(cache)若田部昌澄・栗原裕一郎 対談 本当の「行動経済学」の話をしよう 『かくて行動経済学は生まれり』(文藝春秋)、『行動経済学の逆襲』(早川書房)|書評専門紙「週刊読書人ウェブ」
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読書人紙面掲載 特集
2017年11月17日

若田部昌澄・栗原裕一郎 対談
本当の「行動経済学」の話をしよう
『かくて行動経済学は生まれり』(文藝春秋)、『行動経済学の逆襲』(早川書房)

十月九日、今年のノーベル経済学賞が発表された。受賞したのは、行動経済学者のリチャード・セイラー氏(米・シカゴ大)。行動経済学は、経済学と心理学が融合したものと言われるが、今年七月に刊行されたマイケル・ルイス著『かくて行動経済学は生まれり』(文藝春秋)は、行動経済学が生まれてきた背景と行動経済学を発見した二人の天才科学者、ダニエル・カーネマンとエイモス・トヴェルスキーの足跡を追ったノンフィクションである。
一方、昨年刊行された『行動経済学の逆襲』(早川書房)は、今回ノーベル経済学賞を受賞したリチャード・セイラー氏による自叙伝であり、行動経済学とどのように出会い発展させていったかが豊富な事例とともに語られている。現在、英米の政策にも取り入れられている行動経済学についてセイラー氏の受賞を機に、『本当の経済の話をしよう』(ちくま新書)でタッグを組んだ経済学者の若田部昌澄氏と評論家の栗原裕一郎氏の黄金ペアが本紙の企画で復活! 
現在、ニューヨークにいる若田部氏と栗原氏とのスカイプ対談が実現した。人文系のための行動経済学とは、日本人はノーベル経済学賞を取れるのか、これから行動経済学を学びたい人にも。 
(編集部)
目 次
第1回
リチャード・セイラー氏 ノーベル経済学賞受賞
2017年11月17日
第2回
行動経済学者たちの物語『かくて』と『逆襲』
2017年11月19日に公開
第3回
合理性に対するなんとなくな反感
2017年11月20日に公開

第4回
科学的根拠、ナッジ、パターナリズ
2017年11月21日に公開
第5回
行動経済学の政策への応用状況
2017年11月22日に公開
第6回
日本人はノーベル経済学賞を取れるのか問題
2017年11月23日に公開
第1回
リチャード・セイラー氏 ノーベル経済学賞受賞

