別に好きでもない男性から「デブ、恋愛対象外」と言われました

今回、牧村さんのもとには「好きでもない男から『お前みたいなデブ、恋愛対象外だ』と言われた」というお悩みが届きました。「今後似た状況に出会ったら、どういなすと楽にスマートに過ごせるでしょうか」という相談者に、牧村さんはご自身の経験をふまえつつ、優しく力強い言葉を投げかけます。


※牧村さんに聞いてみたいことやこの連載に対する感想がある方は、応募フォームを通じてお送りください! HN・匿名でもかまいません。

ちょっとふくよかなグラドルに「これは抱けるデブ」とか、レズビアンに「もったいない」とか派手メイクの女子に「それじゃモテない」とか。なんなんでしょうか、あの「男である俺様は女を選ぶ側に立っている」みたいな顔の野郎どもは。女がみんな男に選ばれたいと思っていると思ったら大間違いだっていうのよ。特にお前は無理! って言いたい。

でも、ケンカで終わっちゃしょうがない。そういう「異性はみんな自分に選ばれたいと思っているに違いない」とか「自分は異性を選ぶ側だ」みたいな顔しないと生きていけない一部異性愛者の気持ちも、どうにか考えてみたいなあと思いました……そういうやって傷つけられることを甘んじて受け入れて生きるのはいやだから。

今回のご投稿は、「好きでもない男から『お前みたいなデブ、恋愛対象外だ』と言われた」というものです。やや長文ですが、読んでくださるあなたにももしかして同じようなご経験があるかもしれませんから、ほぼノーカットで掲載したいと思います。

牧村さんこんにちは。のほと申します。いつも連載やtwitterのご投稿、色々考えながら読んでいます。

早速なのですが、牧村さんに相談があります。仕事の休憩中、仕事仲間の男女三人が休憩室で「仕事仲間で誰なら付き合えるか、遊んでもいいか、顔だけなら誰がタイプか」という話をして盛り上がっていました。 私は何も知らずに休憩室へ入って行き、 会話に混じらずに一人静かにスマホをいじっていました。

休憩時間の終わり、私が立ち上がろうとした時に一人の男性が 「お前みたいなデブ、(恋愛の)選択肢にも入らねえよ」 と半笑いで小声で、狭い休憩室の中で明らかに私に向かって言ったのです。他の人は気づいていない様子でした。

そう言った男性とはあまり喋らないし仲がいいわけでもないので、その時は聞いていないふりをして何も言い返しませんでした。小学生の頃から引っ込み思案ないじめられっ子で、自分がデブでブスで誰にも愛される価値も、愛してくれる相手に何かを返すことができる知恵もないと思いながら過ごしてきたので、デブやブスと言われても特に傷つきません。デブなりに楽しくこれまでの短い人生を生きてきました。

ですが、時間が経つうち、なぜかお客さんの前で泣いてキレそうになるくらいムカついてきました。 私は男女どちらにも惹かれたことはあり、告白らしいものも何度か受けましたが、日を重ねるごとに誰にも恋愛・性的に強く惹かれることがないとわかってから全てそっと受け流して生きてきました。それでも人と触れ合うのは大好きです。今は恋愛に興味はなく、ほとんどの時間を仕事か趣味に使っています。

なのに、一言も声をかけていないのに勝手に異性愛者のカテゴリーに含まれる嫌さ・知らないうちに「選択肢」(選択肢外ですが)と名付けられてしまったこと・そしてその男性の勝手なタイミングで私に向けられた敵意、または嫌悪(敵意というものでもないかもしれませんが)が、ムカつきの原因だと思います。 怒れてきてしんどくて仕方ありません。 下半身で物を考える恋愛に振り回される馬鹿たち、という考え方をようやく変えることができるようになっていたのに、また、元の考え方に戻りそうで悲しいです。恋をする友人たちや街で見る恋人たちにもそんな考え方を持って見てしまいそうで。

牧村さん、どう考えたら楽になれますか。今後似た状況に出会ったら、どういなすと楽にスマートに過ごせるでしょうか。 悲しいです。 恋をしなくても生きていける時代になりつつありますが、恋愛が生活上必須項目の上位を占めている人たちからしたら、恋バナやそれに準じる話をしない無口な私は異常者で、意思ある人間として扱われなくて当然かもしれません。見た目も汚いし。 もしお忙しくてお答えいただけなくても結構です。牧村さんにメールできた事実だけで多分に心が軽くなりました。読んで頂いてありがとうございます。私はボクシングでも習おうと思います! 失礼します!

