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あなたも“欲しがらない”世代?

経済統計を見ると景気は回復しています。しかし消費に力強さは見られず、特に若い世代に勢いがない。政府も、エコノミストも、それを問題に思っています。消費者庁は、ことしの消費者白書で「消費に消極的な若者」の特集を組んで分析しています。なぜ若い世代は“使いたがらない””欲しがらない”のか?考えてみました。(どうなる経済“新時代”取材班)

データで見える若い世代

まずは、このデータ。「平均消費性向」という指標です。収入から、税金や保険料を差し引いて、手元に残ったお金(可処分所得)のうち、どのくらいを消費にまわしているかを見るデータです。一般に、高ければ、消費意欲が旺盛だといわれます。

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左は全世代の平均。1984年(86.2%)から2014年(78.4%)の30年で7.8ポイント下がりました。

右は30歳~34歳の平均。1984年(87.1%)から2014年(73.8%)に、こちらは13.3ポイントも落ち込みました。

見比べてもらえば、右の落ち込みが大きいのは明らか。30~34歳はこの30年で、ぐっと消費に慎重になったのです。

それより若い世代も傾向は同じです。25歳~29歳は10.9ポイント、25歳未満の世代は11.9ポイントと、いずれも平均より大きく落ち込んでいます。そして、消費を減らした若い世代では、貯蓄率がぐっとあがっているのです。

ことしの消費者白書は「全体的に消費意欲が低下しているなかで、特に若者が消費に慎重であることがうかがえる」とはっきりと指摘しています。

貯蓄を計画的に

データから浮かび上がる、消費を抑え貯蓄に励む30代の姿。取材で出会った埼玉県の32歳の女性は、まさにそれを実践していました。

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彼女は夫と子ども2人の4人家族。10年計画で、子どもの教育費として1人500万円の積み立てが目標。毎月、7万円ほどを貯蓄しています。手取り収入の2割以上にあたります。

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食費や日用品にあてるお金は週1万円と決め、その範囲内でずっとやりくりしています。いまは教育費の貯蓄で手いっぱいですが、自分たちの老後資金も、すでに考え始めています。

「自分たちの世代は、いまのように年金がもらえるのか、あてになりませんよね」ーーー 今、興味を持っているのは、個人型確定拠出年金への加入だということです。

雑誌から見える不安

30代の女性が主な読者の生活雑誌「サンキュ!」にも話を聞きました。

雑誌は創刊21年。さまざまな家庭を取材してきましたが、いま、将来のため貯蓄にはげむ暮らしを実践する、20代・30代の家庭が、目立って増えているといいます。

その変化、人気記事の変遷をみればよく分かるそうです。以前、人気だったのは「節約術」。とくに人気で定期的に組まれてきた特集は「食費の削減」。具体的なノウハウが好まれていたのです。

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ところが、最近5年ほどは「ライフプラン」「教育資金」「老後の生活」といったテーマに明らかに関心が移っているということです。編集部は、そこに若い世代の強い将来不安を読み取っています。

「今の読者層は、バブル崩壊後の『失われた20年』しか知らない世代。この先も、給料はそんなに増えず、年金は頼りになるかわからないと思っている。そこで、ライフプランを数十年先まで立て生活することで安心感を得ている」と分析しています。

それなりに満足できれば…

一方で、この世代はモノやサービスがあふれる中で育ってきました。高いモノから安いモノまで選択肢は山ほどあり、それを自分なりに組み合わせて暮らしています。その結果、自然と節約体質を身につけているというのです。

編集長の飯塚真希さんは、「ある読者は、いま使えるお金が少ないことを『将来の自分に仕送りしているだけだから』と話していました。使う時期をずらしているだけ、という意識なんだなと感じました」と話しています。

まず“タダ”で感じてほしい

お金を“使いたがらない”。モノを”欲しがらない”。それで、そこそこ満足する若い世代。ただ、それは、消費の先細りをもたらすことになりかねません。「若者の車ばなれ」などはその典型かもしれません。企業の側は、こうした若い世代とどう向き合うか模索しています。

宿泊予約サイト「じゃらん」を運営する「リクルートライフスタイル」が、今、実験的な試みを続けています。20歳前後の若者に「タダ」でレジャーを楽しんでもらうサービス。

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スマートフォンのアプリで年齢などを登録すると、この会社と提携しているゴルフ場、スキー場、温泉などを原則無料で利用できるのです。施設の側は、全く儲けにならないのですが、実に全国720か所が協力しています。

カムバック!サーモン

狙いはレジャーや旅行の楽しさを若いうちに知ってもらうことで、大人になってから利用してもらうこと。提携している施設の1つ、埼玉県坂戸市にあるゴルフ練習場。3年前から19歳と20歳を対象に、日の出から深夜12時まで、1日何時間利用してもタダ、というサービスを始めました。近くの大学生などで賑わっています。

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練習していた19歳の学生は「ゴルフはお金がかかるので親は許してくれなかったが、若者はタダになる練習場があるという話をしたら認めてくれた。お金のない若者にとってはとてもありがたいです」と話していました。

ゴルフ練習場を運営する吉田実社長は「目の前の収益より5年後10年後のことを考えて今のうちに手を打たないといけない。サケが生まれた川に戻るように、20歳の若者が30歳になってもうちでゴルフを練習してもらい、そのときに収益をあげたらいい。カムバックサーモン!」と話していました。

取材を終えて

今回の取材で、「消費しなくてもそれなりに満足できる時代になった」という説明を何度も聞きました。もちろん、そういう面はあると思います。しかし、将来への不安から「消費せず貯蓄することで安心する」若者の一面こそ、見ていく必要があると感じています。なぜ若い世代は“使いたがらない””欲しがらない”のか?あなたはどう思いますか。

(どうなる経済“新時代”取材班:篠崎夏樹/野口恭平/木下健/影圭太)

篠崎夏樹
経済部記者
篠崎夏樹
野口恭平
経済部記者
野口恭平
木下健
経済部記者
木下健
影圭太
経済部記者
影圭太

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