エクセルを使いこなしたい!
資料作成やデータの整理など、実に様々な場面で役立つエクセル。しかしなんとなく理系やPCに強い人向けのソフトのような気がして、「もっと上手く使いこなせたら、きっと仕事のスピードも上がるんだろうなあ」と他人事のように考えてしまっている人も多いのではないでしょうか。
今回は資料やツールの作成にエクセルを活用することも多い、現役プログラマーに協力を要請。「簡単なのに意外と使っていない人が多い」便利なエクセルの技を20個紹介してもらいました。
文系が「???」となりやすい関数は極力避けてもらったので、今日から使えるテクニックばかりが出揃いました。
※なお、以下で使用しているキャプチャ画像は「Microsoft Excel for Mac 2011」のものです。Windows版とは大きく異なる場合はWindows版向けの解説を加えています。なおWindows版の前提となっているのは主に「Microsoft Excel2010」です。
エクセル技【心得編】
●1.「エクセルの便利機能を使う目的」を理解する
どんなに便利なテクニックも、何のために使うかを理解していなければ宝の持ち腐れです。まずは便利機能を使う目的を最初に理解しておきましょう。それはすなわち、以下の2点です。
・省力化および作業のスピードアップ
・資料などの品質アップ
無駄な動作をできるだけカットし、「資料やデータを作る」という作業に集中するため。その資料やデータを見る人に、必要な情報やこちらが見て欲しい情報に最短でアクセスしてもらうため。この点をまずは頭に叩き込みましょう。
エクセル技【スピードアップ編】
●2.基本のショートカットキーを暗記する
保存やカット&ペースト、操作をもとに戻したり、あるいは繰り返したり……これらの作業をいちいちマウスを使ってやっていたのではどんどん作業スピードは落ちていきます。
「そんな大げさな」と思うかもしれませんが、キーボードからマウスに手を移動する数秒が積み重なれば何十分、何時間にもなります。だからエクセルのスピードアップはまずショートカットキーを覚えるところから始まるのです。
Ctrlやcontrol、command系のショートカットキーの中には、同時に打つキーがそれぞれ英単語の頭文字になっているものがあるので、比較的簡単に覚えられます。上書き保存のSはsave、エクセルを閉じるのQはquitです。
また、切り取りのXはハサミの形、ペーストのVはその部分にコピー・切り取った内容を差し込むイメージを表しています。
こうした覚えやすいものから覚えて、あとから覚えにくいものを覚えるようにすると、暗記速度もアップします。
●3.よく使う機能は「クイックアクセスツールバー」に設定する
「クイックアクセスツールバー」はWindows版のエクセルに実装されている機能で、エクセルのブックの最上段にあるツールバーを指します。デフォルトでは「上書き保存」「元に戻す」「やり直し」の3つが設定されています。
このクイックアクセスツールバー、実は自分仕様にカスタマイズできるようになっています。作業手順は以下の通り。
1. クイックアクセスツールバーの右端にある「▼」をクリック。
2. 表示されたメニューから「その他のコマンド(M)」を選択。
3. 「コマンドの選択(C)」から「ホームタブ」を選択。
4. 追加したいコマンドを選択し、「追加(A)」をクリック。
5. 「クイックアクセスツールバーのユーザー設定(O)」のリストに、4で選んだコマンドが追加されたら、「OK」をクリック。
6 .クイックアクセスツールバーに選んだコマンドが追加される。
かなりの数のコマンドを選べるようになっているので、ざっと眺めてみて「あー、これよく使うやつだ」と思ったものはクイックアクセスツールバーに追加しておきましょう。一気に作業スピードが上がるはずです。
Mac版(2011)にはクイックアクセスツールバーがありませんが、ショートカットキーのカスタマイズは可能です。手順は以下の通り。
まずは「表示→ツールバー→ツールバー/メニューのユーザー設定」をクリックします。
次に「ショートカットキー…」をクリック。
ショートカットキーを設定したい操作を選び、任意のキーを設定したら完了です。カスタマイズするのですから、できるだけわかりやすいキーを設定するようにしましょう。
●4.マウスを買い換える
左右のボタンに中央のコロコロ転がる「スクロールホイール」だけのマウスを、いろいろなボタンがついているマウスに買い換えるだけでエクセルの作業スピードは格段に向上します。
