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再帰の反復

2017-11-17

電磁気の単位系についてのメモAdd Starjrf (green)

有理か非有理か

電磁気の単位系に影響を与えるものに「有理化をするかしないか」がある。これは一見すると単なる係数の取り方の違いにも見えるけど、単位系の間の単位換算を考える上では一番ややこしくなる原因かもしれない。

まずクーロン力とクーロンの法則についての式を、有理化していない形で書くと次のようになる。

 F=qE,¥qquad¥quad  D = ¥frac{q}{r^2},¥qquad¥quad D = ¥epsilon_0 E

一方、同じ法則を有理化した形で書くと次のようになる。

F=qE, ¥qquad¥quad D = ¥frac{1}{4¥pi}¥frac{q}{r^2}, ¥qquad¥quad D = ¥epsilon_0 E

この形で比べると有理化していない式の方が簡潔だけど、微分形で書くと、

  • 非有理化:
     F=qE, ¥qquad¥quad ¥nabla ¥cdot D = 4¥pi ¥rho, ¥qquad¥quad D = ¥epsilon_0 E
  • 有理化:
    F=qE,  ¥qquad¥quad ¥nabla ¥cdot D = ¥rho, ¥qquad¥quad D = ¥epsilon_0 E

となって、有理化した方が式が簡潔になる。

磁場についても、ローレンツ力とアンベールの法則を書いた時、微分形では

  • 非有理化:
     F=qv¥times B, ¥qquad¥quad ¥nabla ¥times H = 4¥pi j, ¥qquad¥quad B = ¥mu_0 H
  • 有理化:
     F=qv¥times B, ¥qquad¥quad ¥nabla ¥times H = j, ¥qquad¥quad B = ¥mu_0 H

という差異になる。

そして非有理化版の式に対して、ε0'= ε0 / 4π 、μ0' = 4πμ0、 D' = D / 4π、H' = 4πH と置き換えると、

¥nabla ¥cdot D’ = ¥rho, ¥qquad¥quad F=qE,¥qquad¥quad D’ = ¥epsilon_0’ E

 F=qv¥times B, ¥qquad¥quad ¥nabla ¥times H’ = j, ¥qquad¥quad B = ¥mu_0’ H’

のように有理化したものと同じ式になる。

なので基本単位の量は同じままで誘電率ε0透磁率μ0電束密度D、磁場Hの値を変更をすることで、非有理単位系と有理単位系との変換ができる。のだけど、これらの量の変換に連動して、他の量も値が変わるので、とてもややこしくなる。

※ 通常、D(電束密度)は分極の影響を組み込んだ形(D=ε0E+P)で定義されるけど、たとえ分極が生じていない場合でも、

という概念上の違いがある。また微分形式で考えると、Eは1形式で、Dは2形式という違いもある。

B(磁束密度)とH(磁場)についても同様に、ローレンツ力(アンベール力)から決まる単位を持つかアンベールの法則から決まる単位を持つかの差がある。(微分形式では、Bは2形式、Hは1形式)。

また、EとDに関してもBとHに関しても、分極や磁化の値を取り込むかどうかという話と、単位が異なっていることによる定数倍の違いの両方の事柄を含んでいて分かりにくい。

三元か四元か

電磁気学に出てくる基本的な値のうち「長さ」「質量」「時間」は、電磁気学の外ですでに値が決められている。なので、あとは電荷あるいは電流の基本量を決めれば電磁気に使う単位系が定まる。

このとき、電荷なり電流なりを「長さ」「質量」「時間」とは独立の基本単位とするのが、四元単位系。

一方、電荷や電流の単位を「長さ」「質量」「時間」から組み立てた次元を持つように定義するのが、三元単位系。三元単位系で電荷や電流がどういう組み立て単位になるかは、他の問題との兼ね合いで決まるので後述。

三元単位系か四元単位系かの違いは単位の次元には影響を与えるけど、数値面ではあまり重要でないとも言える。(三元単位系があったとき、電荷や電流の単位を独立なものに定義を変えれば数値上は全く同じまま四元単位系になるので)。

静電単位系、電磁単位系

電荷あるいは電流の基本単位を定めれば単位系が出来るのだけど、このときε0が1になるように値を決めるのが静電単位系で、μ0が1になるようにするのが電磁単位系。

より広くは、ε0が先に決まって(つまり電荷クーロン力を使って定義して)ε0を切りのいい値にするのが静電単位系で、μ0が先に決まって(電流とローレンツ力を使って定義して)μ0の値を切りのいい値にするのが電磁単位系。

