○発表内容の概要
東京都健康長寿医療センター研究所の新開省二副所長と北村明彦研究部長らの研究グループは、フレイルが日本人高齢者の中長期的な自立喪失(要介護発生または死亡)の有意の危険因子であることを明らかにしました。同時に、高齢期のメタボリックシンドロームは、その後の自立喪失には影響を及ぼしていないことを示しました。この研究成果は、健康寿命延伸を目標とするわが国の高齢者保健・健診体系の変革に大きく貢献するものと期待されます。
本研究は、日本公衆衛生雑誌 10 月号(第 64 巻・第 10 号)
(URL:https://www.jsph.jp/member/docs/magazine/2017/10/64-10_593.pdf)に掲載されました。
○ 研究の背景
健康日本 21(第 2 次)の目標の一つである健康寿命延伸のためには、わが国の高齢者の健康余命に影響する因子を解明して効果的な対策を講じることが重要です。健康余命への影響因子としては、疾病や身体的健康度のみでなく、最近では機能的健康度という概念のもとで「フレイル」が注目されています。フレイルとは、「加齢とともに心身の活力(例えば筋力や認知機能等)が低下し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの危険性が高くなった状態」という概念です。これまでに、欧米諸国の複数の追跡研究において、フレイルが生活機能障害や死亡のリスクを上昇させることが示されていますが、日本人高齢者を対象とした追跡研究は少なく、フレイルの中長期的な予後は明らかになっていませんでした。
一方、健康寿命延伸のためには生活習慣病の予防も重要と考えられますが、現在のわが国の生活習慣病予防対策の重点であるメタボリックシンドロームと健康余命との関連については、未だわかっていませんでした。
○ 研究成果の概要
本研究では、群馬県の一地域の高齢者約 1,500 人の平均 7 年(最大 12 年)の追跡研究により、フレイル、メタボリックシンドローム等の諸因子による、自立喪失(要介護発生または死亡)のリスク上昇の程度を明らかにしました。その結果、男女ともにフレイル群、プレフレイル群(フレイルの予備群)はフレイル無し群に比し、自立喪失発生率は有意に高率で、フレイル区分別にみた自立曲線はきれいに分かれました(図1)。
一方、メタボリックシンドローム区分と自立喪失発生率との間には一定の関連は認められず、自立曲線にも明らかな差は見られませんでした(図2)。
統計解析の結果、フレイル無し群に比し、フレイル群では自立喪失の発生リスク(危険度)は約 2.4 倍と推定されました。また、前期高齢者と後期高齢者に分けてみた場合、フレイル群の自立喪失発生リスクは、前期高齢者で約 3.4 倍、後期高齢者で約 1.7 倍となり、前期高齢者の方が自立喪失に及ぼすフレイルの影響がより大きいことが明らかとなりました。
○ 研究の意義
本研究成果の意義としては、日本人高齢者のフレイルが健康余命のエンドポイントである自立喪失に大きく影響していることを明らかにした点にあります。フレイルを改善させるための運動、栄養、社会参加等からなる介入研究の知見が積み重なりつつある現状をふまえますと、フレイル進行の先送りを図るための働きかけを組織的に進めることは、高齢者の健康余命延伸の効果をもたらす可能性が高いと考えられます。
一方、メタボリックシンドロームに関しては、循環器疾患発生の危険因子としての意義は確立されています。したがって、メタボリックシンドロームの予防は、要介護発生の大きな原因である脳卒中の予防に結びつくことから、高齢期に到達する前から積極的に行われることが望ましいと考えられます。
○ 掲載論文
北村明彦、新開省二、谷口優、天野秀紀、清野諭、横山友里、西真理子、藤原佳典.高齢期のフレイル、メタボリックシンドロームが要介護認定情報を用いて定義した自立喪失に及ぼす中長期的影響:草津町研究.日本公衛誌 2017;64(10):593-606.