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「銀行消滅」は、こんな順番でジワジワ進行する

みずほ「大量人員削減」で現実味

みずほショック

みずほフィナンシャル・グループ(FG)が向こう10年で1万9千人の人員削減を行うと発表した。他のメガバンク2行も数千人単位の人員削減方針を発表している。

みずほFGの削減人数が多いことは、同行の経費率が高いことを踏まえると、証券市場関係者の間では「やっぱり」という反応なのだが、海外業務を収益源にできるメガバンクでもこれだけの人員削減が当然視されるのだから、こうしたビジネスを持たない地方銀行などの銀行と銀行員に掛かっている圧力は相当のものだろう。

メガバンク各行は、AIやいわゆるフィンテックと呼ばれるような各種のテクノロジーを含む広義のIT化によって、行員の仕事を置き換えて行く方針だ。これらのテクノロジーの多くが近年急速に進歩していることを踏まえると、銀行員が不要になるスピードは、大方の想像を上回るものになる可能性がある。

わが国の銀行は、現在、(1)長期金利を含めた金利を下方に固定する日銀の政策により貸出の利鞘が縮小し、(2)同時に有価証券運用も困難に陥り、(3)フィデューシャリー・デューティー(金融庁の訳語では「顧客本位の業務運営」)を強調する金融庁の方針下で運用商品による手数料稼ぎにブレーキが掛かり、(4)アパートローンやカードローンといった個人向けの収益性の高いローンも量的・倫理的な壁が見えてきたことなどから、ビジネスモデル全体が窮地に陥っている。

長期金利まで含めたイールド・カーブの操作が政策として適切なのかという問題や、フィデューシャリー・デューティーの重視に見られるように監督官庁が民間企業である銀行の経営の細部に介入することをどう見るかという問題には議論があろう。

 

但し、前者はデフレからの脱却まで大きく変化することは無さそうだし、後者についても、顧客にとって不利な(端的に言って手数料が高すぎる)投資信託や貯蓄性保険を売りつけるような現在のビジネスのやり方では長続きしないことを見越して、金融庁が経営を指導していると見るのが妥当だろう。

加えて、長期的には、ブロックチェーンの技術やクラウド・ファンディングの発達などによって、送金・決済、さらには資金仲介そのものが、銀行を通らなくなる可能性が生じている。

これらに対する凡庸な経営者の反応は、なにはともあれ「経費削減」ということになり、人件費削減のために社員である銀行員を減らして、業務を機械化しようという動きは自然だ。

どこまで「置き換え可能」か

顧客が銀行を訪れるとほぼ例外なく感じる通り、銀行にはいかにも堅苦しい膨大な事務作業があるが、これらは、「AI」と呼ぶレベル以前のIT化で大いに置き換え可能だし、自然言語に対応して学習を深化させるAIを導入すると、顧客に対する対応を伴う窓口業務の多くも、直ちに無人化は難しいとしても、効率化・少人数化が進むことは間違いあるまい。

問題は、判断や対人的駆け引きを伴う法人向け融資のような銀行本来の業務だが、こうした業務に関してもAIによる置き換えが技術的には将来可能であろうとの見通しが有力だ。

銀行の業界内文化を考えた時に「果たして、そこまでやってもいいのか?」と問う声はあるが、それが効率化につながり利益を生むものであれば、銀行間に競争がある以上、順次普及すると考えるのが普通だろう。