静電単位系

歴史的には電磁単位系が先にできているけど、先に静電単位系を扱う。

上に書いたように、ε0が先に決まるのが広い意味での静電単位系なのだけど、ε0=1 とする単位系を考える。

しかし、有理か非有理かによってε0の表すものがズレるので、非有理の式でε0=1とするのか、有理の式でε0=1なのかで違いが生じる。

例えば、静電単位系の代表であるcgs静電単位系は、「センチメートル・グラム・秒」かつ「非有理」で考えた上でε0=1となるように単位電荷の大きさを決める。

単位電荷の大きさが決まっても、さらに三元単位系か四元単位系かの選択が生じる。

ε0を単位を持たない無次元の1とすると、 F = ¥frac{q_1q_2}{r^2}または F = ¥frac{1}{4¥pi}¥frac{q_1q_2}{r^2}という関係が成り立つので、電荷の単位は独立の単位ではなくなり三元単位系となる。このとき電荷の単位は、[力]1/2[長さ]の次元を持つことになる。

また、ε0は単なる無次元の数1なので式からは省くことができ、μ0の方はμ0=1/c2 (cは光速)となり、[速度]-2の次元の量ということになる。

一方、電荷に対して長さ・質量・時間とは独立な単位を与えると、四元単位系になる。この場合、ε0の値は1であっても、単位を変換する比例係数になっているので省略しない方がよい。

電磁単位系

電磁単位系では、静電単位系とは逆に、μ0=1とする。有理か非有理かの違いによって単位量の大きさが違ってくるのは静電単位系のときと同様。

μ0を無次元の1とすると三元単位系になる。このとき電荷の次元は[力]1/2[時間]となっているので、静電単位系のときの電荷の次元[力]1/2[長さ]とは異なっている。静電単位系と電磁単位系での電荷の値を比較してみると、電磁単位系での電荷の値に光速cをかけるとちょうど静電単位系での電荷の値になる。電荷以外の量についても、光速のべき乗をかけたり割ったりすれば、静電単位系と電磁単位系の間で値を変換できる。


μ0=1なのは、磁石関係を扱う上で有理に働く。

ここまでB=μ0Hとして話を進めてきたけど、普通、HやBは磁性体の内部の磁化ベクトルM(あるいは磁気分極ベクトルPm)の値を取り込んだ形で定義され、H = B/μ0 - M (あるいは B = μ0H + Pm )が成り立つ。

しかし、この式には

  • 単位が違うことに由来するμ0倍のズレ
  • 磁化M(磁気分極Pm)の値を磁場(磁束密度)に取り込む

というふたつの事柄が混在している。

そのため、磁場磁束密度、磁化(磁気分極)の関係を見る時、そのまま比べると尺度の違う単位が混在して関係が分かりにくくなる。値を比較する上では、単位をどちらかにそろえて、B、μ0H、μ0M、Pm の値を見るか、B/μ0、H、M、Pm0 の値を見た方が分かりやすい。

そしてμ0=1ならば初めから尺度が揃うので、磁気のことを考える上で都合がよい。おそらくそのことが、磁気関係の分野で今でもcgsガウス単位系(磁気関係の値はcgs電磁単位系と同じ値になる)が使われている理由のひとつだと思われる。(しかしcgsガウス単位系やcgs電磁単位系は非有理単位系なので、B、H、Mの関係は B = H + M ではなく B = H + 4πM なのだった)。

付記: 磁束密度Bと磁場H

単位系とは直接関係しないけど、磁束密度Bと磁場Hの差について書き留めておく。

19世紀前半に、磁性体の磁気は何に由来するのかに関してふたつの考え方が提案された。

  • 磁気双極子モーメントにもとづくモデル
  • 微小ループ電流によるモデル

その後、どちらのモデルで計算しても磁性体の外では全く同じものになることが分かった。

そしてループ電流と磁気双極子のどちらのモデルを取るかによって、BとHの意味することが変わってくる。(式の上では同じになる)。

(説明の都合上、磁束密度磁場を、小文字のbとhで書くことにする)。

磁束密度磁場の間には次のような関係があるのだった。(変位電流の項は省略)。

 ¥nabla ¥cdot b = 0,¥qquad¥quad ¥nabla ¥times h = j, ¥¥ b = ¥mu_0 h

微小ループ電流でモデル化する磁気双極子でモデル化する

磁性体の磁気をループ電流によるものとする。ループ電流による体積あたりの磁気モーメントの密度を磁化Mで表すと、電流jを外部電流j(ex)によるものとループ電流によるもの∇×Mに分けて

