「私、お父さんのこと好きなのよ」
母はあまりそう言うことを口にする人ではなかった為、私は内心とても驚いた。
「知ってるけど」
「そうなの?」
「そうじゃなきゃ、私が生まれてないでしょ」
「ああ~それもそうなんだけどね。お父さん、絶対に私のこと見つけてくれるの」
「どういうこと」
「はぐれた時とか、私が写ってる集合写真を見た時とか、真っ先に見つけてくれるのよ。大したことじゃないかもしれないけど、それが凄く嬉しくて」
「それは嬉しいでしょ」
「見つけてもらって嬉しいのは私の方なのに、お父さんの方が嬉しそうな顔してるの。笑っちゃうでしょ」
それを「幸せ」と言うんじゃないだろうか。
「言えばいいのに」
「誰に」
「お父さんに」
「ええ~それは無理」
「酷い。明日にでも言いなって」
「考えておく」
空になったコップを持ち、台所に向かった母の背を見ながら「絶対に喜ぶよ」と声をかけた。
「わかったわよ~」
しかたなさそうに声を上げる母の声を聞きながら、直接言えたら最高なのになとひとり思う。
仏壇の前で手を合わせながら幸せそうに微笑む母の姿を見て、父も幸せそうな顔をしてくれたらいい。
──お似合いだよ
笑っちゃうくらい、お似合いだよ。