弁護士は、事件を基地とリンクして考える県民もいるだろうが、裁かれるのは被告であり、一人の人間であるとした。そして被告や弁護士は、殺意はなかったという言葉を繰り返した。

上間陽子さん

 被告は一日の仕事を終えて自宅に戻り、それからドライブに出掛け、ドライブ先のコンビニエンスストア前で、すれ違いざまに彼女の顔をみかけたら強姦(ごうかん)したくなったと。気絶させて、彼女をトランクに詰めてホテルに連れ込み強姦するつもりだったと。スラッパーとよばれる鉄と鉛でできた打撃棒で何度も彼女の頭を殴ったけれど、彼女が気絶しなかったため、草むらに連れ込んだと。

 そのとき彼女が倒れたので、頭部をどこかに強く打ったのではないかと。それから、倒れた彼女の首を両手でしめ、強姦しようと思って下着は剥ぎ取ったけれど、強姦はしなかったのだと。トランクに彼女を詰めて、どこかに捨てようと思い、雑木林で彼女の首を刺し、膝裏を刺し、ついで肩を刺したのだと。

 これらのすべては偶然起きたことであり、被告にはまったく殺意はなかったのだと。

 確かに被告はただ一人の人間である。そしてその一人の人間は、雨が降ったから傘をさしたとでも言うように、強姦をしたくなったから鉛の打撃棒で彼女を殴って、用意していたナイフで首や膝裏を刺して絶命させ、雑木林に彼女を捨てた。

 傍聴席では、辺りを切り裂くような泣き声が二回あがった。遺族席に座る、彼女を育てあげた母親の声だ。慈しみ育てた娘の最後の時間を知るために、自らの身体を抱きかかえるようにしてそこに座る親のそばで、今日、私たちは被告の弁明を聞いた。  

 軽やかに踊り、にこにこ笑う小柄なあの子が、一房の髪の毛と、骨と、腐敗した衣類になって帰ってきた理由がそのようなものであるということを、私たちは承諾できるのだろうか。迷いなく急所を攻撃できる、殺しのテクニックを持った「良き隣人」に、いつまで私たちの島は占領されなくてはならないのだろうか。(琉球大学教育学研究科教授)