ミッションオイル温度とミッションオイルの話
サーモステッカーで簡単ながら温度を見てみました。
●JA22Wは乗用車規格とはいえ、基本的にジムニーのミッションは商用車基準で頑丈に出来て
いるので壊れるということは滅多にないのですが、なにせミッションオイルの容量がいっぱい
に入れても1.2リッターしかないため、走行条件によってはオイルにかかる負担は相当なものに
なるのかも知れません。
とくに私のクルマのように少しとはいえパワーを上げていたり、ジムニーとしてはイレギュラー
なスピードで走ることが多いと、想像以上に負担がかかっている可能性もあります。
ただ、現在のところ操作フィーリング上ではとくに異常を感じることはまったくありません。
それでも多少気になるので、とりあえず手始めに実際の走行時にミッションオイルの温度がどの
くらい上がっているのかを簡単にチェックしてみました。
●チェック方法
わざわざ油温計をつけるわけではなく、ブレーキキャリパーの温度を見る時などに使用するのと
同じサーモシールをミッションケースに貼ってやるだけの簡単なものです。
ですので実際にはケース外側の温度を見ていることになりますので、純粋にオイルの温度とは言え
ないのですが、それでもいちおうの目安にはなります。
↑使用したラベル、サーモデマンド。 広く一般工業製品に使用されるものです。
サーモデマンドは温度範囲や表示の可逆、非可逆など多種あるのですが、今回使用したのは
非可逆表示の「50~90°C」「100~140°C」の2種類で、それぞれ10°C刻みで温度が
わかります。 つまり50°Cから140°Cまでカバーできるということになります。
レースで使用する車などはもっと温度が上がることはありますが、少なくとも街乗りメインでは
この範囲をカバーしていればまず問題ないでしょう。
●貼りつけ
ついでですので、ミッションの他にトランスファー、およびリアデフにも貼ってみました。
↑ミッションケース。
↑トランスファー。
↑リアデフ。 デフはおそらくそれほど上がらないと思いますが。
●結果
走行状態としては「それなりに飛ばして」というレベルです。 とくに意識して負荷を
かけて走ったわけではありません。 外気温はだいたい22~23度程度です。
↑ミッションケース。
90度まで色が変わり100度では変わっていないことから、90度から100度の間ということ
になります。 ケース外側でこの温度ですので、内部は100度を超えていると考えられます。
競技での使用であればこれを大幅に上回る温度も当たり前ですが、ストリートでとくに負荷
をかけない走行でここまで温度が上がっているというのはやや高めだと思います。
やはりオイル容量が厳しいためでしょうが、オイルに対しての負担はエンジンオイル以上の
ものと思われます。 せめて使用するオイルは高性能なものを使用してあげるべきでしょう。
↑トランスファー。
70度まで色が変わり80度では変わっていないことから、70度から80度の間ということ
になります。 これもケース外側での温度ですので、内部はもう少し高いでしょう。
それでもトランスファーはそれほど温度は上がっていませんでした。
ただし、4WDにしてローレンジになるとプラネタリーギアが作動することから温度は
もっと上がるのではないかと思います。
↑リアデフ。
デフもトランスファーと同じで70度まで色が変わり80度では変わっていないことから、
70度から80度の間ということになります。 内部はプラス10度くらいでしょうか。
ただ、デフについてはやや予想外でした。 ホーシング一体ですので、表面積も大きく放熱
も良いですし、ミッションやトランスファーに比べて回転数も低いのでそんなには温度は
上がらないと考えていたので、正直ここまで温度が上がるとは思っていなかったからです。
ハイポイドギアはフリクションが大きいのでその摩擦熱が主な要因でしょう。
とりあえず以上のような結果でしたが、とくに対策が必要というものもありませんので
あくまでも確認のみです。
●ミッションオイルについて
稀に話題になるのですが、スズキのこの種のミッション(キャリィ、カプチーノ、ジムニー系)
