米国抜きのTPP発効は日本外交の政治的勝利

 アメリカのトランプ大統領が離脱を表明して過去のものになったかと思われたTPPが11か国での発効へ向けて大筋合意しました。世界のGDPの13.9%を占める規模とはいえ米国の離脱でパワーダウンしたイメージですが、国際政治的には非常に大きなインパクトがあったようです。

 

 近年の国際政治ではアメリカから中国へのシフトが大きな流れとして意識されてきました。特にトランプ政権誕生後は自国中心主義を突き進むアメリカを傍目に中国が国際的な枠組みを主導していこうという意図が明確に表れていました。TPPはパリ協定離脱とも並ぶ大きなインパクトで注目されていました。

東京新聞:日米主導の「TPP」停滞で 中国中心の「RCEP」攻勢:経済(TOKYO Web)

中国、不戦勝か――米「パリ協定」離脱で | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

 

 その状況の中で日本がリーダーシップを発揮してTPPの発効への道筋をつけたことは大きな政治的勝利と言えます。海外メディアも日本のこの成果を高く評価しています。

 

中国か米国か? アジアの答え「いずれもノー」 - WSJ

米国の避けがたい衰退が中国の強力な台頭を招く。これは分かりやすいシナリオだ。

 中国の習近平国家主席が国内で権力基盤を盤石にし、海外では1兆ドル(約114兆円)を超える巨大経済圏構想「一帯一路」を推進する。「ポスト米国」時代を中国が支配するとの未来図は、確かに想像が容易になりつつある。

 だが待って欲しい。アジア諸国には他の考えがある。習主席とドナルド・トランプ米大統領が先週、ベトナムで開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席している頃、最も注目すべき出来事は米中がいずれも関与していないところで起こっていた。

 日本が奮い立たせたことで、環太平洋経済連携協定(TPP)の参加11カ国は新協定案で合意に近づいたのだ。これは市場保護と国有企業を優遇する中国の経済モデルに対する自由主義の代替策を提供する一方、トランプ政権が2カ国協定を推進する中で、多国間相互自由貿易の構想を推進する。

 

過去1週間に起きたアジアに関する他の大きな展開も、安倍晋三首相が率いる日本が主導した。日米にインド、オーストラリアを加えた民主主義4カ国による枠組みの復活だ。「日米豪印」当局者は先週11日にマニラで初会合を開いた。

(中略)

 キングス・カレッジ・ロンドンのハーシュ・V・パント教授(国際関係)は、オーストラリア政府の心変わりを受けて復活した日米豪印4カ国の枠組みについて、「中国の台頭と米国の不能さ」に対処するための包囲網作りだと述べる。

 その両方について懸念を高めている安倍首相は、これまでも似た構想を提案しており、2012年に地滑り的勝利を収めて首相に返り咲く前には、日米豪印4カ国を結ぶ「ダイアモンド」と呼んでいた。それ以前の2007年にインド議会で行った演説では、太平洋とインド洋は「自由と繁栄の海」として「ダイナミックな結合」をもたらしていると語っていた。

コラム:5分で分かる米国抜きの新TPP | ロイター

●政治的には何を意味するか

パワーバランスの変化を予兆している。TPPを復活させるなかで、とりわけ日本やオーストラリアなどの政府は、多国間協定の策定において、これまで米国が担ってきた指導的役割を一部買って出ている。地域の通商・外交において、中国が米国の後を埋めるのが自然だと多くの国が思っていたなか、彼らは存在感を強めている。

 

 これからの国際社会は孤立する米国、停滞する欧州と覇権を狙う中国という構図になると予想されています。その中でTPPの枠組みを通してアジア太平洋地域の国々が新たな選択肢を示せたことは大きな意味を持っています。その動きを日本が主導したという事実が今後の外交にもたらすメリットは計り知れません。この点については安倍首相の大きな得点として評価するべきだと思います。