PIXTA 今月のテーマは「投資」です。といってもマネーハック的には投資のノウハウを指南するわけではありません。もっと基本的なことで、投資の意味についてです。とりわけ、私たちにありがちな「投資の勘違い」について考えたいと思います。
来月10月4日は日本証券業協会が定める「投資の日」です。投資といえば、まだまだ未経験者が多いと思います。証券業協会の「証券投資に関する全国調査(2015年11月発表)」によると、個人の有価証券保有率は18.2%です。
■現役世代はもっと投資すべき
投資信託協会の「投資信託に関するアンケート調査(16年12月発表)」では、投信の保有率は16.0%としています。世代別の保有率は20歳代が5.7%、30歳代10.1%、40歳代12.8%、50歳代でも15.8%とかなり低い割合です。
一方、60歳代は23.8%、70歳代は27.1%と現役世代を上回っています。投信は年金生活世代が資産価値を維持する目的で保有している傾向があります。現役世代は企業型の確定拠出年金の加入者が625万人いますが、その4割強は100%安全資産で運用し、投信を保有していないといわれています。
若い世代の資産にはもっと投信を組み入れた方がいいのですが、そもそも「投資」に対する誤解や勘違いが障害になっているケースが多いと思われます。これはちょっとマネーハックして、発想をひっくり返したいところです。
■投資についての悪いイメージ
もともと日本人には「投資の利益は不労所得。お金は額に汗して稼ぐもの」といった考えが根強いと思います。投資についてのマイナスイメージもあり、諸外国に比べて資産に占める現金・預金の比率が高く、「貯金好き・投資嫌い」の傾向につながっています。
前述の証券業協会のアンケートでは、証券投資のイメージを聞いていて「難しい」「お金持ちがやるもの」「ギャンブルのようなもの」「なんとなく怖い」といった回答が上位を占めています。
協会のアンケートだけに「投資は悪いこと」「投資はずるいこと」という設問はなかったようですが、投資に対するマイナスイメージはかなり強いと思います。実際のところ、投資というと詐欺的商品で何十億円の被害が出たり、インサイダー取引がニュースになったりと、「悪い」「ずるい」を体現するような内容ばかりです。投資を巡り、そうしたことが起きているのは事実でしょう。
■投資は社会にとって必要なこと
しかし、投資は本来、悪いことやずるいことをしてお金を増やすのが目的ではありません。額に汗して稼ぐものでもありませんが、頭に汗して稼いでいるようなものです。そして、投資は社会には必要なことで、おおむねその存在は良いことなのです。
できるだけシンプルに説明するなら、「投資は経済や企業を成長させ、あなたの懐も豊かになる」ということです。
あなたがどこかの企業に投資をしたとします。その企業は得られたお金を元手に新たな事業を展開します。
その企業が商品開発を行い、今まで世の中になかった素晴らしい商品が誕生することになれば、世界はより豊かになります。アップルのアイフォーン(iPhone)やトヨタ自動車のプリウスは人々の生活を豊かにしたことで企業が成長しました。
「ユニクロ」のファーストリテイリングやニトリのように「質は高いが値段は安い」という商品を提供する企業も世界を豊かにしますが、これも投資する人があってこそ成長のチャンスが得られるのです。
企業の成長はそこで働く社員も、取引先企業も豊かにし、企業の株価も押し上げます。また、企業は利益が出たら配当を株主に行います(東証1部上場企業の配当利回りは平均1.6%ですから、年0.01%の定期預金と比べればこれは大きな収益です)。投資を通じて世の中が豊かになる手伝いをしたことで、最終的にあなたの懐も豊かにすることになるわけです。
■あなたの「推し」が企業を育てる
日本ではこうした視点での投資教育があまりなされていませんでしたが、誰でも投資を通じてその世界の成長の仕組みに参加することができます。
好きなアイドルをプッシュすることを「推し」といいますが、自分の「推し」を決めて投資先を選ぶことができるのも投資の良いところです。
どんな企業、どんな世界を応援するか、あなたは選択することができます。個別銘柄を選んだり、上場投信(ETF)であれば「日本」「インドネシアやブラジルといった新興国」など地域を選んだりすることもできます。「IT(情報技術)系はまだ伸びる」「電力やガスなどのインフラは社会に欠かせない」といったように業種を選んで投資をすることもできます。
悪い投資家やずるい投資家がニュースになるのはむしろ、ルールを破った人がきちんと罰せられていることでもあります。
日本では証券会社や銀行がこれまで自社の利益を優先し、手数料稼ぎの目的で投信の短期売買を勧めるなど、顧客軽視ともいえる姿勢が批判されてきました。こうしたことも投資の悪いイメージにつながっていたと思われますが、最近は金融庁が顧客の利益を最優先にする「フィデューシャリー・デューティー(受託者責任)」を求めており、姿勢の変化が期待されます。
まずは「投資は悪いこと」「投資はずるいこと」というイメージについて発想を逆転してください。あなたのお金に対するビジョンは大きく広がってくるはずです。
マネーハックとは ハックは「術」の意味で、「マネー」と「ライフハック」を合わせた造語。ライフハックはIT(情報技術)スキルを使って仕事を効率よくこなすちょっとしたコツを指し、2004年に米国のテクニカルライターが考案した言葉とされる。マネーハックはライフハックの手法を、マネーの世界に応用して人生を豊かにしようというノウハウや知恵のこと。
山崎俊輔 AFP、消費生活アドバイザー。1972年生まれ。中央大学法学部卒。企業年金研究所、FP総研を経て独立。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。著書に『誰でもできる 確定拠出年金投資術』(ポプラ新書)など。http://financialwisdom.jp 本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。