リハビリmemo

大学病院勤務・大学院リハビリテーション学所属の理学療法士・トレーナーによる「最新の研究をトレーニングにつなげるための記録」

筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実

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 2017年11月7日、アメリカ・ABCニュースで興味深い記事が掲載されました。

 

 「筋トレがすべての病気の死亡率を減少させる」

 ✻How sit-ups and push-ups could ward off an early death - ABC news

 

 これは2017年10月に報告された8万人の大規模研究の結果を伝えたものです。シドニー大学のStamatakisらは、世界で初めて、筋トレと病気による死亡率に関する大規模な疫学的研究を行ったのです。

 

 今回は、Stamatakisらの大規模研究の結果をご紹介しながら、筋トレが病気による死亡率に与える効果とそのメカニズムについて考えてきましょう。

 

Table of contents

 

 

◆ 筋トレはがんやすべての病気の死亡率を減少させる

 

 2013年、私たちにとって幸福な真実が公表されました。

 

 「筋トレは、がんによる死亡率を33%減少させる」

 

 アメリカ・スローンケタリングがん研究所のLemanneらは、世界で初めて筋トレとがんの死亡率の関係を明らかにしたのです。

 

 以前より、日常生活の身体活動ががんの死亡率を減少させることが示唆されていました(Fong DY, 2012)。ウォーキングやジョギングなどの身体活動量が多い場合、乳がんや大腸がん、前立腺がんの死亡率を低下させることが明らかになっていました(Ibrahim EM, 2011)。

 

 Lemanneらは、身体活動ががんの死亡率を低下させるのであれば、レジスタンストレーニング(筋トレ)によってもがんの死亡率は減少すると推測し、疫学的調査に乗り出しました。

 

 このようにして2013年6月、がんと診断された18歳から81歳の男女2,863名を対象にしたレジスタンストレーニングによる死亡率への影響を調査した結果が報告されました。

 

 平均7.3年の追跡調査の結果、トレーニングを1週間に1回以上している場合、トレーニングをしていないものと比べて、死亡率が33%減少することが明らかになりました。

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Fig.1:Lemanne D, 2013より筆者作成

 

 この結果から、Lemanneらは、日常生活の身体活動の増加ががんの死亡率を減少させるエビデンスに加えて、筋トレが死亡率を3割減少させることは有益な情報であり、筋トレをもっと行うよう推奨すべきであると述べています(Lemanne D, 2013)。

 

 「筋トレががんの死亡率を3割も減少させる」という知見は、日本の多くのネットメディアやブログでも紹介され、大きな話題になるとともに、トレーニーの励みにもなりました。

 

 筋トレによる幸福な真実はこれで終わりません。2016年、私たちにさらなる朗報が届きます。

 

 「筋トレは、すべての病気による死亡率を23%減少させる」

 

 これまでに、筋肉量が多いほど、病気による死亡率は減少することが明らかになっていました。筋肉量を増やすことが死亡率を減少させる最適戦略であることが示唆されていたのです。

長生きの秘訣は筋トレにある

 

 しかし、そのための筋トレと病気による死亡率の関係は明らかになっていませんでした。そこで、ミシシッピ大学のDankelらは、レジスタンストレーニングが病気による死亡率に与える影響についての疫学的調査を実施したのです。

 

 Dankelらは、20歳以上の男女8,772名を対象にして、平均6.7年の追跡調査を行いました。また、1週間のトレーニングの頻度も合わせて調査しました。

 

 調査の結果、トレーニングを継続的に行っている場合、トレーニングをしていないものに比べて、すべての病気の死亡率が23%減少することが示されました。

 

 また、この死亡率の減少は、1週間に2〜3回の頻度でトレーニングをしている場合に有意であり、それ以上(例えば週5回)では死亡率の減少効果が低い(プラトーになる)ことが明らかになりました。週2〜3回のトレーニングが病気による死亡率をもっとも効果的に減少させるのです。

 

 この理由のひとつに「トレーニングの継続性」が挙げられています。毎日のトレーニングでは長期的には継続することが難しく、週2〜3回のトレーニングが継続するためにも最適な頻度であると推測しています。

 

 アメリカスポーツ医学会は週2〜3回のトレーニングを推奨しています。Dankelらは、同様の頻度のトレーニングが病気による死亡率を2割減少させることからも、習慣的な筋トレの実施をさらに広く推奨すべきであると唱えています(Dankel SJ, 2016)。

 

 このように、筋トレは、がんによる死亡率を33%減少させるだけでなく、すべての病気の死亡率を23%減少させることが明らかになっているのです。しかし、これらの疫学的調査にはいくつかの疑義が投げかけられており、そのひとつにサンプル数(被験者数)の不足がありました。

 

 そして2017年、この疑義を払拭する8万人を対象にした大規模研究の結果が報告されたのです。



◆ 大規模研究が明らかにした幸福な真実

 