の純正指定オイルのグレードが「GL-4」であることから「GL-5」グレードのオイルを入れると
ミッションに良くないとかシンクロの材質を傷めるとか言う方がいます。
しかし、なかなかその本当の理由については認識不足や誤解が多いのも事実です。
まずGL4とGL5の違いですが、GL5のほうがより極圧荷重に対して性能の高いオイルとなって
おり、GL4より高い荷重下に於いての潤滑性能を高めたオイルということになります。
ただ、このことが直接シンクロを傷めるということはなく、問題は潤滑特性にあり、これは同じ
GLグレードのオイルであってもその銘柄によってかなり差があります。
ですのでGL-◯だからというグレードだけで判断するものではありません。
シンクロ機構はコーンを押し付けることによる摩擦力で回転同調を取るわけですが、極圧潤滑性
の高いオイルは同じ圧力であればそれだけ潤滑性能が高い、つまり滑りが良すぎてシンクロコーン
が必要以上に滑ってしまい、回転同調が取りにくくなることからギアが入りにくくなることがあり
ます。 その結果として「無理にギアを入れる→シンクロを傷めやすい」ということになるのです。
そういう意味であれば「GL-5はシンクロを傷めやすい」というのはある意味正解だとは思います
が、これはむしろそのミッションと使用オイル(グレードではなくオイルの銘柄や特性そのもの)
のマッチングと、ミッションの操作方法が原因であるほうが大きいです。
たとえばシングルコーンシンクロのミッションよりもダブルコーンやトリプルコーンシンクロの
ミッションのほうが摩擦面積が多いため、より潤滑性能の高いグレードのオイル、言い換えれば
滑りやすいオイルを使用しても確実に回転同調がとれるので、より高いGLグレードのオイルでも
問題なく使用できるということになります。
逆に、ジムニー等のミッションのようなシングルコーンシンクロで比較的設計の古いミッション
の場合は、極圧下での潤滑性能の高いオイル(つまり滑りの良すぎるオイル)を使用した場合、
上記で述べたような理由で回転の同調が取りにくいために無理矢理ギアを入れなくてはならない
場合もあることから、操作方法によっては結果としてシンクロを傷める要因に繋がるわけです。
スズキのミッションにGL5を使用すると良くないとされる所以は実はこのことが主な要因です。
決してオイルが直接材質を傷めるというわけではありません。(極度に酸化すれば話は別ですが)
ミッションオイルは静摩擦性能と動摩擦性能のバランスが重要で、これがそのミッションとマッチ
ングしているかどうかでシフトフィールが大きく変わってきます。
要するに、軸受け部やギアの摩擦部は潤滑によって可能な限り摩擦抵抗を小さくしたいけれど、
変速時のシンクロコーンを押し付けるときには大きな摩擦が欲しいという相反する条件を満たさな
ければならないというジレンマな特性が要求されるわけです。
これのもっと極端なものがCVT用のオイルと言えるでしょう。 CVTはプーリーとベルト(トロイ
ダルの場合はパワーローラーとコーン)の摩擦によってトルクを伝えていますので、ここで滑って
は困ります。 しかし他の回転部分は滑らかに潤滑してもらわなければならないわけです。
これは通常のATFでも同じで、ギア部分や回転部分は滑らかに潤滑を要し、各ギアの多板クラッチ
部やロックアップクラッチ部は確実にスリップしない摩擦が要求されます。
つまりMTにせよATにせよ、ミッションオイルというのは「滑りやすさ」と「滑りにくさ」の両方
がひとつのオイルに要求される、まさに「潤滑のジレンマ」を抱えたオイルなのです。
いずれにしてもミッションとオイルの相性というのは使ってみなければわからないところが多い
ので、もしオイルに一因があると疑いがあれば銘柄を換えて試してみるのも手ではあります。
GLグレードにとらわれず、どのミッションオイルが自分のフィーリングに合っているか、いろいろ
試してみることをお薦めします。 しかしそれでも心配であれば、おとなしくメーカー純正指定の
ものを使用するのがもっとも無難でしょう。
なお、私の車はミッション、デフ、トランスファーのオイルはすべてMOTULを使用していますが
ミッションはずっとGL5グレードを使用しており問題は出ていません。