例えば「Logicoolワイヤレスマラソンマウス M705tPC」にはサイドボタンが3つ搭載されており、それぞれのボタンにショートカットキーを割り当てて、ワンクリックで煩わしい作業を終えることができます。
エクセルのショートカットキーに使っても便利ですが、エクセルと一緒にブラウザアプリなどを使う場合はそれらとの切り替えボタンや、Webページの「戻る/進む」に割り当てても作業効率アップにつながります。
さらに作業スピードを上げたいという人には、やや値は張りますが同じメーカーの「ワイヤレストラックボール MX ERGO」もおすすめです。
トラックボールタイプのマウスは本体を動かさずにボールを転がすだけでいいので、手首や腕の負担を軽減してくれます。長時間でも休まず作業が続けられるので、集中力維持につながります。
●5.「使えそうな便利関数」を覚える
「関数の活用」はエクセルを使って作業スピードをアップするには必要不可欠です。しかし正直なところ「それができれば苦労はしない」と言いたい人も多いのではないでしょうか。少なくとも筆者はそうです。
ただ、関数の中には「意外と簡単なのに、そこそこ使える」というものも少なくありません。こうした「自分でも使えそう」というものを少しずつ覚えていくだけでも、作業スピードはぐっと引き上げられそうです。
今回協力してくれた現役プログラマーが提案してくれた関数のうち、筆者のようなエクセル音痴でも使えそうだと感じた関数は以下の5つです。
EXACT とCOUTIFは少しややこしいかもしれないので、以下で簡単な例を見ておきましょう。
EXACTはこのように、面倒な正誤の判別を一瞬で行ってくれます。間違っている時、正しい時の表示の設定も、勝手に「FALSE」と「TRUE」にしてくれるので、非常にお手軽です。2つの文字列までしか使えませんが、それでもかなり便利です。
COUTIFはこのように数式を入力します。ここでは住所録の間違いの数をカウントしてみました。他にも「男女の人数」や「0以下の値の数」など、いろいろな使い方ができそうです。
こうした簡単な関数を使っているうちに徐々に難しい関数が使えるようになっていけば、エクセルの力も徐々に伸びていくはずです。
エクセル技【品質アップ基本編】
●6.拡張子を表示して、「何のファイルか?」をわかりやすくする
WindowsでもMacでも、拡張子は基本的に表示されない設定になっています。これは不用意に拡張子を変更して、ファイルが開けなくなるという事態を防ぐためです。
しかし拡張子を非表示にしていると、アイコンや拡張子を偽装したウィルスファイルをうっかり開いてしまうかもしれません。資料やデータとしてエクセルを受け取る側からしてみれば、「拡張子が表示されている=そうした不安への配慮がされている」ということになります。
したがって、拡張子を表示させることは、エクセルの品質アップにつながるのです。
Macで拡張子を表示させる手順は以下の通りです。
まずは拡張子を表示したいファイルを右クリックし、「情報を見る」を選択します。
表示されたウィンドウの中ほどに「名前と拡張子」という項目があるので、この部分の「拡張子を隠す」のチェックを外します。
するとこのように拡張子が表示されます。ここではrtfを例にとりましたが、エクセルでもまったく同じ手順です。
Windowsの場合は以下の手順となります。
1.フォルダーのメニューバーで「整理→フォルダーと検索のオプション」の順に移動する。
2.「フォルダーオプション」のダイアログボックスで「表示」タブをクリック。
3.「詳細設定」の「登録されている拡張子は表示しない」のチェックを外して「OK」
をクリック。
4.拡張子が表示される。
●7.「A1セル」に移動してから保存する
複数人で共有や編集を行うエクセルはA1セル、すなわちシートの一番左上に移動してから保存するようにします。例えばホチキスどめされた紙の資料を回し読みする際、読み終わった人は普通1ページ目に戻して次の人に回します。エクセルのファイルも通常左上から見ていくはずなので、これと同じ気遣いが必要なのです。
「いちいちスクロールして戻るの?面倒だなあ」という人はここでもショートカットキーを活用しましょう。Windows版なら「Ctrl + Home」、Mac版なら「command + Home」です。
●8.図形を多く使う場合はセルを「正方形にする」
図形を多用する場合は、「角に合わせて配置する」「図形間の距離を測る」といった作業の効率化と、見やすさの観点からセルを正方形にするのがおすすめです。シートを簡易の方眼紙にしてしまうわけですね。