 シドニー大学のStamatakisらは、イギリスの健康調査(HSE)とスコットランドの健康調査(SHS)のデータからレジスタンストレーニング(筋トレ)とジョギングなどの有酸素運動が病気による死亡率に与える影響についての大規模調査を実施しました。

 

 30歳以上の男女80,306名を対象に、週2回以上のトレーニングと週150分以上の有酸素運動が与える「がん」と「すべての病気」による死亡率への影響が調査されました。

 

 その結果、がんによる死亡率は31%減少し、すべての病気による死亡率は23%減少することが明らかになったのです。

 

 またStamatakisらは、トレーニング環境と死亡率との関係についても調査をしました。「ジムでのトレーニング」と「家での自重トレーニング」によるがんの死亡率、すべての病気の死亡率への影響を調査した結果、ジムでも家でも同等の死亡率の減少効果を示し、両方の環境で行った場合は、さらなる死亡率の減少が示されました。

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Fig.2:Stamatakis E, 2017より筆者作成

 

 これはとれも興味深い示唆を与えてくれるとStamatakisらは言います。トレーニング人口が増えない理由のひとつに「ジムに行く」という心理的な障壁があります。今回の結果は、ジムに行かなくても、家で腕立て伏せやスクワットなどの自重トレーニングによって、ジムのレーニングと同等の死亡率の軽減効果が得られることを示しているのです。この知見はトレーニング人口を増やす後押しになるとStamatakisらは期待しています。

 

 さらに、トレーニングと有酸素運動を比較した結果、トレーニングでは同等かそれ以上の死亡率の軽減効果を示しました。特にがんの死亡率では、有酸素運動よりもトレーニングが大きく軽減させることが示唆されました。

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Fig.3:Stamatakis E, 2017より筆者作成

 

 Stamatakisらが行った大規模研究の結果は、週2回以上のレジスタンストレーニング(筋トレ)は、がんの死亡率を3割減少させ、すべての病気による死亡率を2割減少させるとともに、このような効果はジムだけでなく、家での自重トレーニングにおいても同等であること、有酸素運動よりもトレーニングが死亡率の軽減に寄与することを明らかにしたのです(Stamatakis E, 2017)。

 

 そしてトレーニングが死亡率を減少させるメカニズムには、トレーニングによる血圧低下、糖尿病のリスク低下、グルコース代謝の改善、全身性炎症の減少、抑うつ症状の軽減、認知機能の改善、そして筋肉量の維持・増加の効果が包括的に作用し、死亡率の軽減に寄与していると推測されています(詳細な説明は別の機会でご紹介します)。

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Fig.4:Stamatakis E, 2017より筆者作成



 Stamatakisらの報告は、世界で初めて筋トレが病気による死亡率を減少させることを示した大規模研究によるものです。その結果はこれまでの報告(Lemanneら、Dankelら)を肯定するものであり、習慣的(週2回以上)な筋トレはがんの死亡率を3割減らし、すべての病気による死亡率を2割減らすことが改めて示されたのです。 

 

 現代の疫学は私たちに幸福な真実を教えてくれます。

 

 「筋トレは、すべての病気に負けない身体を与えてくれる」

 

 


◆ 読んでおきたい記事

シリーズ①:筋肉を増やすための栄養摂取のメカニズムを理解しよう

シリーズ②:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう

シリーズ③:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取タイミングを知っておこう

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シリーズ⑦:筋トレの効果を最大にする運動強度(負荷)について知っておこう

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シリーズ⑱:筋トレとアルコール摂取の残酷な真実

シリーズ⑲:筋トレの効果を最大にするタンパク質の摂取量を知っておこう(2017年7月版)

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シリーズ㉕:筋トレの前にストレッチングをしてはいけない理由

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シリーズ㉞:筋トレによって脳が変わる〜最新のメカニズムが明らかに

シリーズ㉟:ホエイプロテインは食欲を抑える〜最新のエビデンスを知っておこう

シリーズ㊱:筋トレが病気による死亡率を減少させる幸福な真実

 

References

Fong DY, et al. Physical activity for cancer survivors: meta-analysis of randomised controlled trials. BMJ. 2012 Jan 30;344:e70.

Ibrahim EM, et al. Physical activity and survival after breast cancer diagnosis: meta-analysis of published studies. Med Oncol. 2011 Sep;28(3):753-65.

Lemanne D, et al. The role of physical activity in cancer prevention, treatment, recovery, and survivorship. Oncology (Williston Park). 2013 Jun;27(6):580-5.

Dankel SJ, et al. Dose-dependent association between muscle-strengthening activities and all-cause mortality: Prospective cohort study among a national sample of adults in the USA. Arch Cardiovasc Dis. 2016 Nov;109(11):626-633.

Stamatakis E, et al. Does strength promoting exercise confer unique health benefits? A pooled analysis of eleven population cohorts with all-cause, cancer, and cardiovascular mortality endpoints. Am J Epidemiol. 2017 Oct 31.

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