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みちくさのみち RSSフィード

2017-11-15

日本の検閲に関する本についてまとめAdd Star

 少し前から必要があって集中的に検閲とか言論統制に関わる本を読んでいたら、友人に検閲についてわかりやすくまとめた本は無いものかと聞かれ(なにやらtwitter言論統制の歴史がちょっと話題になったようでもあり)、まとまっているもの、となるとすぐに思いつかないのだが、万全でなくても、読んだことがあるもの、知っているものをまとめておけば後日の役に立つかもしれないとふと思いついた。

 検閲というと新聞や図書などの出版物にかけられた統制がまず思いつくだろうが、例えば郵便物の検閲という問題もあり、話は単純でない。

 

調べ方の前提

ネットで検索すると多数見つかって絞れないので、研究者の成果公表やレファレンスブックから抽出することにする。組み合わせるのがベターなのはいうまでもない。

まず、参考文献だが、早稲田の検閲研究ウェブサイト文献紹介のページに載っているものはかなり参考になりそう。

そのほか、出版、マスコミジャーナリズム関係ということで以下のなかにも、検閲、言論表現の自由、出版統制などのキーワードで引っかかるものが無いか探すと、論文は相当な数が存在していることがすぐわかる。

 以下も参照されたい。

 ふつう、印刷物の普及とほぼ同時に統制は始まるので、便宜的には、江戸明治から昭和戦前期、占領期、その後、くらいに分けて考えた方がよさそうだ。占領期の検閲研究は江藤淳が先鞭を付けて以降、たいへん層が厚いが、最近は江戸明治以降についても新しい史料などが発掘されている模様。

 近代の思想史などでは、事件としては扱われるが、私の不勉強故か、講座モノなどでは、制度として言論放棄などが対象になることはそんなに多くなかったように思うが、筆禍とか舌禍に対する感覚を今日と同じようなものとして捉えてはいけないと注意を促していたのは鹿野政直先生の『近代日本思想案内』だった。例えば以下の文献を紹介している。

近代日本思想案内 (岩波文庫 (別冊14))

近代日本思想案内 (岩波文庫 (別冊14))

その他谷崎潤一郎が「検閲官」とのやりとりを書いた小説なども紹介されている。

2000年以降に出た本だと、早稲田コロンビア大の合同シンポジウムを元にした、鈴木登美, 十重田裕一, 堀ひかり, 宗像和重 編『検閲・メディア文学』(新曜社 2012.3)が、江戸から戦後までを対象にしている。

論文集なのでテーマにばらつきがあるという感想はあるかもしれないが、扱っている時期の長さだけでいうと一冊ではこれ以外のものは例があまりなく、序の研究史整理も有効であると思う。

検閲・メディア・文学―江戸から戦後まで

検閲・メディア・文学―江戸から戦後まで

検閲史研究の現状、論点整理に関しては、2013年に開かれた国際シンポジウムをまとめた『Intelligence』14号の対談も参照。

山本 武利. 浅岡 邦雄. 土屋 礼子. 司会「対談 検閲研究の最前線 : 戦前と戦後をつなぐ」『Intelligence』(14):2014.3. p.4-28.

最近だと牧義之氏の『伏字の文化史』、水沢不二雄氏の『検閲と発禁』もある。あと、石川達三を扱った『戦争と検閲』など続々と単行本が出ている。

伏字の文化史―検閲・文学・出版

伏字の文化史―検閲・文学・出版

検閲と発禁: 近代日本の言論統制

検閲と発禁: 近代日本の言論統制

国家による検閲に対する関心は、高まりつつある状況にあるようにも思える。


江戸

江戸の禁書や取締については、禁じられた本についての研究がある。近年増えつつあるともいえる。

江戸の禁書 (歴史文化セレクション)

江戸の禁書 (歴史文化セレクション)


明治から昭和戦前期

文芸の取締に関する本も多い。

明治文芸院始末記

明治文芸院始末記

“著者”の出版史―権利と報酬をめぐる近代

“著者”の出版史―権利と報酬をめぐる近代

新聞検閲制度運用論

新聞検閲制度運用論

報道電報検閲秘史―丸亀郵便局の日露戦争 (朝日選書)

報道電報検閲秘史―丸亀郵便局の日露戦争 (朝日選書)

マス・メディア法政策史研究

マス・メディア法政策史研究

原爆と検閲 (中公新書)

原爆と検閲 (中公新書)

 ※邦訳が無いが同著者にはCensorship in Imperial Japanというのがある。

発禁本の蒐集、研究家として知られる城市郎のコレクションなどは明治大学から最近目録も出た。

城市郎の発禁本人生 (別冊太陽)

城市郎の発禁本人生 (別冊太陽)

表現の自由に関して

治安維持法小史 (岩波現代文庫)

治安維持法小史 (岩波現代文庫)

治安維持法 - なぜ政党政治は「悪法」を生んだか (中公新書)

治安維持法 - なぜ政党政治は「悪法」を生んだか (中公新書)

横浜事件のことなどについては、

覚書昭和出版弾圧小史 (1977年)

覚書昭和出版弾圧小史 (1977年)

戦前戦中を歩む―編集者として

戦前戦中を歩む―編集者として

明治から昭和戦前にかけては、近年関係者の史料発掘が進んでいて、その成果が千代田図書館などで展示されていることも多い。

関連してこちらも。

言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書)

言論統制―情報官・鈴木庫三と教育の国防国家 (中公新書)


占領期
閉された言語空間―占領軍の検閲と戦後日本 (文春文庫)

閉された言語空間―占領軍の検閲と戦後日本 (文春文庫)

占領期メディア史研究―自由と統制・1945年 (ポテンティア叢書)

占領期メディア史研究―自由と統制・1945年 (ポテンティア叢書)

GHQ検閲官

GHQ検閲官

GHQの検閲・諜報・宣伝工作 (岩波現代全書)

GHQの検閲・諜報・宣伝工作 (岩波現代全書)

海外や図書館の例

※事前検閲や保証金など、ヨーロッパ各国でいつ廃止になったかの一覧があって便利

検閲帝国ハプスブルク (河出ブックス)

検閲帝国ハプスブルク (河出ブックス)



まだ追加すべき本はたくさんあると思うのですが、ざっくりとしたまとめですみません。最近聞かれることが多くて、読んだことある本を中心にまとめてみました。研究がないわけでなく、むしろ大量にあるので、漏れはあるはずですが、とりあえず。

良い本あったら教えてください。

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