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機能性食品、初処分の衝撃、大量処分に動揺広がる

 能性表示食品に初となる措置命令が行われて1週間、業界に動揺が広がっている。消費者庁は11月7日、葛の花由来イソフラボンを含む機能性表示食品(以下、葛の花)を販売する16社を一斉処分。「飲むだけで痩せる」と受け取れる広告を「優良誤認」と判断した。届出表示を逸脱した広告は、事業者側のうかつさもある。ただ、食品で16社に及ぶ大量処分は初めて。制度は成長戦略の一環として始まったものだが、信頼を揺るがす事態に発展している。規制に舵を切る消費者庁に事業者からは困惑の声も上がる。
1-11.jpg機能性表示商品「もうこりごり」

 「『葛の花』は死んだ」。今回、処分を受けた1社であるスギ薬局はこう話す。スギ薬局は、今年5月、自ら不適切な表示を認める「お詫び社告」を掲載。一旦は販売を休止していた。

 当時寄せられた問い合わせは数十件。ただ、大半は、商品の再販を求めるものだった。表示物を改め6月後半に販売を再開したが、処分で再びの撤去。「メディアに大々的に取り上げられた。行政が詳細を発表しても報道されるのは一部切り取られた情報。多くの消費者の記憶に残るのは"葛の花がダメ"ということ。支持してくれた顧客も多いので残念だが(再販は)難しいかも」(スギ薬局)と話す。

 処分企業でも明確に販売継続を表明したのは6社。中には「機能性表示食品はもうこりごり」と、制度活用から撤退する企業も現れている。明確に今後も制度を活用する方針を示した企業もわずか6社にとどまる。

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「食品で痩せない」の破壊力

 身から出た錆、と言えなくもないが、今回の処分が制度に与える影響は甚大だ。

 消費者庁表示対策課の大元慎二課長は、処分に際し、制度への影響を「分からない。コメントする立場にない」と話していた。ただ、会見で「食品で痩せるはあり得ない」と発言したインパクトは大きい。

 処分を取り上げたメディアについてある業界関係者は「少なくとも40~50」と話す。当然、「ニュースで扱われているのを見るとだいたい50秒。そうなると切り取られ、ニュアンスが異なる報道がされる」(同)というのは想定される事態。報道各社は「飲んで痩せるはウソ」などと端的に伝えた。

 確かに医薬品的効果である「痩身効果」と、食品で認められる内臓脂肪の減少をサポートする機能性表示は異なるが、消費者から区別はつきづらい。消費者の制度への理解が及ばない中で拡大解釈され、信頼性を揺るがす事態に発展している。

「風評被害」でとばっちり

 問題は、影響が処分対象外の企業にも広がっていることだ。

 「葛の花」は、東洋新薬の独自原料。一律に根拠資料が販売企業に渡され、取扱いが広がったことで、届出を行う企業は27社(未発売も含む)に及んでいる。処分を受けていない企業にも「問い合わせ、返金要請があった」という。中には「50件ほどの問い合わせ、返金を求める声があった」という声もある。

 多くは商品自体に問題がないことを伝え事なきを得ている。ただ、「報道は誤解が生じる内容。これまで販売は好調だったが確実に落ち込む」「制度の信頼性に影響が出るのはやりきれない。顧客対応の負担も大きい。機能性(表示食品)はもうやりません」といった怨嗟の声も上がる。

 今回の処分で一部企業の問題から芋づる式に騒動が拡大する「システマティックレビュー(SR)」のリスクが顕在化した。「消費者庁による報道発表もそれだけ慎重であるべきだったのではないか」(前出とは別の業界関係者)といった声もある。

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うかつな広告大量処分招く

 届出内容を逸脱した表示には、事業者側のうかつさもある。

 「葛の花」は試験の前提条件として、1日8~9000歩の運動、食事制限を前提条件としていた。だが、大半の企業は「食事制限や運動しなくても」と受け取れる広告を行っていた。極端に太った人のイラストなどを用いた点も「BMI25~30の人を対象にした試験」とのかい離があり問題だった。

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 広告制作を巡り、「直接、研究論文を見ていた」と明言した企業は一部。中小企業の多くは、「直接、論文を見て試験条件の詳細は確認していない」(オンライフ、ありがとう通販)、「東洋新薬から提供された資料しか確認していない」(ピルボックスジャパン)など、根拠を正確に把握できていなかった。

