ニッポン
世界的ブランドが次々と敗れ去っていく日本は「香水砂漠」だった!|フランス紙「ル・モンド」が徹底取材
From Le Monde (France) ル・モンド(フランス)
Text by Nicole Vulser
世界中のクリスマス商戦で売れまくる「香水」だが、日本ではさっぱりだという。香水メーカーや販売店はこの現状を打破できるのか、本場フランスから「ル・モンド」が取材を重ねた。
そこで浮かび上がってきたのは、「好きな香りを自由にたしなむこと」は「空気を読まないこと」だと考える日本の国民性であった。
日本人は香水より風呂が好き
60歳以上の日本人男性は特別な場合を除いて香水をまったく使用しない。せっかくプレゼントでもらっても、まったく使わないまましまい込んだ、という人も多い。
女性は少しずつ大切に使用することもあるが、この状況は業界にとって頭の痛い問題である。フランスはルイ14世の時代から香水文化が発展しているが、日本人は歴史的に香水に対してまったくなじみがないのだ。
いったいどうすれば市場を開拓することができるだろうか。
残念ながら、いまの日本人の日常生活に、香水の入る余地は少ない。
「地下鉄のなかで誰かが香水をつけていると怪訝な顔をされるので、つけるべきではありません。それは、招かれてもいないのに他人のプライベートに無理に入りこむようなものなのです」
社会学者であるジャン=マリー・ボイソーは著書『日本の日常美学(未邦訳)』でこう指摘した。
クリスマスには世界中で香水が売れまくるが、日本だけはやはり例外になるようだ。
「歴史的に見て、日本は水と入浴に重きを置いている国です」と、資生堂の代表取締役社長である魚谷雅彦は言及した。資生堂は、「セルジュ・ルタンス」「エリー・サーブ」「イッセイ ミヤケ」「ナルシソ ロドリゲス」の国内販売ライセンスを取得している。
魚谷はさらに、「日本人女性は香水を日中に使おうとしません。夜にしっかりドレスアップして出かけるときに限って、たまにつける程度です」と述べた。日本最大の化粧品会社グループのトップは、香水の普及について悲観的に考えているようだ。
「日本においてエレガントであることは、大勢のなかで目立つことではないからです」
代表的な業者でも「守りの戦略」しかできない
この状況に対して、東京の百貨店はどう対応しているのだろう。池袋にある東武と西武、シックな三越日本橋本店、洗練されている新宿や銀座の伊勢丹の香水売り場はどうなっているのか。
実際に訪ねてみると、小さなスペースにあらゆるメーカーの香水を押し込んでいる売り場しか見つからない。化粧品売り場自体は非常に充実しているのだが、美容クリームなどのスキンケア、メイク品に売り場を占領されている状態である。
おそらく、これが百貨店業界の香水に対する論理的な対応なのであろう。
人口1億2700万人を数える大国にもかかわらず、「日本のフレグランス市場の規模はフランスの3分の1ほどです。それに対して、スキンケア市場は6倍。こちらのほうが重視されているのです」とインターパルファム社のCEOであるフィリップ・ベナサンは述べた。インターパルファム社は、「ランバン」「ロシャス」「ジミー チュウ」「モンブラン」「レペット」や「コーチ」の販売権を取得している。
日本の美容市場全体において、香水の占める割合は10%にも満たない。男性の香水となると、数値はゼロに近づくのである。
ブルーベル・ジャパンは、1954年から続く日本における代表的な香水卸売業者だ。現在の同社は、カルバンクライン、グッチ、ミュウミュウ、マークジェイコブズ、フランシスクルジャン、インターパルファム社のライセンスなどの有名香水を、百貨店で販売している。
ブルーベル・ジャパンのセルジュ・グレベールCEOは、百貨店に「香水のアトリエを作る」と宣言。小規模な売り場を百貨店に展開している。この取り組みは、香水の販売市場を安定させようとするものだが、「守りの戦略」ともいえる。
巨大販売店も撤退の憂き目に
しかしながら、挑戦は始まっている。
百貨店では、シャネル、サンローラン(ロレアル)、ゲラン(LVMH)の製品について、同じ店内で化粧品と香水を同時に販売しようと試みている。
だが、販売員に寄せられる真面目な質問の内容を見ると、フランス人としては驚くばかりだ。
「香水は肌にスプレーするのですか?」
「洋服につけるのですか?」
「何プッシュすれば効果的なのですか?」
このような厳しい現状について、インターパルファム社のアジア地区代表のフレデリック・シャペルはこう語った。
1 2