 ¥nabla ¥cdot b = 0,¥qquad¥quad ¥nabla ¥times h = j^{(ex)}+¥nabla ¥times M,¥¥ b = ¥mu_0 h

と書くことができる。

磁性体の磁気磁気双極子によるものとする。磁気双極子の体積あたりの密度を磁気分極Pmで表し、その影響を式に組み込むと、

 ¥nabla ¥cdot b = -¥nabla P_m,¥qquad¥quad ¥nabla ¥times h = j^{(ex)}, ¥¥ b = ¥mu_0 h

と書くことができる。(微小ループ電流を考えないので、電流はすべて外部電流ということになる)。

ループ電流の項を移項すると、

 ¥nabla ¥cdot b = 0,¥qquad¥quad ¥nabla ¥times (h-M) = j^{(ex)}, ¥¥ b = ¥mu_0 h

と変形できる。

磁気双極子の項を移項すると、

 ¥nabla ¥cdot (b + P_m) = 0,¥qquad¥quad ¥nabla ¥times h = j^{(ex)}, ¥¥ b = ¥mu_0 h

と変形できる。

ここでBとHを B = b、 H = h - M のように定義すると、BとHについて

 ¥nabla ¥cdot B = 0,¥qquad¥quad ¥nabla ¥times H = j^{(ex)}, ¥¥ H = ¥frac{B}{¥mu_0}- M

という式が得られる。

ここでBとHを B = b + Pm、 H = h のように定義すると、BとHについて

 ¥nabla ¥cdot B = 0,¥qquad¥quad ¥nabla ¥times H = j^{(ex)}, ¥¥ B = ¥mu_0 H + P_m

という式が得られる。

(磁化Mと磁気分極Pmの大きさがμ0M = Pmのとき、両方の式がちょうど一致する)。

このようにHやBの定義の中に磁化Mや磁気分極Pmの値が含まれることで、HとBの間にμ0倍以外のズレが入ることになる。

MKSA単位系

MKSA単位系は有理4元単位系で、μ0の値を先に決めるので一応は電磁単位系に入る。

電流の単位アンペアの大きさは、出自としては、cgs電磁単位系の単位電流量の1/10の電流量として定義された。そのため、cgs電磁単位系とMKSA単位系の「長さ」「質量」「時間」「電流」の単位量同士を比べると、それぞれ10のn乗倍の違いになっている。

なので、もしもMKSA単位系が非有理単位系だったとしたら、cgs電磁単位系とは各量の桁がズレているだけの違いになっていた。しかし実際にはMKSA単位系は有理単位系なので、cgs電磁単位系(あるいは後述するcgsガウス単位系)との間で値を変換しようとすると面倒になる。

たとえばMKSA単位系がもし非有理単位系だったら、μ0=10-7 NA-2となっていたけど、実際はμ0=4π×10-7 NA-2というキリがいいようなそうでもないような値になっている。

さらにここで磁荷についてのクーロンの法則を思い浮かべてしまうとμ0の値を変に感じるかもしれない。

  • 非有理:
     F = ¥frac{1}{¥mu_0}¥frac{q_1q_2}{r^2}
  • 有理:
     F = ¥frac{1}{4¥pi¥mu_0}¥frac{q_1q_2}{r^2}

これだけを見比べると、非有理から有理の変換でμ0の値が4π倍されるのは間違っている(逆にμ0の値は4πで割るべき)ように見える。

しかし別に間違いではない。非有理単位系から有理単位系に変換したとき、電荷の数値は変化しないのだけど、磁荷の数値は4π倍されるため、μ0が4π倍になっている方がつじつまがあっている。

これに限らず非有理単位系の値を有理単位系の値に変換しようとすると、4πをかけたり割ったりそのままだったりといろいろで分かりにくい。

cgsガウス単位系

歴史的には、cgs(センチメートル、グラム、秒)単位系に対して、まずcgs電磁単位系ができ、それからcgs静電単位系ができた。(いずれも非有理単位系)。

その後、これらの折衷と言えなくもないcgsガウス単位系ができた。(もともとはcgs単位系全般がガウス単位系と呼ばれていたけど、これだけが特にガウス単位系と呼ばれるようになったみたい)。

まずε0=1となるように電荷・電流の値を定める。この時点では、ただのcgs静電単位系にすぎない。

ここで磁束密度磁場の値の定義を変えて、cgs電磁単位系の磁束密度磁場の値と等しくになるようにする。そのためには静電単位系での磁束密度の値Bと磁場の値Hに対してB'=cB、H'=H/c (cは光速)とする。そうすると、このB'、H'がちょうど電磁単位系での値と等しくなるので、このB'、H'の値をガウス単位系での電束密度電場の大きさと定義する。(電磁気の法則の式についても、これに合わせて係数cを付加する)。