 中には、「広告表現は東洋新薬さんにアドバイスをいただいていた」(CDグローバル)という企業もある。「SRの読み解きなど正直、力不足を痛感した。実力がともなっていないとまた今回のようなことになりかねない」(ありがとう通販)など、今後の制度活用上の課題を受け止める企業もある。

 一方、処分企業の一部からは、「処分を受けていない企業の広告を見ても処分企業と同様、太った女性のイラスト、食事制限や運動の表示があいまいで違いが分からない」など処分の線引きを疑問視する声も聞かれる。

 ほかにも、「成長戦略として導入されたが、消費者庁が描いているものと、会社が思っている制度の理解に差を感じた」、「今の状況では色んな制度が混沌としていてどこに照準を合わせたらよいか分からないのが正直なところ」、「専門家が行った研究レビューをこちら側が突っ込んで確認、関与していけるか悩ましい部分がある」など、消費者庁の思惑が分からず、今後の制度活用に悩む企業もある。

「制度」と異なる「広告」の世界

 今回の処分を受け、事業者は新制度に対して認識を改める必要はあるだろう。
 機能性表示食品は、トクホと並び、食品表示法に基づく「保健機能食品」という枠組みの中で一定の機能性表示が認められ、「いわゆる健康食品」と区別されている。

 今回のケースが、これまでダイエット健食を対象に行われてきた措置命令と異なるのは「内臓脂肪を減らす」という機能に対する一定の根拠を認めている点。ただ、「広告」の世界では機能性表示食品も健食も同じ。「優良誤認」があれば一律に取り締まりを受ける。

 今回、限定された条件で内臓脂肪へ働きかけは認めたが、イラストや表示からイメージされる極度の肥満の人を対象に「外見上、身体の変化を認識できる効果」とは認められなかった。

                     ◇

 消費者庁には、「制度を消費者から信頼される制度にする」(岡村長官)などと掲げながら、表示対策課が処分の影響について「分からない。コメントする立場にない」(大元課長)と話したことに「同じ庁内で外部から見たら一緒の立場、政府の方針を担う立場で無関心すぎる」と、連携がとれていないことに対する批判がある。

 一方で業界も「公正競争規約」の策定など、制度の健全な発展を進めていく必要がある。「公正競争規約」がある化粧品は、健食と比べても措置命令が圧倒的に少ない。こうした自浄作用を働かせることができる仕組みをつくっていかなければいつまでも消費者庁による厳しい監視に晒されることになる。


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法執行「成長戦略と一致」

【消費者庁・岡村長官との一問一答】


 「葛の花」を巡る一連の騒動で残る謎が処分前に相次いで出された「お詫び社告」の問題だ。課徴金対策との見方が有力。消費者庁自身は、社告掲載を「企業の自主的な判断」としてこれに言及していない。ただ、処分企業からは「出すほうが望ましいと導くニュアンスは事実としてあった」といった声が複数ある。消費者庁の岡村和美長官の定例会見で聞いた。

                     ◇

 ――措置命令の制度への影響は。

 「引き続き信頼性と利便性の向上に努力する。執行案件との関係は広告の仕方もある」

 ――「いわゆる健康食品」で問題のある広告の規制を先にすべきではないか。

 「健食と機能性表示食品を分けて運用する認識はない。届出が1000件を超え定着する中で通常通り法執行したとの理解」

 ――届出表示に試験の前提条件など詳細の内容を書かせるべきではないか。

 「貴重な意見。これから事後チェックも進める。より良い制度運用に努める」

 ――「成長戦略としての成否」という観点から制度の評価は。

 「(適正な法運用で)制度が信頼されるものになることは成長戦略を阻害しない。正しい制度を作ることこそ成長戦略につながる。ゴールは同じ」

 ――「消費者への浸透」の側面から評価は。

 「あらゆる世代に浸透したかといえば、また2年。ただ、届出が増え市場でも知られつつある。信頼される制度になれば浸透も期待できる」

 ――なぜ処分以前に社告が出されたか。

 「各社の判断でコメントする立場にない」

 ――課徴金の導入前後で景表法の運用が変わったのでは。

 「企業の判断要素に課徴金を考慮して決定した企業がある可能性はある」

 ――「お詫び社告」をしても処分に至らないケースもあるか。

 「(社告は)自主的な判断。当局の判断とストレートに結びつくものではない」

 「措置命令後の社告は、長官の承認が必要。誤認を排除できる内容かしっかり確認する。(処分前の社告は)事前に出せとも言わないし、内容も確認しない」(表示対策課による補足)

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