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山賊狩り 吉兵衛達が囲む中、勘兵衛は山賊の存在を認めた。 「賊は何人いたんだい?」 兵吉の問いに勘兵衛は、 「・・・・二十人程で 、足軽や雑兵のような格好の者もいて、 何人かは槍と、一人は弓を持っておりました。でも、 それ以上はあまりよく覚えてなくて・・・・」 「落武者の類かな・・・・」 吉兵衛は腕を組んで考えあぐねる。 「村の者は知っていたんだな? いつの話だ?」 再び平四郎が問い、 「もう何年も前の、城が出来る前でして、 城が出来てからは来なくなりまして・・・・」 と、勘兵衛はボソッと答えた。 吉兵衛は疑って、 「神保家の拡大に伴って、賊は石峰領を 避けるようになった、と? 城が出来る前も、 既に神保領の頃だろう? そんな問題があるなら 本城にでも知らせて、兵を送らせて賊を捕えるなり 討ち取ればいいことではないか」 「ええ、しかし、奴らは常にこちらの様子を伺って、 城に知らせれば報復すると脅してたんで・・・・」 平四郎、兵吉も疑問は消えず、 「ふむ・・・・しかし、それは賊なのか? 隣の二白(ふたしら)辺りの撹乱工作とか・・・・」 「あるいは、二白に思わせようとした 北の昭畑の仕業とか・・・・」 神保と二白、昭畑とは対立には至っていないが、 可能性は無いとも言えない。 「過去の話で解決しているなら、話してもよかろうに、 住民も避けているようだったが、 何かよほど嫌なことがあったのか?」 「いえ、被害と言っても誰か殺されたってわけでは なくて、金品を盗られたり米を奪われたって ことでして・・・・」 「女子(おなご)が連れ去られたとかは?」 平四郎の問いに、 「いえいえ、そんな大層なことには・・・・」 勘兵衛は強く否定した。 「まあそうだろう。あれば村長としての責任を放棄した 罪は大きいからな・・・・そうか、もう昔話で無事に済んだ のであればそれでいいが、それはそれとして、我らは きのう今日とだいぶ歩き回ってな、これから隣村へ 行くにも距離がある故、一晩の宿を願いたいのだが」 勘兵衛宅は村長だけに、他よりも立派な家に なっている。煮え切らない勘兵衛に苛立っていた 吉兵衛は強気で頼んだ。 勘兵衛は観念したのか、 「・・・・では、一部屋を御利用下さいまし」 「かたじけない、実に助かる。飯は近所の者に 頼もうかな。武松、正吉、近所に行って頼んでみてくれ」 吉兵衛は懐から巾着袋を出して、そこから五十文程の 小銭を武松に渡した。一人で雑穀飯一杯として五人分、 薪(まき)代を付けても十分釣りが出る額である。 「では、行って参ります」 二人は出て行った。 吉兵衛らは下男に用意された水桶で足を洗い、 通された板の間の部屋で旅装を解くと、 どっかりと胡座座りで一息ついた。 庭側の戸が開かれ、二面の戸を閉めた部屋で、 平四郎が辺りを伺うように声を潜めて、 「勘兵衛も立場上、酷く被害があっても 認めるわけにはいかないのでしょう」 「うん、俺もそう思える。しばらく滞在して 突き止めるべきかな・・・・」 吉兵衛が腕を組む。 「勘兵衛がこれ以上話すとも思えませんから、 他の住人にも改めて聴いて廻っては?」 兵吉も助言し、平四郎も、 「聴くときは一人のときがいいでしょうね。複数だと 互いに他言無用と見張っているやもしれません」 「そうだね、そうしよう・・・・それにしても、山賊なんぞ がいるとは思わなかったなあ。ということは、 意外と各地でも同じようなことがあるのかな」 「調略によって特定人物の裏切り内応から、特定地域の 一揆とか、必要とあれば何でも十分にあり得ることかと」 平四郎が答えた。 「そうだよな・・・・そういうもんだよな・・・・」 戦の世であれば、敵を騙し唆し、邪魔をして 窮地に追い込もうと、あらゆる画策が為される。 吉兵衛は戦さ場での槍働きでは分からない 駆け引きがあることを改めて痛感した。 陽はすっかり落ちて外は暗くなっている。 「武松達、遅いな」 吉兵衛が気にすると、 「では、それがしが見て参りましょう」 と兵吉が立ち上がり、部屋を出て行こうと 戸を開けて出る寸前、 「・・・・」 数歩戻って部屋に立てかけた槍をつかんで 出て行った。 玄関先の土間では、下男が戸を開けて 外の様子を伺っている。 「どうかされたかな?」 後ろから兵吉が声をかけると、 下男はビクッとして振り返り、 「いえぇ、何も、はい」 と慌てた風である。 兵吉は槍を片手にそのまま外へ出ると 辺りを見回し、近くの民家に寄った。 「若者二人がここへ来ませんでしたかな?」 