やり方は以下の通り。
まずは適当なセルのサイズを正方形に調整します。行あるいは列の間にカーソルを合わせてドラッグすると調整できます。正方形になればどのサイズでもOKですが、ここでは0.6cmを目安にします。行も列も同じように調整しましょう。
続いてシート全体を選択し、最初に調整したセルと同じ幅に行もしくは列を調整します。すると……。
シート全体がまとめて調整できます。行・列ともにこの作業を行えば、あっという間にエクセル方眼紙のできあがりです。
●9.文字数が多いセルの縦横を「文字数に合わせる」
セル1つあたりの表示させる文字数が多くなってしまったら、文字数に合わせてセルのサイズを調整しましょう。これによって読みやすさもアップしますが、表の中に視覚的にメリハリも出ます。
前述したドラッグする方法でも調整できますが、該当する行・列の下もしくは右をダブルクリックすると、自動的に文字数が入りきるサイズまで調整してくれます。
ただこの方法で調整すると、文字数によっては1つのセルが大きくなりすぎるので、状況に応じて「折り返して全体を表示する」や「縮小して全体を表示する」なども利用しましょう。
●10.「インデントボタン」を利用して見やすくする
箇条書きなどをする場合、行の頭の文字を下げて階層を作るだけで、一気に内容が理解しやすくなります。しかしここでスペースキーを使うと、手間がかかるうえにデータに「空白」という情報が入力されてしまうことになります。何より階層の修正が必要になると、もう一度延々とスペースを叩く作業が発生します。あまり賢いやり方とは言えません。
そこで役立つのが「インデントボタン」。任意のセルを選択して「インデントを増やす」のボタンを押すと、1回で1段階、2回で2段階と均等に文字を下げてくれます。下げ過ぎれば「インデントを減らす」で修正も可能です。この機能はWord、PowerPointでも使えるので、ぜひとも覚えておきましょう。
●11.「リボン」は基本的に閉じる
何かと便利な機能が、直感的に使えて便利なリボン。しかし自分自身が使う場合はリボンを開かない方が単純に画面が広く使えますし、プロジェクターなどで表示して第三者に見せる場合は、画面が広く見えるうえに情報量が減ります。以上の観点から、リボンは基本的に閉じる、が正解です。
こちらがリボンを開いた状態。
こちらがリボンを閉じた状態。やはり閉じていた方がスッキリしています。
「でもリボンを閉じると不便でしょ?」と思うかもしれません。しかしここで前半で紹介したテクニックが生きてきます。つまりショートカットキーやクイックアクセスツールバー、さらにショートカットボタン付きのマウスなどを駆使していれば、リボンを開く必要性も格段に下がるというわけです。
エクセル技【品質アップ<表作成>編】
続いては品質アップの中でも、表作成に特化して9つのテクニックを紹介します。これらを実践するだけで、これから作るエクセルの表は格段に見やすく、伝わりやすくなるでしょう。
こちらは統計局が公表している東京都の「人口の労働力状態,就業者の産業・職業」をもとに作成した、これでもかというほど見辛くした表です。以下でこの表に9つのテクニックを施して、どれだけ見やすくなるかを比べてみましょう。
●12.行の縦幅を広げる
まずは0.47cmだったセルの縦幅を、0.61cmに広げます。これだけで文字が詰まっている印象が弱まり、かなり見やすくなっています。縦幅の広げ方は、先ほどの「8.図形を多く使う場合はセルを『正方形にする』」のときと同じです。
●13.罫線の「量」はあらかじめ抑える
次に意識するのは罫線の「量」です。ここでは縦の罫線だけをなくしましたが、場合によっては周囲の枠線だけにしたり、逆に枠線だけを消すというやり方もアリです。また、階層が分かれて「セルの結合」などを頻繁に使う場合は、その部分の罫線をなくしてインデントで表現した方がわかりやすくなります。
ポイントは、最初に罫線を引く前に「必要な罫線の量」を見極めてから、最低限の罫線を引くことです。罫線は一度引いてしまうと修正が面倒です。「あとから直せばいいや」ではなく、「最後に引く」という意識を持ちましょう。
●14.罫線の「太さ」を調整する
罫線は量だけでなく「太さ」でも見栄えを大きく変えることができます。罫線をなくしてしまうと本来の区分がうまく視覚化できない場合は、太い罫線と細い罫線を組み合わせて、視覚的なメリハリをつけましょう。
ちなみに罫線の設定の仕方は以下の通りです。
