定年後、月15万円の収入が得られるかもしれぬビジネスとは
年金受給年齢がどんどん引き上げられ、75歳という数字まで見えてきた。現在50歳以下の世代は、生活を維持するのも困難な老後がやって来るということだ。国や会社を頼れない以上、個人でどうにかするしかない。具体的方策を大前研一氏が提示する。
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政府は、公的年金の受給開始年齢を「75歳」に引き上げようとしている。2014年に田村憲久厚生労働相(当時)が受給開始を選べる年齢の上限を現在の70歳から75歳程度まで引き上げることを検討すると発言し、今年10月には内閣府の有識者検討会が受給開始選択年齢を70歳以降にできる仕組みづくりを求めた報告書をまとめているのだ。現在50歳以下の世代の人たちは、年金の受給開始年齢が65歳から70歳、70歳から75歳に引き上げられると覚悟しておかねばならない。
高齢者がお金を持っていて悠々自適のリタイア生活を楽しめるというのは、定年退職年齢と年金受給開始年齢が一致していた時代の話である。今は60歳で定年退職してから年金を満額受給できる65歳までの期間は、継続雇用されるか再就職するかしないと無収入になるため“魔の5年”と呼ばれている。その間、仮に生活費が毎月15万円かかるとすれば、5年で900万円の貯金を食いつぶすことになる。
「年金受給75歳時代」が到来したら、60歳で定年退職した人たちには“魔の15年”が襲いかかる。65歳まで定年が延長されたり継続雇用されたりしたとしても、75歳までの10年間は無収入になってしまう。毎月の支出が15万円なら10年で1800万円、15年だと2700万円もの貯金が必要になるわけで、これは大半の人が乗り切れないと思う。
したがって、現在50歳以下のサラリーマンは「国から見捨てられる」という危機感を持ち、会社から給料をもらっているうちに定年後の備えをしておかねばならない。できれば30歳、遅くとも40歳を過ぎたら、自分で「稼ぐ力」=「キャッシュを作り出す力」を磨くべきである。
目標金額は、とりあえず前述の「毎月15万円」に設定すればよいと思う。住宅ローンの返済が終わっていれば、月15万円あったら贅沢をしない限り、それなりに生活していけるだろうし、そのくらいの金額なら稼ぐこともさほど難しくないと思われるからだ。
会社に勤めている間というのは“天国”である。新しいことをやって失敗しても、出世が遅くなったり降格されたりはするかもしれないが、クビにはならない。だから、いろいろなことに積極的にチャレンジして、会社のためではなく自分自身のために、定年退職後の売り物になるスキルと経験を(なるべく会社の舞台を生かしながら)磨けばよいのである。
これからとくに有望なのは、サイバーマーケティングの分野である。たとえば「マルケト(Marketo)」をはじめとするマーケティングオートメーションのパッケージソフト。これは何かというと、サイバー空間にいる多種多様な人々に自社が提供している商品やサービスに興味を持ってもらい、サイトに来てくれた人に対してメールや説明会や電話で営業活動を行い、購入や利用につなげるためのツールである。
たとえば、渋谷や新宿などに店を開いたらコストが何千万円もかかるし、思ったように商品が売れなければ大きな損失を出してしまう。しかし、サイバー空間でお客さんを集めてきて商品を売ることができれば、実際に店を開くよりも格段に安いコストと低いリスクでビジネスを展開することができるのだ。
このマーケティングオートメーションのソフトを使いこなして成果を出すことができれば、引く手あまたになるだろう。なぜなら日本企業、とくにIT化が遅れている中小企業には、そういうソフトを活用しているところが非常に少ないからである。
たとえば、20~30年前から発売されている「勘定奉行」や「大蔵大臣」などの会計ソフトでさえ、使っている会社はそれほど多くない。未だに経理部の社員が昔ながらのシステムで数字を打ち込み、人依存で売掛債権の回収や買掛債務の支払いをやっているケースが大半だ。営業活動も、ほとんどの会社はセールスマンがドブ板を渡って足で顧客を開拓しているし、マーケティングに至っては全くIT化できていない。
マーケティングオートメーションのソフトを導入すれば、競合他社の営業部隊やセールス部隊と戦う必要がなく、売り上げが立った時はクレジットカードと宅配便で商いが完結するので、人手もコストもかからない。
マーケティングオートメーションに限らず、今、サイバー空間には人手をかけずにビジネスを実現できる全く新しいツールが次々と生まれている。会社に勤めている間にそうしたソフトの使い方に熟達して実績を作っておけば、それに対するニーズは日本中にゴマンとある。定年後、そうしたスキルを自らの売りにして転職すれば、もしかすると月15万円どころか、月100万円以上の収入を得ることができるかもしれない。
※SAPIO2017年11・12月号