出迎えた老婦人は怪訝な顔をしつつも、 「いえ、来てませんよ」 やはり警戒しているような、 素っ気ない応対である。 「どこ行ったんだ?」 兵吉が歩いていると、 すぐ近くで言い合う声が聞こえた。 物陰からそっとのぞき見ると、 「!」 村人とは思えない雑兵風の男二人が、共に槍を構えて 武松と正吉を脅している様子だった。 とっさに顔を引っ込めた兵吉は、手早くたすき掛けに すると、急ぎ遠回りに移動して静かに男らの 後ろに迫った。 武松達が兵吉に気づき、男もその視線の動きに 気づいて後ろへ振り返った途端、兵吉は男の喉元へ 槍を一気に突き、もう一人の男が突いて来た槍先を 払いのけ、槍の柄で男の左首元に激しく打ち下ろし、 更に槍先で再び右首元に叩きつけて、 すぐに小手を打たれた男は槍を落として膝を着き、 兵吉の槍先が男の目の前で止まった。 「武松殿、そいつを後ろ手に縛ってくれ」 と、たすきを解いて武松に渡すと、 武松は男の背後に回って、両腕を縛った。 喉を突かれた男は倒れたまま 口を半開きにして動かない。 辺りを見回すと、民家の窓や戸口から のぞき見ていた住人達がコソコソと姿を隠した。 勘兵衛宅の玄関先の土間に、後ろ手に縛られた 男が正座させられ、その横には首辺りを 血塗れにした男が横たわった。 「なに、賊が?」 驚く吉兵衛に兵吉は、 「武松殿と正吉殿を探しに歩いておりましたところ、 この者共が二人を槍で脅しておる様子で、直ちに 後ろから槍で叩きつけ、こやつは喉を打たれて 絶命しました」 「喉を一撃か・・・・」 正座の男は鎖骨でも骨折したのか、苦痛に歪んだ 表情で、肩をすぼめたようにして俯いている。 「近所の住人達も家から様子を伺っておりましたが、 我らが見るとそそくさと家に隠れてしまいました」 武松が困惑の表情で、 「お頭、申し訳ございません、俺らが近所に飯を頼んで いたんですが、どこも何も無いとかつっけんどんで、 色々廻ってるうちに、この二人が現れて何者かと 問われて、脅されていたところを兵吉様に 助けられまして・・・・」 「ふむ・・・・村の者なのか?」 平四郎は男を見下ろしながらにんまりとして、 「・・・・やはりまだ隠し事があるようですね」 とつぶやき、後ろで所在無げに見ていた勘兵衛に、 「勘兵衛、この者らは村人か? それとも とうの昔にいなくなっていた賊の一味か?」 と強い調子で聞いた。 「あ〜それは・・・・」 勘兵衛は言い淀んで言葉が続かない。 「お主が答えぬならこの男に直接聞こう」 と、平四郎は男に顔を近づけて尋ねた。 「おまえは一体なんだ? どこの者だ? 山賊の一味か?」 「・・・・あのう・・・・この者は国境の警備の・・・・」 勘兵衛が何かを言いかけたが、平四郎は、 「戦も無く城からの任務でもなく、武装の男が 村でふらつくのは不自然極まる。国境の警備の 者であれば場違いだ。口出し無用!」 兵吉がにこやかに勘兵衛に、 「旦那、部屋に入っていて下さい」 部屋の向こうには勘兵衛の家族もいて、兵吉は 勘兵衛を押しとどめるようにして部屋に戻し、 静かに戸を閉めた。 平四郎は男に振り返り、 「口を割らぬなら、このまま城に引き出して、 一切合切答えるよう特別に歓迎してやろうか?」 と、脇差を抜いて、 「だが、ただ城に送るには惜しい。我らも 役目上詳しく知らねばならぬ。答えぬなら、 これで掌を貫くか、指を一本落とす というのはどうだ?」 男は打たれた傷が疼くのか、尋問の緊張からか、 額から汗が流れ落ちている。 「一本では不満か? 何本でもいいぞ、 何回でも刺すことも出来る」 「・・・・・・・・」 「先ほどは元気がよかったようだが、一転して寡黙だな。 人間、苦痛が高じると、出したくもない悲鳴や呻きを 出すものだ。出してみるか? 己の声を聞いてみるか?」 平四郎は身を起こすと、 「武松殿、正吉殿、こやつを動けぬように、 しっかり押さえていてくれ」 平四郎は男の頭を掴むと地べたに押さえつけ、 片足で踏みつけた。武松と正吉も左右から のしかかるようにして腕を押さえた。 「さあ、話し声が聞けぬなら悲鳴でも呻きでも 聞かせてもらおうか」 と、平四郎は脇差の先を男の掌に突き立て、 そのままゆっくり貫いた。 唸るような苦痛の声が男から漏れた。 男は掌を貫かれた後、指を一本二本三本と 切り落とされて行くが、低く鈍く呻き、 時折嗚咽している。 前で座って男を見下ろしている吉兵衛も 不快さは消せず、目を細めた。 平四郎は微笑んで、 「なかなか頑張る奴だな。よし、 褒美に歯を一本一本取ってやろう。喜べ」 と、押さえていた足で男の顔を横向きにさせると、 頬に脇差を当ててゆっくり刺し始めた。 男は慌てて唸りを変えて、 「ああ、ああ、ああ!」 