『日本語の作文技術』という本を読んでいます。わかったつもりでも、いざ推敲のときに使えていません。そこで、こまめにまとめることにしました。なるべく自分の言葉で書くようにします。多少間違えて覚えてしまう可能性もあります。でも、自分の言葉で書かないと自分のモノにならないんですよ。
今回は、読点「テン」のうちかたです。
読点「テン」のうちかた
原則1: 長い係る言葉が複数ある場合は、その境界にテンをうつ。
まずはこの文章を読んでください。
病名が心筋梗塞だと自分自身そんな生活をしながらも元気にまかせて過労を重ねたのではないかと思う。
この文章のどこかにテンをうちます。みなさんならどこにうちますか?
①病名が、心筋梗塞だと、自分自身そんな生活をしながらも、元気にまかせて、過労をかさねたのではないか、と思う。
②病名が、心筋梗塞だと自分自身そんな生活をしながらも、元気にまかせて過労を重ねたのではないか、と思う。
③病名が心筋梗塞だと、自分自身、そんな生活をしながらも、元気にまかせて過労を重ねてきたのではないか、と思う。
④病名が心筋梗塞だと、自分自身そんな生活をしながらも、元気にまかせて過労を重ねてきたのではないか、と思う
①はあきらかにテンが多く不自然です。しかし、②~④ならほぼ同じ印象をもちませんか?また、自分でテンをうたれた方は、どうしてそのようにテンをうったか説明できますか?
係る言葉
原則に触れる前に「係る言葉」について少し説明させてください。先日、「係る言葉」についての記事を書きました。これです。
「係る言葉」とは「説明する言葉」のことです。例えば、
白い紙。
という文章があるとします。ここでは「白い」が係る言葉です。この「係る言葉」のイメージは、文章を書くときとても参考になります。先の記事では「係る言葉が複数ある場合は、長いものを先にする」と書きました。
さきほどの文章を「係る言葉」に注意してもう一度読んでみます。
病名が心筋梗塞だと自分自身そんな生活をしながらも元気にまかせて過労を重ねたのではないかと思う。
係る言葉は、
①病名が心筋梗塞だと
②自分自身そんな生活をしながらも
③元気にまかせて過労を重ねたのではないかと
この3つです。こういう場合は原則1です。それは、長い係る言葉が複数ある場合は、その境界にテンをうつです。このようにテンをうってみましょう。
病名が心筋梗塞だと、自分自身そんな生活をしながらも、元気にまかせて過労を重ねたのではないかと思う。
読みやすくなったと思いませんか?繰り返します。原則1:長い係る言葉が複数ある場合は、その境界にテンをうつです。
この原則1を使って、次の文章にテンをうってみます。
インターネットのことを何も知らない中高年はもちろん日頃からSNSなどでネットに親しんでいる若者もピコ太郎の大ブレイクには驚いた。
係る言葉は、
①インターネットのことを何も知らない中高年はもちろん
②日頃からSNSなどでネットに親しんでいる若者も
③ピコ太郎の大ブレイクには
この3つです。原則1は「長い係る言葉が複数ある場合は、その境界にテンをうつ」です。そこで、①と②の間と②と③の間の2カ所にテンをうつことになります。
インターネットのことを何も知らない中高年はもちろん、日頃からSNSなどでネットに親しんでいる若者も、ピコ太郎の大ブレイクには驚いた。
こんな感じです。
原則2:強調したい言葉がある場合、先にもってきてテンをうつ。
この文章を見てください(以前の記事でも紹介させてもらいましたが‥)。
体の大きないじめっ子の小林をあの田中が追いかけた。
係る言葉は、
①体の大きないじめっ子の小林を
②あの田中が
の2つです。原則1は「長い係る言葉が複数ある場合は、その境界線にテンをうつ」でした。この文章には係る言葉が複数あります。しかし、2つ目の係る言葉「あの田中が」は短いのでテンは必要ありません。実際テンがなくてもすんなり読めます。
では、次の文章を見てください。
あの田中が、体の大きないじめっ子の小林を追いかけた。
先の文章に比べて「あの田中が」が強調されているように感じませんか。ある言葉を先頭にもってきてそこにテンをうつと、その先頭にもってきた言葉を強調することができます。これが原則2です。強調したい言葉がある場合、先にもってきてテンをうつです。
係る言葉が複数ない場合でも強調のテンは使えます。この2つの文章を読み比べて見てください。
①父は死んだ。
②父は、死んだ。
