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ニュース・解説

羊膜移植で目を修復…拒絶反応少なく、新治療法として期待

 右目の結膜に腫瘍ができた千葉県の男性(68)は、腫瘍を除いて羊膜を移植する手術を受けた。胎児を包む羊膜を目の修復に生かす羊膜移植は、治療が難しかった病気やけがの新しい治療法として期待されている。

(原隆也)

 羊膜は、母親のおなかの中で羊水に満たされた胎児を包む半透明の薄い膜。胎児を外部の衝撃から守り、母体からの拒絶反応を抑えると考えられている。傷の治りを早め、炎症を鎮める効果もあるとされる。

 この男性は昨年12月、東京歯科大学市川総合病院(同県市川市)で初めて羊膜移植を受けた。その後、再び目に違和感があったため今年9月に再手術を受けたが、経過は順調という。

 男性は「いくつかの病院を回っても治療法がわからず心配だったが、手術を受けてから視力も回復し、助かった」と喜ぶ。

 羊膜は、やけどを覆って皮膚を修復する治療や手術後の臓器の癒着防止に使われてきたが、目の治療では1995年頃に米国から広がった。日本では2003年に高度先進医療に認定され、14年には、治療が難しい目の病気を対象に保険適用された。日本角膜学会によると、現在、約60の医療機関で行われている。

元の角膜残し再生図る

 対象となるのは、この男性のような目の腫瘍や、結膜が異常に増殖して角膜まで広がる「 翼状片よくじょうへん 」などの病気、角膜表面(上皮)のやけどや損傷、異物の混入などで角膜が傷つき視力に影響があるケースだ。

 腫瘍や翼状片の手術では、羊膜を使うと傷が残りにくく、炎症も抑えられる。翼状片で異常増殖した結膜を除去しても再発を繰り返すことが多いが、除去した部分に羊膜を移植すると再発予防につながる。

 角膜のやけどでは、痛んだ表面にコンタクトレンズのようにかぶせて角膜が再生するのを待ち、再生後は、羊膜をはずす。傷や穴は羊膜で埋めて修復する。

 角膜の治療には、他人から提供された正常な角膜を使う角膜移植がある。日本アイバンク協会によると、献眼の件数は不足しており、年間の移植希望者は5000人いるが、手術は1500件しか行われていない。

 同病院眼科部長の島崎潤さんは「羊膜移植は、角膜移植を補完する治療」と説明する。角膜移植は、角膜全体を取り換えるが、羊膜移植では元の角膜を残して再生を図る。角膜移植に比べて拒絶反応が少ないため、両者を組み合わせて治療することもあるという。

「元々捨てられていた羊膜を役立てられる」

 羊膜は、必要とする医療機関が、角膜学会などが定めるガイドライン(指針)に沿って、帝王切開の出産を予定している妊婦から同意を得て提供してもらう。1回の出産で20~30人分の移植用羊膜が得られ、2年間の冷凍保存もできる。

 提供された羊膜を備蓄し、移植を実施する他の医療機関に提供できる「羊膜バンク」もあり、東京歯科大学市川総合病院のほか全国3か所の大学に設けられている。このほか、常温で長期保存できる乾燥羊膜の製品化も進んでいる。

 島崎さんは「元々捨てられていた羊膜を役立てられる。ただし、効果の仕組みがわかっていない部分もあり、研究を進め、より有効な活用法を探る必要がある」と話している。

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