ゼイワン初昇格の長崎をお見逃しなく!たかた社長語る【後編】わが100年構想
J1初昇格を決めたV・ファーレン長崎は今季開幕直後、深刻な経営危機に陥っていた。存続の危機に直面していたクラブの立て直しに尽力した高田明社長(69)が、本紙の単独インタビューに応じた。あの甲高い声でおなじみ、通販大手「ジャパネットたかた」(長崎県佐世保市)の創業者。4勝1分け4敗の滑り出しだったチームは4月の就任後、19勝7分け6敗と飛躍した。就任からこれまでを振り返り、長崎愛と夢を語る。後編は「お客さまのため、長崎のため」。
-クラブの改革を進める間にチームが快進撃した。
何でしょうね。選手の皆さんやスタッフと話していても、心が変わったんでしょうね。気持ちが変わったから。話していても、選手は「やるぞ」という本気モード。気力で結果は出る。何でもそうですよ。言い換えるなら情熱ですよ。確かな気力を持つことによって、不可能が可能になることはいっぱいある。10の力がある選手が、もやもやの中で7や8しか出せていなかったところが、10以上のものを出せたのではないか。野球でも何でも、団体では一人二人、すごい人がいるけど、本当に今回の快進撃でうれしいのは、長崎の場合は週替わり、試合ごとにヒーローが出るのを感じる。日替わりヒーローが出てきて、層がだんだん厚くなってきた。気持ちの変化の中で、切磋琢磨(せっさたくま)して、自分たちが頑張らないといけない、となっていったのではないか。
-体制が安定した影響もあるのでは。
話を聞くと「給料が出るんだろうか」というところまでいっていた。3億円以上の赤字があってお金がないわけだから、そういう心配もある。プロ選手は自分の人生を懸けているわけですから。選手の夢を実現させてあげるのもクラブの責任。自分たちが頑張っていけば、J1も目指せるのかなという思いがだんだん、1勝していくうちに変わってきたのかな。ホームで強いのは、地域の人に愛されて、みんなが応援してくださっていることを感じる、その深さが変わってきたのかなと。まだまだ満員とはいかず、足を運んでくださる方の数は多くないですけど、そう強く感じる変化が起こっているのではないか。
-チームが好調な一方で、入場者数は伸び悩み。
これは一気には伸びないですよ。ビジネスでも「テレビを見る人が少ないから見てもらおう」といくら仕掛けても、それは積み重ねが必要。私の使命は「3年かかって変えます」というところを「2年かかって変えます」としていくこと。そうでないと、みんなの力が出てこない。今年いっぱいで一気に満員とは思ってません。でも確実に増えてもらえれば、一歩一歩、上がっていける。来年J1で1万、1万5000、ガンバ大阪戦(J2に初昇格した2013年開幕戦)のように1万8000…2万人が来るような夢を描けるところになっているのでは(※J1初昇格を決めた11日の讃岐戦はクラブ史上最多の2万2407人が来場した)。一気には来ない、一人ずつ増やす。簡単にはいかない。2年、3年、いろんな要素の完成度を高める。おいしいものがたくさん出た、物を買うのも楽しみ、企画も面白い、選手に会える…と。そういう企画の中で人は集まると思う。今年いっぱいは、あまり焦っても仕方ない。
-中長期的な戦略を立てている。
でもメッセージは出したいかなと。この間も佐世保から諫早に行くときに、旗がはためいていた。500本作ったんですよ。長崎空港とかJRにも交渉している。アウェーの方が長崎に来たときに、V・ファーレンを感じるものが少ない。これは旗を立てようと。先々は2000本、3000本と立てていくんですけども。とりあえずは500本立てようと。気付かれると思いますよ。テレビでの応援番組も全局でやった。ジャパネットがスポンサーになって、テレビ局さんから番組の枠を買い、長崎の民放4局をリレーする企画をやった。ジャパネットのメディア戦略担当と相談して、各局の社長さんたちに、枠をできるだけ廉価で提携してもらって。ジャパネットも制作クルーに入ってもらって、タレントさんに全部お願いして、あれだけの番組ができた。長崎の皆さんに、V・ファーレンの思いを伝えたい。この1カ月間は啓発を一生懸命考えましたから。県民の皆さんに少し、分かってもらえたかなと。
-もともとサッカーへの関心は。
サッカーも大好きですし、ゴルフなんてマスターズは徹夜で見てました。寝不足で困ったもんですよ(笑)。テニスも錦織さんが出るときは朝5時まで起きてみます。バレーボールもね。スポーツを見るのは面白いですもんね。やりはしないですけど(苦笑)。そろそろやらないとヤバいなと、少し思う年にはなってきますけどね。「歩こう」と思って1000歩くらい庭を歩いたり。今はやっぱサッカーですよ! こう言っとかないとね(笑)。
-サッカーとの関わりは。
ワールドカップを見るのはすごく好き。長男は過去4、5回、開催地に行っていますかな。ドイツも、南アフリカも。見るのはみんな好きです。そういうご縁もあるのかなと思います。僕は出無精なので、日韓大会のときに大分であった試合へ招待されたけど、社員の好きな者に行ってこい、と。僕はテレビ派だった。でもV・ファーレンの社長になってみたら、見に来る方がこんなに面白いんだなと。ハイタッチがいいですよね。あんなにおとなしい秘書の山崎が跳び上がってハイタッチするんですから。それぐらい違った感動があります、スタジアムには。
-プライベートの時間はどう過ごしているか。
ちょっと今はそういう時間がないですね。井上君(クラブ広報担当)が厳しくて。趣味はないんですよね。さっきも言ったけど、今はサッカーですよね(笑)。
-元陸上五輪代表の為末大氏を「フィジカルアドバイザー」に招く試みも。
V・ファーレンの役員に長男(旭人氏)が入って、強化とかそういうものは任せている。お付き合いもたくさんあるので、「こうしたい」という思いの中で進めている。為末さんは長男がよく知っているんですよ。そういう全部の力を結集しているんです。総合力でV・ファーレンを応援したい。
-社長自身、テレビで顧客から見られる立場にいた。今もスタッフやサポーターとも多く対話しているが、モットーは何か。
「礼儀正しく謙虚に」ですね。あくまでサポーターのために自分たちは頑張っているんだと。その姿勢を選手も絶対に貫いてほしい。サッカー文化の中で一番思うのは「選手が特別」じゃない。監督でも社員でも、ジャパネットが特別でもない。あくまで人と人ですから。謙虚に優しく礼儀正しく、そういうマナーを身につけて、誰からも信頼されるチームにしていきたい。長崎に来たらみんな優しいよね、と言ってもらえるようなチームに。あと、私が見られる立場というのは、あまり良しとしていない。今は再建中ですから仕方ないけど、高田明が目立つクラブにしてはいけない。あくまで、これからの世代の人がV・ファーレンも同じ夢をつくっていけるように。そのときに初めて、V・ファーレン長崎が10年、100年と続くクラブになっていくと思う。私自身がいつまでもいて、こうやって取材を受ける状況は、早く払拭(ふっしょく)できたらいい。これは本音です。
-100年後のクラブのイメージは。
この長崎の置かれた平和の象徴ですよ。今の世の中…戦後72年たっても戦いばかり。しがらみがあって、つまらんことをやっている。100年後は平和のシンボルのクラブとして、長崎が世界に認められるクラブになっているんじゃないかな。そういう夢を抱きたい。
(おわり)
=2017/11/13 西日本スポーツ=