(ご投稿を一部編集し、ほぼ全文掲載しました)

オッス! ……みたいなノリで、「怒れてしんどくて泣きそう」な経験を語る文章をライトに締めくくる。それだけでも、ご投稿者の方が、いろんなことを「自分が受け流せば済む」と引き受けて、「ボクシングでも習おうと思います!」と明るくネタに変えて生きていらしたことがうかがえるようで、なんてチャーミングな方かしら、と思いました。

でもね、アンフェアよね。

なんでこっちばっかり我慢しなきゃいけないのよ、って思わない? 甘えてんじゃねーぞ、って言いたい。デブだから、ブスだから、女だから、「お前は俺たち男に値踏みされて当然だ」みたいな扱いをしてくる半笑いのヤツらに言いたい。

さて、この「デブ」とか「ブス」とかいうやつ、ご投稿者の方は周りに言われるがまま「デブなりに楽しく生きて来ました」「(自分は)見た目も汚い」というふうに受け取っていらっしゃるようですが、ちょっと待ってほしいのです。

私もまた、さんざん「デブ」「ブス」と言われて女を生きてきました。 オーディション会場で「○番は可愛くない」とか(いや私はモノじゃなくて人間なんですけど)、新宿通りをヘッドホンして歩いてたら突然通行人に「ブス」って言われたりとか(聞こえないと思ったんでしょうね)。そういう時に私がしてきた対応はこれです。

「こんにちは! いまブスっておっしゃいましたよね? どうしてそんなことおっしゃったんですか? ストレスですか? よかったら私がお話聞きますよ〜」

天使でしょうか。もしくは女神ですね。そうやってあまたの殿方に耳を傾けて作り上げたのが、このリストです。

☆男性が女性の容姿を「ブス」などと侮辱した時のお気持ち一覧

(1)私はあなたに反論したいのだが、それに足る語彙力を持ち合わせていない。
例:男子小学生「うっせーバーカ! ブースブース!」

(2)私は男として相手にされなかったのだが、それを認めるのは悔しいので、相手に魅力がないのだということにしたい。
例:ナンパ野郎「ちゃーす!こんちゃ……ちっ、無視かよ。ブス」

(3)私は日々がつらいので男である自分より弱くて反撃の恐れがなくまた男としての苦しみも知らずに生きているのであろう女を叩くことでうっぷんを晴らしたい。
例:通行人「ブス」

(4)私はあなたを見下すことで自尊心を保ちたいのだがしかしあなたは私があなたを見下すための哀れさを醸し出さず私の笑いのネタにされることもなくなんなら誰かを見下さないと生きられない私よりよほど幸せそうにのびのび生きている様子なので気に入らない。
例:ウェイウェイ大学生「ブスのくせにウェイwwwww」

以上です。ちなみにリストは今も制作中です。あと「女性→男性」のパターンも作りたいのですが、私は男性としてディスられた経験がないので、もしあなたが男性としてディスられて生きているのであれば上記(1)〜(4)をやられたことがあるか、随時ツイッターとかでフェイスブックとかであなたの経験と考察をシェアして補完してほしいと思います。この記事についてツイッターでつぶやくと記事の最下部に自動で表示されます。

で、ですね。ご投稿者の方になんか言ってきたヤツの場合はたぶん、(4)にちょっと(3)だと思いませんか。ご投稿者の方は、前向きで、「ボクシングでも習います!」的なユーモアもあり、休憩室で男が「誰がタイプか」なんて話をしているのに興味を示さずスマホをいじって一人の世界で十分楽しそうな女性です。それがねたましく、気に食わなかったのでしょう。ひるがえって自分が、一人でいられる強さを持たず、休憩室でもうっす〜い話で同僚とつるみ、輪に入らない人を半笑いで見下さないと生きていけないやつであるということを突きつけられるようで。

