2017-11-17

笑っちゃう

「私、お父さんのこと好きなのよ」

夕飯後、テレビを観ていると母が唐突に呟いた。

母はあまりそう言うことを口にする人ではなかった為、私は内心とても驚いた。

「知ってるけど」

「そうなの?」

「そうじゃなきゃ、私が生まれてないでしょ」

母の反応が面白く笑ってしまった。

「ああ~それもそうなんだけどね。お父さん、絶対に私のこと見つけてくれるの」

「どういうこと」

「はぐれた時とか、私が写ってる集合写真を見た時とか、真っ先に見つけてくれるのよ。大したことじゃないかもしれないけど、それが凄く嬉しくて」

「それは嬉しいでしょ」

「見つけてもらって嬉しいのは私の方なのに、お父さんの方が嬉しそうな顔してるの。笑っちゃうでしょ」

それを「幸せ」と言うんじゃないだろうか。

「言えばいいのに」

「誰に」

「お父さんに」

「ええ~それは無理」

「酷い。明日にでも言いなって」

「考えておく」

空になったコップを持ち、台所に向かった母の背を見ながら「絶対に喜ぶよ」と声をかけた。

「わかったわよ~」

しかたなさそうに声を上げる母の声を聞きながら、直接言えたら最高なのになとひとり思う。

仏壇の前で手を合わせながら幸せそうに微笑む母の姿を見て、父も幸せそうな顔をしてくれたらいい。

──お似合いだよ

笑っちゃうくらい、お似合いだよ。

記事への反応(ブックマークコメント)

 
 
アーカイブ ヘルプ
ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん