物線を描きます。ロケットエンジンは放物線の前半で使い切って切り離し、弾道頂点を過ぎるとあとは慣性に従って着弾します。北朝鮮から日本に向けて弾道ミサイルが撃たれた場合の軌道イメージはこんな感じです。
弾道ミサイルの特徴といえばやはり速度です。遅いものでもマッハ5(時速6,120km)、速いものだとマッハ20(時速24,480km)にも達します。その代り、巡航ミサイルのようにウネウネと機動したり、低高度を飛んでレーダーをかいくぐるような器用さはありません。弾道ミサイルはその速度で敵防空網を突破し、大きな運搬能力で核兵器や大量破壊兵器を目標に叩き込むのです。
弾道ミサイルにはいろいろな分類の仕方がありますが、射程距離を基準にするとおおむね以下の4種類に分けられます。
例えば、北朝鮮が韓国を攻撃する際には「スカッド」というシリーズのミサイルを用いますが、これは短距離弾道ミサイル(SRBM)です。日本を攻撃するのは、準中距離弾道ミサイル(MRBM)である「ノドン」、「北極星2号」。グアムを攻撃するのは中距離弾道ミサイル(IRBM)の「火星12」、そしてハワイ~米本土へ到達するものは大陸間弾道ミサイル(ICBM)というような分類のされ方をしています。
我が国への主な弾道ミサイル脅威であることから、本稿では「ノドン」を主に取り上げることにします。 なお、弾道ミサイルの弾頭が核弾頭である場合、被害範囲は大変広いものであるため、狙い撃ちできるかどうかなどは考慮する必要がありません。ですから、本稿及び次稿では、通常弾頭(非核兵器)による攻撃を想定します。
ノドンの精度は?
北朝鮮の弾道ミサイルは原発を狙い撃ちできるか、という問いを解く上でいくつか指標となるものがあります。そのひとつに、弾道ミサイルの精度をしめす「CEP(Circular Error Probability)」というものがあります。読み方は、せっぷ。 日本語だと半数必中界、円形公算誤差などといったりします。ニュースなどで理解する際には、「50%の確率で着弾が期待される半径」というくらいの意味でよいかと思います*3。
ノドンのCEPはこれまで2,000mほどと見られていました。しかし、中国が開発したGPS衛星「北斗」を活用することによって、190mにまで精度を上げてきているという情報があります*4(信ぴょう性についてはまだ議論があるようですが)。 本稿では北朝鮮に有利なシナリオとなるように、あえて現在推定されている最も優秀なCEP値を採用することにします。
とはいえ、CEP190mと言われてもピンと来ないかもしれません。もう少し具体的なシミュレーションとして、北朝鮮からも近い福井県高浜原子力発電所1号建屋を標的と想定します。
この地図で言うと、50%の確率で赤円内にミサイルが着弾するかもしれない精度=CEPです。10発撃てば、5発はこの円内のどこかに着弾すると期待されます。円内には1号炉だけでなく補助建屋、2号炉建屋、中央制御盤、海水取水設備などもありますね。ふむ。。。これは危ない。
しかし、CEPは命中精度を示すものですので、これだけだと標的である1号炉建屋に直撃するかどうかまでは分かりません。 もう少し落ち着いて見てみましょう。
ノドンが原発を直撃する確率は?