2つとも間違いではありません。しかし、この2つの文章がどう違うかは明らかです。①に比べ②の方が「父は」が強調されていることがわかります。このように、強調したい語があるときは、文章自体が短い場合でも先にもってきてテンをうてば、強調することができます。
テンをうってはいけない場合
必要なテン
この文章を見てください。
①渡辺刑事が血まみれになって逃げ出した犯人を追いかけた。
テンがないため一気に読んでしまいませんでしたか?これだと血まみれになっているのが渡辺刑事なのか犯人なのかわかりません。そこで、テンをうつため係る言葉に注目してみましょう。
血まみれになっているのが犯人だった場合、係る言葉は
a:渡辺刑事が
b:血まみれになって逃げ出した犯人を
の2つです。原則1は「長く係る言葉の境界線にテンをうつ」でした。そこで、
②渡辺刑事が、血まみれになって逃げ出した犯人を追いかけた。
と「渡辺刑事が」の後にテンをうちます。
※本来なら先の記事に書いた「係る言葉が複数ある場合は長いものを先にする」という原則を適用し、
血まみれになって逃げ出した犯人を渡辺刑事が追いかけた。
とすればテンがなくてもすっきりします。
血まみれになっているのが渡辺刑事だった場合、係る言葉は
a:渡辺刑事が血まみれになって
b:逃げ出した犯人を
の2つとなります。この場合は原則1「長い係る言葉が複数ある場合は、その境界にテンをうつ」を使って
③渡辺刑事が血まみれになって、逃げ出した犯人を追いかけた。
と、します。このテンによって、血まみれになっているのが「渡辺刑事」だとわかります。
不必要なテン
では、この文章を見てください。
④渡辺刑事が、血まみれになって、逃げ出した犯人を追いかけた。
テンがあるにもかかわらず、テンがない①と同様に、血まみれになっているのが渡辺刑事なのか犯人なのかわかりません。
④には2つのテンがありますが、どちらかは不必要なテンです。この文章の場合、先ほどの②か③のようにテンはひとつでなければなりません。この文章の意味が不明瞭になったのは、係る言葉の途中にテンをうったことが原因です。
テンの基本的な意味は、思想の最小単位を示すモノです。読者は意識的か無意識的かを問わず、テンで区切って読んでしまいます。もう一度先の文章を見てください。
④渡辺刑事は、血まみれになって、逃げ出した犯人を追いかけた。
読者は「渡辺刑事が」の後のテンで「渡辺刑事は何をするのか」と考え、その迷いをいったん保留して読み進めます。そして「血まみれになって」の後のテンで、「血まみれになったのは渡辺刑事なんだろうか、それともこの後でてくる何者かなのか」と考え、その迷いも保留して次を読み進めます。そして、この④の文章では読み進めても最後まで血まみれになっているのが渡辺刑事か犯人かはっきりしません。ムダなテンとは「係る言葉の途中のテン」です。
もう一つ例を出します。この文章を見てください。
わたしをつかまえて来て、尋問にかけた連中の一人である、A町の警察の田中が大声で言った。
この文章の主格の「田中」に係る言葉は、
①わたしをつかまえて来て尋問にかけた連中の一人である
②A町の警察の
の2つです。先の原則1「長い係る言葉が複数ある場合は、その境界にテンをうつ」に従うなら、
わたしをつかまえて来て尋問にかけた連中の一人である、A町の警察の田中が大声で言った。
となります。基本はこの形です。先の文章、
わたしをつかまえて来て、尋問にかけた連中の一人である、A町の警察の田中が大声で言った。
がどうしてわかりづらかったかと言うと、思考の最小単位である「係る言葉」の途中でテンをうってしまったからです。確かに①「わたしをつかまえて来て尋問にかけた連中の一人である」という係る言葉は長いので、「つかまえて来て」の後で一呼吸入れるためにテンをうちたくなる気持ちもわかります。しかし、ここでテンをうってはいけません。係る言葉は長さにかかわらず一つの思考の単位です。長いからという理由でそこにテンをうつことは、腕や足などの長い骨を折ってしまうようなものです。
長くても係る言葉の途中でテンをうってはいけない、と覚えてください。
まとめます。今回の推敲技術は「テン」のうちかたです。
原則1:長い係る言葉が複数ある場合は、その境界にテンをうつ。
原則2:強調したい言葉がある場合、先にもってきてテンをうつ。
そして、長くても係る言葉の途中でテンをうってはいけない。
この3つでした。