介護施設や事業所などで利用者に対する『虐待』を知ってしまったり、見てしまったりした場合には、
『高齢者虐待防止法』に基づき『通報義務』があります。
そもそも、明らかな暴力や暴言や身体拘束などだったら『虐待』だとわかりますが、介護業界には『何でもかんでも虐待』だと言ってしまうきらいがあります。
【参考記事】
『何でもかんでも「身体拘束」と言って禁止してしまうのも限界がある』
揚げ足取りのような状態なので、現場の職員からすれば
・何が良くて何が悪いのか
・利用者の近くに直立不動で立っているだけで虐待なのかもしれない
・そうなってくると施設の存在自体がそもそも虐待なんじゃないだろうか
という禅問答のようになってしまい、
『職員も利用者も本来あるべき姿を見失いがち』です。
◆高齢者虐待防止法の内容は?
虐待の種類などについては
『高齢者の虐待(グレーゾーン)考察』
の記事で紹介していますのでご参照下さい。
そういった『虐待』があった場合は、高齢者虐待防止法の下記規定により速やかに市町村に通報しなければなりません。
(養護者による高齢者虐待に係る通報等)
第7条 養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養護者による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
(養介護施設従事者等による高齢者虐待に係る通報等)
第21条 養介護施設従事者等は、当該養介護施設従事者等がその業務に従事している養介護施設又は養介護事業(当該養介護施設の設置者若しくは当該養介護事業を行う者が設置する養介護施設又はこれらの者が行う養介護事業を含む。)において業務に従事する養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
2 前項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、当該高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じている場合は、速やかに、これを市町村に通報しなければならない。
3 前二項に定める場合のほか、養介護施設従事者等による高齢者虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者は、速やかに、これを市町村に通報するよう努めなければならない。
簡単に、そして厳密に解説すると、
・高齢者の生命または身体に重大な危険が生じている場合
→絶対、市町村に通報しなければならない【義務】
・高齢者の生命または身体に重大な危険は生じていない場合
→市町村に通報するように努力しなければならない【努力義務】
ということになります。
そして、正義感を持って虐待の通報をした『通報者を保護する規定』もあります。
第二十一条
6 刑法の秘密漏示罪の規定その他の守秘義務に関する法律の規定は、第一項から第三項までの規定による通報(虚偽であるもの及び過失によるものを除く。次項において同じ。)をすることを妨げるものと解釈してはならない。
7 養介護施設従事者等は、第一項から第三項までの規定による通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けない。
高齢者を守るために、法律があり、
法律に則って『通報義務』が生じ、
通報したことによって不利益を被らない
『通報者保護規定』もあり、
一見、これで何の欠陥のないシステムのように見えますが、果たしてそうでしょうか。
◆通報者だけがバカを見るシステム
もちろん、利用者を守るために正義感や倫理観を持って通報したり闘っていくことは大切なことです。
しかし、それは
『本当に通報した自分が守られる保障があってこそ可能』
なのです。
自分が守られないのに、
他者を守ることはどう考えても不可能です。
『通報者保護規定』があるじゃないか、
と思われるでしょうが、
この規定には重大で最大の致命的な
・瑕疵(かし)
・欠陥
・落とし穴
があります。
この保護規定には『罰則』がありません。
通報者を保護しなくても、犯罪にならないし、罰金もないし、不利益も発生しないのです。
そんな規定を守ろうとする企業や事業所や会社は殆どないでしょう。
むしろ、逆恨みをされて損害賠償を請求されてしまうかもしれません。
そうなってくると、
『通報者は完全に損』
なのです。
『損』なことをするような『義務』を課せられているのが、現在の法律になります。
唯一の対抗方法は、
損な扱いを受けた『あとに』
民事裁判で争う方法です。
損なことを未然には防げません。
あくまでも損を被ったあとに、
勝つか負けるかわからない裁判を、
・高い弁護士費用を支払い
・時間と労力を消費し
・嫌な思いをしながら
争っていくしかないのです。
その時点で、仮に勝訴できたとしても、
『既に色々損』なのです。
◆ニュースを見ていてもやはり損
福祉業界ではありませんが、以前、
『内部告発者名を企業側に漏洩 横浜市、産廃処理めぐり』
というニュースの考察記事を書きました。
行政の職員の不手際で、
会社に通報者の名前はいとも簡単にバレてしまいます。
そんな状況では、
おちおち通報や告発なんかしていられません。
障害者施設での通報者が不利益な仕打ちを受けているニュースもありました。
虐待があったのはさいたま市の障害者就労支援施設「キャップの貯金箱」(昨年12月閉鎖)。職員だった女性の通報を受け、市は2015年5月から監査に入り、男の職員が知的障害の男性利用者2人の裸の写真を撮影し、一部を無料通信アプリ「LINE(ライン)」で同僚に送るなどの虐待をしていたと認定し、翌月に改善を勧告した。
訴状によると、女性はこの件などを15年3月に市に通報。その後、テレビの取材に同様の証言をした。
施設を運営するNPO法人「キャップの貯金箱推進ネットワーク」は、市の改善勧告直後、ホームページに利用者の母親が書いた文章だとして「(女性の)言動に社会人として逸脱しているような事があり理解できなかった」「告発という形で外部に発信すること自体が本当の虐待」などという趣旨のメッセージを掲載。さらに10月には「テレビの取材に虚偽の説明をした」などとして約670万円の賠償を女性に求めた。
女性は通報の翌月に退職。これらの影響でうつ病になり、現在も通院を続けているという。裁判では施設側への賠償の支払い義務がないことの確認なども求める。
女性は「通報したことで仕事も辞めざるを得なくなった。施設側の報復を放置すれば虐待の通報ができなくなり、声を上げられない障害者にしわ寄せが来る」と訴える。
当時施設長を務めていたNPO法人の戸塚幹男代表理事は「訴えの内容を確認していないのでコメントできない」としている。
引用元:毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20170228/k00/00m/040/111000c?inb=ys
こうなってくると、
何が『本当の正義』なのかわかりません。
うがった見方をすると、
『通報なんかしても得をしないんだからやめておけよ』
という囁きさえ聞こえてきそうです。
法律に本当に守られているのは、
悪質な企業であり事業所であり会社なのです。
◆通報者の保護規定に罰則を
『匿名とか身元を明かさずに通報する』
という手もありますが、
その場合は行政も信憑性に欠けるため、
余程、強力で有力な『証拠』が無いと動きません。
証拠を集めた上で、
・電話
・封書
・電子メール等
で通報可能です。
しかし、そういう手間を掛けてでしか通報しづらい現状が本当にバカげていると感じます。
『本来の目的はどこにあるのか』
ということをもう一度考えて頂き、
通報者の保護に対しては罰則規定を設けて欲しいと思います。
そうすることで、
『介護業界の闇』が照らされ、
世間の皆様にも知って頂くことで、
健全な業界運営が出来るというものではないでしょうか。
介護業界の事件が報道されていますが、
本当にそれらは氷山の一角だと思います。
利用者のためにも、
職員のためにも、
事業所のためにも、
業界のためにも、
超高齢社会へ突入する日本のためにも、
前向きに検討頂きたい重要事項のひとつです。
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この記事へのコメント
primex64
その代り、大企業等は社内規程等を整備して通報者に不利益を被らせた社員への懲戒・処分既定を定めているところが多いです。弊社もそうで、程度により懲戒解雇に至ります。
山嵐
こんにちは~
コメントありがとうございます^^
大企業だけでなく、全ての企業にそういうコンプライアンスがあれば良いですね。経営者を監視する第三者や株主などの存在があると環境も変わってくるのかもしれませんね。