では、標的への命中確率をパーセンテージで表してみます。ここで少々計算が必要なのですが*5、結論から言ってしまうと、高浜原発1号炉建屋(直径約22m)にノドンを1発撃ってそれが直撃する確率は、約0.6%です。今回の計算ではCEP=190mとしたので、CEPが大きくなれば当然命中確率も悪くなります。この0.6%という数字を高確率だと受けとる人は少ないでしょう。言うまでもなく、実戦環境下ではCEP、命中確率ともにカタログスペックを下回ると考えるのが妥当です。
「よろしい、ならば戦争だ!何百発もつるべ撃ちして命中確率を上げるのだ!」というアイデアもありますが、現時点でノドンの発射機は50基程度にとどまっています*6。可能な一斉発射数を全弾撃てば1号炉建屋に1発当たる確率は約30%となりますが、それでもなお高い確率とは言えません。そして第一波を撃ち尽くした後に他の標的を攻撃する余力はもはやありません*7。
北朝鮮は弾道ミサイルの使い方を知っている
このように、「北朝鮮の弾道ミサイルは原発を狙い撃ちできるか」と問われれば、「弾道ミサイルは原子炉建屋のような特定の建造物を狙い撃ちすることはできない」と答えるのが妥当だと考えられます。精度や正確度は確率に過ぎませんから、初弾がたまたま標的に直撃することは起こりえますが、そのような運頼みの使用法は兵器の運用としてあまりに拙劣です。弾道ミサイル保有国はいずれもそれを理解しており、ピンポイント攻撃に際しては巡航ミサイルや精密誘導兵器を用いています*8(なお、北朝鮮には巡航ミサイルはありません)。
もちろん、たとえブラフ(はったり)でも繰り返し原子力施設への攻撃意欲を示せば、我が国としては政治的に対策を迫られる必要がでるかもしれません。その場合、我々は蓋然性の低いリスクに限られたリソースを配分しなければならなくなります。北朝鮮が「原発は無慈悲な弾道ミサイルの標的だ」と嘯くだけで、日本に消耗を強いることができるかもしれませんから、あながち無駄な恫喝ではなくなるわけです。
一方で、北朝鮮は弾道ミサイルによる日本への攻撃意図を明らかにしてはいますが、その標的として言及しているのは在日米軍基地や大都市に対するもので、日本の原子力施設へ攻撃を示唆したのは一度だけです(しかも核弾頭による攻撃を想定)*9。少なくともイチかバチかの原発攻撃に弾道ミサイル(核・非核問わず)を使おうという意図は消極的です。
ノドンをどのように使うかを決めるのは我々ではなく北朝鮮です。本稿のような考察はどこまでいっても推測にすぎません。より確からしいことは、北朝鮮はミサイル/ロケット技術の開発にまい進すると同時に、その運用法についても熟達しているということです。弾道ミサイルが原子炉建屋のような特定の建造物を狙い撃ちすることなどできない、少なくともふさわしい兵器ではないと北朝鮮が知っているという推測は、彼らが熱烈に核開発と弾道ミサイル開発をセットで行っていることから導き出せるのではないでしょうか。
「北朝鮮はノドン通常弾頭で原発を攻撃するのか?」という議論については、軍事的にはある程度結論が出ていると言えますね*10。
*1 平成27年7月29日我が国及び国際社会の平和安全法制に関する特別委員会参照。
他にも、芦沢崇、弾道ミサイル攻撃発生時の危機対応、東京海上日動リスクコンサルティング株式会社、2017/9/23、5ページ、のような報告書においても通常弾頭の攻撃対象候補として原発が挙げられています。
なお、原発への攻撃は国際法違反です。『ジュネーヴ諸条約第一追加議定書第五十六条危険な力を内蔵する工作物及び施設の保護』“1危険な力を内蔵する工作物及び施設、すなわち、ダム、堤防及び原子力発電所は、これらの物が軍事目標である場合であっても、これらを攻撃することが危険な力の放出を引き起こし、その結果文民たる住民の間に重大な損失をもたらすときは、攻撃の対象としてはならない”(外務省HP)。金正恩党委員長にとっては考慮する材料ではないでしょうが。。。
*2 個人的に最近読んだものですと、元・米国務省分析官のベネット・ランバーグによる、「北朝鮮のもう一つの脅威 ー日韓の原発施設に対する攻撃に備えよ」、フォーリン・アフェアーズ、2017年10月などがあります。ランバーグ氏は2015年にも中東の原子力ブームに対してテロや空爆に対する脆弱さを警告する同様の論文を書いておられますが、残念ながらいずれもあまり緻密な論説ではありません。