そんなやつに私が思うのは、「恋愛対象にしてほしい」とか「可愛いって言ってほしい」なんてことではさらさらありません。「勝手に幸せになりやがれ」です。その道具に私を使うな。その道具に女を使うな。甘えるな。自力で、一人で、幸せになりやがれ! ……と、思うのです。

ご投稿者の方は「下半身で物を考える恋愛に振り回される馬鹿たち」なんて見方を変えたい、とおっしゃいますが、無理しなくていいと思います。あのね、そいつはたぶんバカよ。でもね、バカは変わるんです。学べば変わるんです。そして、変わるのはバカの方です。あなたは無理に変わろうとしなくていい。そんなに物分かりのいい子であろうとしなくていいと思うのです。あなたに甘えるやつらに都合がいいだけだから。

「お前みたいなデブ、選択肢にも入らねえよ」って言った半笑いの顔を、そいつは、愛する人に見せられるでしょうか。きっと愚かで、醜い顔だったでしょう。その顔をこれからも職場で見なくちゃいけないのはマジでだるいかもしれませんが、きっと、そいつは勝手に変わります。朝顔の観察日記でもつけるように見ていればいいと思う。自分の花を咲かせるのは、自分の責任ですから。

女をデブだとかブスだとか上から目線で品定めする権利を持っていると思い込むことは、さぞかし気持ちがいいことでしょう。しかし、本当に渡してやることはないのです。自分が自分を美しいと思う権利を。何が美しいかを決める権利を。


お知らせ

11月17日(金)と26日(日)に、『ハッピーエンドに殺されない』の刊行を記念して、牧村さんのイベントが開催されます!

■11月17日(金)大阪 ロフトプラスワンWEST
天才文筆家 まきむぅ とガチ百合フライデーナイト

■11月26日(日)群馬県館林市 ダイニングバーFAT CATS
ダイニングバーFAT CATS マサキチトセ×牧村朝子 ごはん&お話会!


ハッピーエンドに殺されない(青弓社)



フランス人奥さんの祖父から伺った戦争の話を、牧村さんの視点で描くノンフィクション連載「ルネおじいちゃんと世界大戦」。第1話目はこちらからどうぞ。


noteで公式ファンクラブを開設しました!

「なんかこう、まきむぅたちとしゃべったりとかするとこ」

・牧村朝子さんと直接コメントのやりとりができ、あなたの誕生日を名指しでお祝い。
・新刊発売時に、限定サイン本をご用意。
・取材旅行時のお土産をプレゼント。
・イベントへの優先案内。
・限定動画や音声を公開。
などの特典があります。
牧村さんのことをより深く知りたい方は、ぜひご覧ください。


女同士のリアルを知るうちにあなたの生きづらさもなくなっていく?!
人生を楽しく過ごすための「性」と「知」の冒険ガイド、好評発売中です。

百合のリアル (星海社新書)
百合のリアル (星海社新書

この連載について

初回を読む
ハッピーエンドに殺されない

牧村朝子

性のことは、人生のこと。フランスでの国際同性結婚や、アメリカでのLGBTsコミュニティ取材などを経て、愛と性のことについて書き続ける文筆家の牧村朝子さんが、cakes読者のみなさんからの投稿に答えます。2014年から、200件を超える...もっと読む

この連載の人気記事

関連記事

関連キーワード

コメント

feilong 3件のコメント https://t.co/hyg70LCDem 15分前 replyretweetfavorite

feilong 3件のコメント https://t.co/hyg70LCDem 15分前 replyretweetfavorite

tipi012011 対処方法、かっこいい。 約2時間前 replyretweetfavorite

ReiKokoro00 あぁ✨まきむうさん憧れるぅ✨ こんなにしなやかで頭の良い方素敵⤴️ 約3時間前 replyretweetfavorite