まずは変更したいセルを選択し、そのうえでリボンの罫線メニューから「罫線のオプション…」を選びます。
あとはどこにどんな罫線を引くかを選ぶだけ。斜線も引けます。
●15.英数字のフォントは「Arial」か「メイリオ」
エクセルの標準フォントは「MS Pゴシック」です。文字に関してはこのフォントで問題ありませんが、英数字でもこのフォントを使っていると半角になったときのキメが荒く、見づらくなってしまいます。そのため本文をMS Pゴシックにし、英数字のフォントだけ「Arial」か「メイリオ」に変えると、格段に見やすくなるのです。
こちらが本文、数字ともにMS Pゴシックの状態。
こちらが数字だけをArialにしたもの。ぐっと見やすくなりました。
こちらが数字をメイリオに変えたもの。両者の使い分けは好みで良さそうです。
●16.ファイル全体の行の縦幅を揃える
作業の中であちこち触っているうちに、表の中で行の縦幅がバラバラになっていることがあります。「そんな細かいこと……」と思うかもしれません。
しかし私たちの目が上から下に表を読んでいくときに、縦幅がバラバラになっていると次のセルが現れるまでの目の移動時間に差ができてしまいます。この差は違和感になり、違和感は見辛さ、読みにくさにつながります。くれぐれも注意しましょう。
●17.背景色の「色数」は抑える
PowerPointで「視覚的効果」を狙いすぎると理解しづらくなるように、エクセルも視覚的効果を狙いすぎると失敗します。その筆頭が「色数」です。ここまで見てきた表は黄色にオレンジ、青に赤字と4つの色を使っていましたが、これは使いすぎ。この程度の表ならば1色に減らすべきです。
年代だけに色をつけ、それ以外の色はなくしました。これでかなり情報量が減り、目に優しくなりました。
●18. 原色は使わない
しかしもう一点、色についての修正が必要です。それはすなわち「原色をやめて淡い目に優しい色にする」修正です。
エクセルでデータを見せる際、最も重要なのは「見て欲しい情報を見てもらうこと」です。そのためにはできるだけ無駄な情報を減らし、必要な情報にだけ集中してもらう必要があります。原色は目への刺激が強く、不必要な情報を増やしてしまいます。
原色の黄色を淡い緑に変えるだけで、格段に見やすくなっています。赤や青を使う場合でも、淡い色を使うようにするだけで、品質がアップします。
●19. 情報量が多い場合は「見て欲しい部分」を強調する
エクセルを伝わる情報にするためには、受け手が伝えたい情報にできるだけ簡単にアクセスできるようにしなければなりません。そのためのテクニックが「見て欲しい部分」の強調です。これにより単なるデータの羅列が、伝わる情報に変わります。
例えば昭和25年から昭和60年の間に女性の労働力率が上昇したことを強調したければ、このようにピンポイントで色をつけたり、太字にしたりします。この場合は目を引くために原色を使ってもかまいません。
このほか文字を大きくしたり、行や列の一行目に色をつけたりと、色々な方法があります。データを脇役にして、見て欲しい部分だけをグラフにするという手もアリです。
●20. 大きな表は「ウィンドウ枠の固定」を使う
ずっと下までスクロールするような大きな表の場合、下に行くにつれて「あれ?この列のこの値、何の数字だっけ?」とわからなくなってしまいます。これを防ぐのが「ウィンドウ枠の固定」です。
やり方は以下の通り。
まず固定したい行、もしくは列の隣の行、もしくは列を選択します。Macの場合はリボンの「レイアウト」タブの右端にある「ウィンドウ枠の固定」をクリックし、3つのうちの1つを選びます。ここでは「先頭列の固定」を選びました。
そのあとは表がなくなるまで右にスクロールしても、こんな具合に列だけが固定されて表示され続けます。同じ手順で行のウィンドウ枠も設定すれば、上下左右に動かしても「あれ?この列のこの値、何の数字だっけ?」となることはありません。
なお、Windows版では「表示」タブを選択して「先頭行(もしくは列)の固定」あるいは「ウィンドウ枠の固定」をクリックします。
初歩的なことからコツコツと!
エクセルが持っているポテンシャルを考えれば、ここで紹介した技は初歩的かもしれません。しかし初歩を抑えていないままでは決して中級者、上級者にはなれません。
「あれ?意外とやってないことがあるぞ……」と嫌な汗をかいた人も多いのではないでしょうか。難しいことに挑戦する前に、まずはここで紹介した20の技をマスターするところから始めてみてはいかがでしょうか。