”戦犯”と呼ばれた男が初激白

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 石坂泰三、土光敏夫という2人の経団連会長を輩出した名門企業・東芝の不正会計問題は、関与した歴代社長たちの栄光を地に墜とした。なかでも、本来なら石坂、土光に続く財界トップとなるはずだった「テヘランからきた男」の屈辱たるや──同名の評伝を著したジャーナリスト・児玉博氏が、“東芝の戦犯”とまで言われた元社長・西田厚聰氏の本音を丸裸にした。

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 西田厚聰は、東芝壊滅の責任は自分にはないという。では誰のせいだと言うのか。西田は、2009年に社長職を引き継いだ佐々木則夫の責任を明言した。以下は、西田による佐々木評である。

「僕は佐々木がどんな人間か、あまりね(知らなかった)……。佐々木が(故意に)僕を騙したかどうかは分からないけども、騙されたのは事実だね。あいつは猫をかぶっていた」

「どういう人間かって? もうね、自分のことしか考えない。しかも、自分が一番正しい、自分の考えがなんでもかんでも正しいとする人間ですよ」

「他に後継になれるような人間がいたら、そいつを指名していた」

「全体をドライブさせる人間として選んだ。でも間違いだった。何も成長させなかった」

 西田は佐々木社長時代、すでに東芝の危機に気づいていたという。

「(佐々木の就任)2年目ぐらいでしょうね。取締役会でしか会わないけど、もうどんどん売上が減っているわけだから。僕がやっていた時は最高で、7.6兆円ぐらいまでいったんですよ。それが6兆円台になり、ひどいから取締役会で、ここまで売上が落ちたんだから、社長以下副社長、経営幹部は市場に打って出ろと言ったんだ。つまり新規の顧客を目指してみんなで営業活動を始めろということですよ。ところが、まったく外に出ず、馬耳東風です」

 後継指名にしくじった自らの非に言及することは一度としてなかった。「選んだのはあなたですよ」との思いが強まるばかりだった。

◆「分かってほしいのは僕の人格」

 西田は自らが買収を手がけたWH(米原子力大手ウェスチングハウス)による赤字についても、他人事のようだった。震災と原発事故がなければどうなっていたと思うか。それに対する西田の答えは意外とあっさりしていた。

「(3・11の)事故が起きなくても原子力事業は同じような問題が起きたんじゃないでしょうか。先延ばしされただけじゃないかな。すべては経営の問題だから。佐々木のようなことをしていたら早晩行き詰まったんじゃないのかな」

「3・11以前の段階で、世界の原子力事業の状況では、別にWH買収が間違っていたなんて僕は全然思ってないですよ。ただ問題は、3・11が起こったあと、状況は、ここで大きな変化があるわけだから、それに応じて、じゃあ世界の原子力事業はどうなっていくのかなと(予測しなければならない)。それに合わせて、例えば中の構造改革をやるとか、人員削減もするとかですね、手を打っていかなきゃいけない。これが経営なんですよ。それを何もしてこなかったっていうことでしょう、結局は」

 3時間を超えたインタビューの最後に、西田は「これだけは分かってください」とこう力説した。

「分かってほしいのは僕の人格ですよ。経営者としての人格。僕が不正を見逃して、言っては悪いけども、あの時期(リーマンシ・ショック後)、数千億円の赤字が出ている時にですよ。そんな時に100億円だの、200億円なんてゴミですよ。本当ですよ」

 私は会長時代の西田をインタビューした時のことを思い出していた。あれほど夢や未来について語っていた西田の口から溢れるように出てきたのは、佐々木らへの罵りと批判だった。大病の影響もあるのか、自己正当化を繰り返す西田の姿は、ただただ痛ましかった。

 取材前、妻の(イラン出身の)ファルディンが言っていた言葉が印象的だ。

「東芝に対して優しくしてやってください。主人のことはともかく、東芝に優しくしてやってください。みなさん、朝から晩まで真面目に働く人ばかりです。本当に真面目でいい会社です」

 彼女の大きな目からは涙がこぼれていた。
(敬称略)

●取材・文/児玉博(ジャーナリスト):新刊『テヘランからきた男 西田厚聰と東芝壊滅』(小学館)は11月17日発売。

※週刊ポスト2017年11月24日号