と強く喉を響かせた。 平四郎は脇差を抜くと、 「ん? 何か言いたいことがあるか?」 と男に聞いた。 男は口から血を流しながら悲痛な調子で、 「わかった、話すから、勘弁してくれ!」 と、かすれ気味に叫んだ。 男は山賊の一味と白状した。 平四郎が吉兵衛に報告する。 「石峰城築城前後で、本城から大々的な山賊の 掃討作戦があったようですが、その時の残党が 領外へ逃げ延び、再び領内に入り込んだようです」 「以来、ずっと村に入っていたと?」 こうなると、築城以降賊は来なくなったとする 勘兵衛の言い分は嘘ということになる。 勘兵衛が呼び出され、 「勘兵衛、偽れば重罪になることくらい、わかるな?」 再び平四郎が笑みを持って勘兵衛に顔を寄せた。 傍らには一人の遺体と、両手を後ろに縛られたまま、 手と口周辺が血糊にまみれてうずくまっている男がいる。 勘兵衛も、事によったら同じく拷問を受けるだろう ことは容易に想像出来る。 「おお、お脅されたんです、城に知らせたら 村のもん皆殺しにすると脅されて、時々金や米を 分けてくれればそれでいいって言うから、それで・・・・」 「それで城には知らせず賊に屈していたと?」 「いえ、知らせたんです、村役人には知らせたけど・・・・」 「何も無いと?」 「はい、それで城へ使いを出したこともありましたが、 善処するの一言で返されたそうで」 吉兵衛は納得が行かない。 「妙だな、城が放っておくわけがない。 知れば賊を討つべく即刻兵を出したはずだ。 いったい誰に知らせたのか?」 「聞いたところでは、門番に話して城内には入ったそう ですが、その後対応した方に改めて説明したものの、 そこで返されたそうで、それ以上は・・・・」 「で、その村役人は今はどこに?」 「・・・・それが・・・・」 勘兵衛が指差したのは遺体だった。 「本人を逃すための偽りでは困るぞ?」 平四郎がささやくように言うが、 「いえ、その者はこの村の出で由蔵と申しまして、 築城後に年貢取り立て役を担っておりましたが、 賊に何か便宜を受けたのか、すっかり賊と行動を 共にして外れてしまいまして・・・・」 「・・・・すると、ここの役人と、城内にも賊と組んで 私服を肥やす不逞役人がいるのか・・・・?」 (えらいこと知っちまったなあ・・・・) 吉兵衛は衝撃を受け困惑した。 「・・・・これは一大事ですな」 兵吉がつぶやいた。 石峰領内の村が山賊の言いなりになっていたと なれば、それを許し、あるいは放置していた城側など 複数人の責任問題に発展し、兵吉が言っていたように、 捕えられて逆磔(さかばっつけ) の重罰か、 責任者は即刻切腹くらいは免れないだろう。 「・・・・村が明かさなかったように、石峰城としても 大っぴらには出来ないな・・・・本城に伝わったら どんな目に遭うやら・・・・」 山賊の放置どころか、一部とはいえ村が支配されたも 同然の何年もの放置とあれば、石峰城の大失態である。 本城が知れば城主の箕山内匠助は責任を取って蟄居閉門か、 減封か転封か、いずれにせよ無事では済むまい。 「兵吉殿、殿(箕山内匠助)は、元は地元国人衆の 長(おさ)であるはずだが、貴殿は先日、内匠助様が 本城からこちらへ城主になるべく移られて、その際に 親方共々付き従って来たと申しておったな」 「はい、左様に」 「城が出来てから移って来たわけだな」 「はい、殿と譜代家臣であられる城山修理様が 共に隠居所の場も兼ねて西北の守りとして築城が 決まり、先代武蔵守様から任されて移ったとのこと」 「うん、俺もそれは聞いた。それ以前は城は 無かったそうだな」 「はい、元々は南にある先山(さきやま)城が 国人の本拠地でしたが、殿と修理様は若い頃より、 共に本城に詰めておられたようで、加増を兼ねて こちらに移ったようです」 二人が若い頃より本城にいたのであれば、 三十〜四十年前、もっと前からかもしれない。 「ふむ・・・・ならば石峰築城以前は、 殿も修理様もこの地の事情には疎いか・・・・」 吉兵衛はしばらく考えていたが、 「勘兵衛、賊はまだ山中にいるわけだな? 人数は二十人か?」 「はい、はっきりしませんが、 およそそのくらいかと・・・・」 (こりゃ俺らだけじゃ手に負えねえな・・・・) 吉兵衛達は捕らえた男を連れて 一旦城に戻ることにした。 「・・・・お頭」 武松が何か言いたげな顔を見せた。 「あ、そうか、なんか足りねえと思ったら、 飯食ってねえな。まあいいや、城で頼んでみよう」
by huttonde
| 2017-11-17 15:30
| 漫画ねた
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