若田部 昌澄氏
栗原 
 今年のノーベル経済学賞(正式名称=アルフレッド・ノーベル記念スウェーデン国立銀行経済学賞)は、行動経済学のリチャード・セイラーが受賞しましたが、日本の文化系の人たちの反応はどうも薄くて。ネットで観測していた限りではほぼほぼ無反応でした。人間の行動と心理が研究の主題なんだから、特に文学方面とか、多少はリアクションする人がいるだろうと思ってたんですけど。
若田部 
 セイラーの『行動経済学の逆襲』(以降『逆襲』)が早川書房から出ていますが、同じくノーベル文学賞を受賞したカズオ・イシグロにしても、早川書房は欧米で流行っているものに対してリアルタイムで接していて、アメリカやイギリスでベストセラーになるような本をいち早く翻訳していますね。
栗原 
 今日来る前に、Twitterで「行動経済学」を検索したら早川書房の人が「人間の不合理性と行動経済学とカズオ・イシグロ作品の登場人物の関係についてだれかに書いて欲しい」って呟いていたんですけど、見事にスルーされていて(笑)。カズオ・イシグロって実は日本ですごく読まれていて、TBSでドラマ化された『わたしを離さないで』(早川書房)は、受賞前にすでに五〇万部も売れていたそうです。二〇〇二年に行動経済学で受賞したダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー あなたの意思はどのように決まるか?』の邦訳も早川書房でした。目の付けどころが良い上に早い。 
若田部 
 ルイスもセイラーも原書はアメリカW.W.Norton&Companyという出版社が出していますが、ここは目の利く編集者がいて、ポール・クルーグマン(二〇〇八年ノーベル経済学賞受賞)、ジョセフ・スティグリッツ(二〇〇一年ノーベル経済学賞受賞)の本なども出していて、早川書房はそこの本を結構出しています。
栗原 
 マイケル・ルイスの『かくて行動経済学は生まれり』(以降『かくて』)が文藝春秋から出たのはちょっと意外な印象でした。
若田部 
 マイケル・ルイスの本だからではないでしょうか。ルイスの『世紀の空売り』(二〇一〇年)を文藝春秋が出しています。表紙もルイスが大きく取り上げられている。
栗原 
 『フラッシュ・ボーイズ10億分の1秒の男たち』(マイケル・ルイス著/二〇一四年)も文藝春秋なのでその流れか。じゃあ、今回は棚ぼたですね(笑)。若田部先生は『かくて』は原書で読まれたということでしたが。
若田部 
 原書で読んで、もう一度日本語で読み直しました。
栗原 
 翻訳のせいなのか、正直だいぶ読み難かったんですけど、原書はどうですか?
若田部 
 原書はさすがにルイスなので滑らかですよね。確かにちょっと翻訳が良くないかもしれない。誤訳のように思われる個所が一つ、二つくらいあったかな。栗原さんは読んでいかがでしたか?
栗原 
 序章でベースボールの話から入って、第一章ではバスケットボールのNBAの話に続くじゃないですか。マクラなんですけどそれにしては長くて、早く本題に入れよと思ってしまいました。
若田部 
 アメリカ人向けに書かれているということが大きくて、アメリカ人の大好きなNBAの話題に較べて、カーネマン&トヴェルスキーの話題はマニアック。要するに二人の研究オタクの話ですよね。だけど二〇一一年にアメリカで映画化もされた『マネー・ボール』(二〇〇四年ランダムハウス講談社/二〇一三年ハヤカワ文庫NF)の話はもっとメジャーだし、NBAの話になるとアメリカ人はおっ!となる。それを掴みにしようとしたのではないでしょうか。
栗原 
 なるほど。でも日本人には馴染みが薄いので……。
若田部 
 掴みになっていない(笑)。
栗原 
 これから『かくて』を読む方は、第二章の「ダニエル・カーネマンは信用しない」から読んだ方が良いかもしれません(笑)。
若田部 
 ただ、読み進めると序章はともかく第一章「専門家はなぜ判断を誤るのか?」はそれなりに意味があるというのはわかってくる。NBAチームのGMがスカウトをする時に統計データを分析してある種のパターンを見出していくみたいなやり方と人間の直感みたいなものがどうかかわってくるか。読み進めたあとで思ったのですが、第一章はそれなりに意味があって布石だったのかなと。それにしては長い(笑)。
栗原 
 『かくて』の本編は、カーネマンとトヴェルスキーという二人の天才の数奇な友情と悲しい別離みたいな話で、一種の人間ドラマですね。トヴェルスキーが亡くなった後に、共同研究した行動経済学でカーネマンだけがノーベル経済学賞を受賞してしまう。そしてカーネマンは『ファスト&スロー』の献辞に「エイモス・トヴェルスキーを偲んで」と書くという。 
若田部 
 トヴェルスキーが生きていたら二人で受賞したと思いますけどね。ノーベル賞は生きている人にしか与えられない賞ですが、実は受賞が決まって三日後に亡くなった人もいます(ノーベル賞の規定では授賞決定後に本人が亡くなった場合には授賞が取り消されることはない)。ウィリアム・ヴィックリー(一九一四~九六年/一九九六年受賞)というカナダ出身の経済学者ですが、『ダークナイト』のヒース・レジャーのように死んでからアカデミー賞が与えられることはないわけです。
第2回 行動経済学者たちの物語『かくて』と『逆襲』 2017年11月19日掲載

この記事の中でご紹介した本
2017年11月17日 新聞掲載(第3215号)
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