大牟田4人殺害事件はどれだけ残酷だったか
家族全員死刑、父も母も兄も弟も
2010年11月に刊行された『我が一家全員死刑』(コアマガジン、後にコア新書で再刊)は衝撃的な一冊であった。「人は見た目が9割」ならば確実にお近づきになったらヤバそうな4人の家族の顔写真が表紙にならんでおり、実際、見た目通りヤバかった北村実雄、真美、孝、孝紘の4人は強盗殺人の罪などに問われ、全員死刑が確定している。
行き当たりばったりで自己中心的な犯行
本書『全員死刑』は、次男の孝紘の獄中手記を中心に構成された『我が一家全員死刑』に加筆修正し、映画化にあわせて文庫化したものである。表紙に顔写真こそ並んでいないが、読み直しても彼らの行き当たりばったりで自己中心的な犯行には怖さしか感じない。
彼らがどのような犯行に及んだのか。大牟田4人殺害事件と聞けば思い出す人もいるだろう。2004年9月18日に家族4人で共謀し、知人の高見小夜子さんを絞殺。その後に帰宅した高見さんの長男とたまたま居合わせただけのその友人を拳銃で撃つなどして殺し、3人の遺体を車ごと川に沈めた。北村家の兄弟、孝と孝紘は2日前の同月16日にも高見さんの次男の穣吏さんを絞殺して、遺体を川に遺棄した。
新聞記事ならばこのような記述になるだろうが、2日で4人を殺す背景にはなにがあったのか。
北村家は父親がヤクザの組長だったが(子ども二人もヤクザ)、近年は金策に常に頭を悩ましていたという。一方、知人の高見さんは違法な金貸しを営み蓄財していたが、ヤクザである北村の威光を借り、メシを食っていた。北村一家にしてみれば、自分らの家計が火の車なのに、ヤクザの看板をちらつかせた奴らは金がうなっている。気に食わん、奪っちまえと犯行を思いつく。不条理な話だが彼らとしては筋が通っているのだ。
「犯行を思いつく」と書いたが、彼らの行動は呆れるほど無軌道なのである。殺害方法もとりあえず目の前の人間を殺すことしか頭にないので、場当たり的で、殺した後の死体の処理まで想像力が及ばない。死体を車に積んだまま街中をふらつき、返り血を浴びているのに、気づかずに買い物する。金が欲しくて人まで殺したのに事前に被害者から金の隠し場所などを聞き出した様子ももちろんない。殺人の計画を練りに練って実行されても困るが、ノリで人を殺すような感覚にはおぞましさしか覚えない。