*3 CEPは命中確率とは異なります。精度を表す指標であり、正確度を示すものではありません。
*4 米国科学者連盟(FAS)「Nodong」、 サーチナ、中国の技術利用して北朝鮮の弾道ミサイル命中精度が大幅向上か(2014/8/6) 。電波妨害などにより北斗GPSを使用できない場合は、従来通り慣性航法(INS)のみとなるため、CEPも2,000~mに戻るかもしれません。
*5 そうは言っても計算しなければデタラメな話になるので、本稿では元・防衛庁技術研究本部(現・防衛装備庁)の技官・久保田隆成氏のサイト「ミサイル入門教室」にて公開されている計算ソースプログラムを活用させていただきました。同氏による解説記事 「射爆撃理論の基礎」も大変参考になります。大感謝。 なお、原子炉建屋の面積や半径はグーグルマップなどから。
*6 この評価は2013年のものですが、弾道ミサイルの専門家であるミドルベリー国際大学院モントレー校/Arms Control Wonkのジェフリー・ルイス氏に直接質問したところ、2017年時点においてもやはり50基より少ない数字であるとの見立てでした。過去記事参照。
*7 各種報告書によると、ミサイル保有数は200発です。過去記事参照。第二波攻撃をする予備はありますが、仮に保有数がもっと多かったとしても、50発も撃った後に移動発射機(TEL)に再装填する余裕を米国が与えるシナリオはいささか無理があります。 そして第二波で再び50発全弾撃ち尽くせたとしても、命中確率は100%に届かないんですよね。。。
*8 イスラエルは1981年にイラクの原子炉、2007年、2010年にはシリアで建設中の原子炉を航空機爆撃によって破壊しています。1981年当時イスラエルには短距離弾道ミサイル「エリコ1」が、2007年には「ノドン」と同じ準中距離弾道ミサイル「エリコ2」が配備されていましたが、弾道ミサイルによる攻撃を選んでいません。1981年のバビロン作戦では諸事情からレーザー誘導弾を用いず、厳しい特別訓練を受けたF-16が搭載する無誘導爆弾「Mk.84」によって実質的には巡航ミサイル攻撃のような形態をとっています。
*9 時事通信(2013年4月10日)「戦争なら破滅と威嚇-北朝鮮」によると、"北朝鮮の労働党機関紙・労働新聞は10日の論説で「わが軍は、日本などを撃破する報復能力を十分に保有している」と強調した。 さらに「日本には数多くの米軍基地と原子力関連施設、軍事施設があちこちにある」と警告。 また「(戦争が起きれば広島や長崎の)1940年代の核の惨禍とは比べられない莫大な被害に遭うことは避けられない」と威嚇した。 論説は「敵視策動が日本にもたらすのは破滅だけだ」と題されている。その中で「日本は新たな朝鮮戦争に対応した準備を進めている。 中・長距離攻撃を重視する現代戦で、日本全土はわれわれの報復攻撃の対象になることは避けられない」とも主張し、日本がミサイルの射程圏内にあると警告している。"(強調筆者)とのこと。
北朝鮮が具体的に弾道ミサイルの攻撃目標を明言し始めたのは、2017年に入ってからではないでしょうか。2017年3月、朝鮮人民軍戦略軍の報道官が朝鮮人民軍戦略軍火星砲兵部隊の任務が「在日米軍基地への攻撃」であるとの談話を発表しています(朝鮮中央通信)。
ただ、労働新聞記事、朝鮮中央通信いずれのケースも核攻撃を想定しており、通常弾頭で日本の原発施設を攻撃すると公言した例はないようです。
*10 このことから、「ノドンを原発に向けて撃つ蓋然性は低い」という主張には同意しますが、「北朝鮮によるミサイル危機を煽るな」という意見には与しません。彼らのミサイルと核開発は明白な脅威です。ノドンが日本に向けられたものであることも事実で、通常弾頭でも人口密集地への攻撃となると大きな被害がでる恐れがあります。それゆえ、拙ブログではイージスBMDの拡充を布教しております<(_ _)> 本稿(1)と次稿(2)は、「原子力発電施設」への「弾道ミサイル」の「通常弾頭(非核兵器)」による攻撃が如何に効率的でないかを説明することを主旨としています。