【ニュースの深層】“食い物”にされる実習生 セクハラ、パワハラ、賃金未払い…「奴隷」批判も
働きながら技術を身に付ける「外国人技能実習制度」で、11月から罰則を強化する適正化法が施行された。
制度をめぐっては、これまでセクハラや賃金未払いなど違法行為が相次いでいる。実習生が“食い物”にされ、「人権侵害」との国際批判もある。もともと制度の趣旨は「国際貢献」であるにもかかわらず、新たな制度になっても受け入れ先が外国人を「安い労働力」として偏見的に捉える実態は変わらない。(社会部 天野健作)
受け入れ先から「アホ」「死ね」の暴言
「家族と離れて日本に来て、我慢してきたがつらい思い出ばかりだった」
カンボジア国籍の技能実習生だった男性(34)はこう言ってうなだれた。
男性は平成26年6月に来日後、東京都内の建設会社で配管工として働き始めた。言語能力に難があり、コミュニケーションを取るのに不自由した。直後、上司から「アホ」「死ね」などの暴言を吐かれ、工具でヘルメットを思いっきりたたかれるなどの暴行を受けたという。
27年9月、現場で作業中に電気のこぎりに巻き込まれ、左手人さし指の先端を切断。事故後、受け入れ先から「金欲しさにわざと切ったのだろう」などと暴言が繰り返されたため、精神的におかしくなり、病院で鬱病と診断された。立川労働基準監督署(東京)も労災認定している。
一方、実習生の中国人の女性(44)はセクハラに悩んでいた。
4年前に来日し、茨城県の大葉農家で働き始めた。昼間は収穫作業に従事し、夜は大葉をゴムに束ねる作業をしていたが、この作業は残業ではなく「内職」として、1時間に300円の時給が支払われただけだった。農家に居住していたものの、受け入れ先の男性から身体を触られたり、入浴中に突然、男性が入ってきたりしたという。
2400万円の賃金未払い
パワハラやセクハラにとどまらない。賃金の未払いや違法な過重労働が横行している。
厚生労働省は今年8月、実習生の受け入れ先の監督指導状況を公表。それによると、平成28年に監督指導を実施した5672機関のうち、7割に当たる4004機関で労働基準関係法令の違反が認められたという。
特に不当に安価な賃金で実習生を酷使しているケースが多い。厚労省によると、ある受け入れ先では17人の実習生について、通常の労働時間はタイムカードで管理されていたが、残業や休日労働を別に手書きのメモで記載。その分については時給350~450円で働かせており、計約2400万円の賃金未払いがあったという。
悪徳ブローカーが暗躍
実習生の最大の出身国はベトナムだ。昨年末時点で約8万8千人が来日している。関係者によると、現地では日本へ渡航させるブローカーが暗躍しており、手数料名目で多額の現金を実習生に要求している。一人当たりの手数料は7千~1万ドル(77万~110万円)ともいう。
国連の「人身売買に関する特別報告者」であるジョイ・ヌゴシ・エゼイロ氏(ナイジェリア出身)は2009年夏に日本で状況調査し、翌年に国連人権理事会に次のような報告をしている。
「多くの実習生が、送り出し機関に多額の保証金を支払い、しばしば自宅を担保として追加することが求められている。過酷な状況の下、生活しながら働き続け、奴隷や強制労働に似た慣行を強いられている」
11月に施行された適正化法は国内の受け入れ先を対象としており、出身国の送り出し機関への規制は及んでいない。
制度に詳しい高井信也弁護士は「制度は目的と実態が大きく乖離(かいり)しており、国際貢献ではない。新しい制度になっても、中間搾取など構造的に変わっておらず、問題はなくならない」と話している。
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「外国人技能実習の新制度」=適正化法の施行で、法務省と厚生労働省が所管する「外国人技能実習機構」が新たに設立され実習生の受け入れ先への監視を強化した。受け入れ先から出された実習計画を認定したり、実習生の相談支援を担ったりする。認定には報酬が日本人と同等であることを示す資料などが必要。受け入れ先を監査・指導する監理団体は11月1日現在、292。暴行や脅迫で労働を強制する悪質なケースには、懲役(懲役1年以上10年以下)や罰金刑(20万円以上300万円以下)が科される。