この変更によって

  • 電荷・電流および電気関係の量については静電単位系の値に一致し、磁気関係の量については電磁単位系の値と一致することになる。
  • ε0=1(無次元数)なので式から消え、B'=H'なので磁束密度磁場の比例定数μ0も式から消える。
  • ε0が無次元数であること、および、磁束密度磁場に速度の量をかけたりわったりしたことにより、電場電束密度磁束密度磁場が全て同じ単位を持つ。

などの特徴を持つことになる。

cgsガウス単位系とMKSA単位系との値の変換は、cgs電磁単位とMKSA単位系の変換よりもさらに面倒になって、10のベキ乗×有理非有理の影響(4πでかけたり割ったりそのままだったり)×光速のべき乗(主に電気系の物理量の場合)の形になり、これが物理量ごとに細かく違ってくる。

また理屈の上では、ε0=1としてからB'=cB、H'=H/cとする代わりに、μ0=1としてから電場電束密度をE'=E/c、D'=cDと定義しなおしても同様の特徴を持つ単位系を作ることができる。(その場合は、電荷・電流の値は電磁単位系側の値と等しくなる)。

相対論との関係

(単位系で相対論といえばc=1とするのがまず思い浮かぶけどそのことではない)。

cgsガウス単位系はヘルツ1888年に導入している。しかし相対論による後知恵を使うと、cgsガウス単位系の定義でやっているBやHの定義を変更する操作はε0やμ0の値と無関係に行え単位系の選択の問題を離れても意味があることが分かる。

E、D、B、Hの間には、D=ε0E、 B=μ0Hというふたつの関係があるように見えるけど、相対性理論ではEとB、DとHはそれぞれまとまったひとつの量なので、実際には単一の関係になる。(ε0μ0=1/c2となっていてε0とμ0の値を独立に決められないのもそれに由来する)。

ただし通常の定義ではEとB、DとHの大きさがずれているので、ひとまとめとして扱う場合は、定数倍して大きさをそろえる必要がある。

例えば、電場磁束密度はEとcBにするとひとまとめにできて、電束密度磁場はDとH/cにするとひとまとめにできる。これはガウス単位系でcB磁束密度、H/cを磁場と定義したのとちょうど一致する。このようにしたうえで電場磁束密度電束密度磁場の関係式を書くと

¥left(¥begin{array}E ¥¥ cB ¥end{array}¥right) =¥frac{1}{¥epsilon_0} ¥left(¥begin{array}D ¥¥ H/c ¥end{array}¥right)

となる。この式を見ると、cgsガウス単位系で式からε0とμ0の両方が消せたのは、電場電束密度磁束密度磁場の関係を単一の関係に変形した上でその比例定数を1にしたからだと分かる。

またμ0=1、E'=E/c、D'=cDとする単位系は、

¥left(¥begin{array}E/c ¥¥ B ¥end{array}¥right) =¥mu_0 ¥left(¥begin{array}cD ¥¥ H ¥end{array}¥right)

の関係にまとめたうえでμ0=1とした単位系だったと分かる。

またε0とμ0の扱いをもう少し対称的にするなら、

¥left(¥begin{array}E ¥¥ cB ¥end{array}¥right) =¥sqrt{¥frac{¥mu_0}{¥epsilon_0}} ¥left(¥begin{array}cD ¥¥ H ¥end{array}¥right)

とすることもできる。ここで¥sqrt{¥frac{¥mu_0}{¥epsilon_0}}は真空の特性インピーダンスと呼ばれる量で、抵抗と同じ次元を持つ。

さらにこの式の両辺に√ε0をかけると、

¥left(¥begin{array}¥sqrt{¥epsilon_0}E ¥¥ ¥frac{1}{¥sqrt{¥mu_0}}B ¥end{array}¥right) =¥left(¥begin{array}¥frac{1}{¥sqrt{¥epsilon_0}}D ¥¥ ¥sqrt{¥mu_0}H ¥end{array}¥right)

となる。この式の値で電場磁束密度電束密度磁場を定義すれば、ε0とμ0の値に関係なく、電場電束密度磁束密度磁場の値がそれぞれ等しくなる。(マックスウェルの式からε0とμ0を消すには、さらに電荷を (√ε0)ρ、電流を (√μ0)j と定義しなおす必要があるけど、これもちょうど4元電流に対応した変更になっている(通常の定義とは定数倍違うだけ))。

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