糖質制限食の有効性と課題

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プラクティス 34巻1号
知って得するケトン体の不思議 -ケトン体:敵か,味方か?-

雑誌 – 2016/12/28

63p FORUM 食事 Diet
第1回 糖質制限食の有効性と課題

順天堂大学大学院
代謝内分泌内科 金澤 昭雄

はじめに
糖尿病の治療において、食事療法、運動療法が基本であることに疑いない。
これらの実践なくして良好な血統コントロールは得られない。
糖尿病の患者を最初に診断した時にはまず、医師は患者の標準体重から日々摂取する総エネルギー量を決定し、栄養士にその指導を依頼する。
摂取エネルギーが過度で肥満を合併した糖尿病患者がその指導を厳守することで減量に成功し、血統コントロールが改善する場合もある。
しかしながら、何度も栄養指導を行うものの血統コントロールが改善しないケースも日々、遭遇する。
こういった状況を鑑みると本当によいのかどうか疑問も残る。
近年、糖質制限食に関する情報がインターネットや書籍でもはんらんしている状況ともいえる。
糖尿病患者に限らず一般の人たちの関心も高くなっており、食事療法というものが大きな転換期を迎え、今まさにトピックといえるのではないでしょうか。
本稿では、我々の教室で日本人2型糖尿病を対象にし、糖質制限食の血統コントロールに対する効果を無作為比較試験¹⁾で検討したので紹介する。

患者背景と方法
すでにエネルギー制限食の栄養指導制限を受けたことがありながら。
なHbA1cが7.5以上で3ヵ月以上経過している。
20歳以上75歳未満の2型糖尿病患者を対象とした。
被験者は無作為に2群に割り付けられ、糖質制限群は糖質を1日当たり130gに制限する栄養指導を、開始時・2か月後・4か月後と集中的に受け、エネルギー制限群は28kcol/標準体重kgの栄養指導を同じタイミングで受けた。
なお、糖質制限群では総エネルギー摂取量については制限されなかった。
主要評価項目は6ヵ月間でのHbA1cでの変化量であり、体重、脂質、腎機能についてもあわせて検討を行った。
サンプルサイズの計算は北里大学北里研究所病院の山田 悟先生の先行研究²⁾を参考にして算出し、66人の患者を無作為に割り付けた。
エネルギー制限群で1人、糖質制限群で3人の脱落者があり、最終的にはエネルギー制限群で32人、糖質制限群で30人解析された。
に患者背景を示す。

結果 ~糖質制限の有効性
主要評価項目であるHbA1cの変化量は糖質制限群において有意に大きく(糖質制限群のHbA1c中央値8.0→7.3%、群比較p<0.01)、また、BMIについても同様であった(糖質制限群の体重中央値74.0→69.9kg、エネルギー制限群の体重中央値74.0→73.8kg、群間比較、p=00.2)。
脂質及び腎機能の6ヵ月での変化量は量群に変化はなかった。
エネルギー制限群では試験前後で糖質摂取量に変化を認めなかったが、糖質制限群では糖質摂取量はベースラインから-87g/日(中央値)まで減少し、エネルギー摂取量は1日で-406kcolが減少した。
また、両群において、タンパク質や脂質の量には変化がなく、糖質制限群でエネルギー摂取量が減少したのは糖質の制限によるものと考えられた。
糖質制限群では脂質やタンパク質の摂取量は自由としたが、肉と脂肪の量は増えておらず、日々の食事ではそれほど食べきれない状況も興味深い。
海外で行われたDIRECT試験³⁾と同様な結果といえる。
また、HbA1cの変化量を個々のデータでプロットすると(図1)、HbA1c変化量として-2.0以上と劇的な改善を示す例も認められた。
糖質制限食の血統コントロールに対する有効性が示された。
今回の我々の検討で糖質摂取量を1日130gとしたのは、海外の報告⁴⁾でも130gの糖質摂取がlow-carbohydrate dietのボーダーに位置し、それほど厳しい糖質制限にはあたらなく、実効性という点で継続しやすいと予想したためである。
その結果、糖質制限群で3例がドロップアウトになったが、2例のみ糖質制限の実施が困難であり、6ヵ月という短い期間ではあるが、アドヒランスという点ではそれほど悪くないと思われる。
糖質制限群では最終的に1日当たりのエネルギー摂取量が中央値で1,371kcolとなっており、対象患者が肥満を合併している例が多かったとはいえ、非肥満患者では低栄養のため筋肉量の低下などの好ましくない影響が出る可能性が出る可能性もあり、注意は必要である。



その後の追跡調査  ~糖質制限の課題~

前述したように栄養士が精力的に行った糖質制限指導は血糖コントロールの改善と体重減少という点において半年間の検討では有効であった。
しかし、生涯栄養指導を受け続けるわけにもいかず、栄養指導の介入がなくなったあとに患者がどのような食行動をとるかは重要なポイントである。
そこでわれわれは、試験終了後の患者の追跡調査をさらに半年間行い、エネルギー制限群は25人、糖質制限具では23人解析を行い、2016年の京都で行われた日本糖尿病学会年次学術集会において発表した。
結果はほとんどの患者が130gの糖質制限ができておらず、介入前の糖質摂取量に戻ってしまっていた(図2)。
さらに介入後に糖質制限群で有意に低下していたHbA1cは、介入中止後にはエネルギー制限群との差が消失していた(試験開始時と試験終了1年後でのHbA1cの変化量は、エネルギー制限群:-0.32%、糖質制限群-0.39%、群間比較、p=0.80)。
このように栄養士のの介入が継続されないと日々の生活で糖質制限を実践していくことに困難な状況も明らかとなった。
このような結果をふまえると、厳格な糖質制限は血糖コントロールにおいて大きな効果を発揮するのは間違いないが、その継続性において現実的ではないと考えられ、もう少しマイルドな糖質制限によって継続可能とする工夫が必要と考えられる。
しかしながら、これらについての詳細な検討はなく、今後の課題である。

文献
1)  Sato , J., knazawa, A et al : A randomized controlled trial of 130g/day Low⁻cardohydrate diet in type 2 diabetes with poor giycemic control.
Clin nutr, 2016 [Epub ahead of print] (doi  :  10.1016/j.clnu.2016.07.003)
2)  Ymada, Y.,uchida,J.:a non⁻calorie⁻restricted low⁻carbohydrate diet is effective as an alternative therapy for patients with type 2 diabetes Intern med,53(1) : 13~19, 2014.
3) Shai, Ⅰ., Schwarzfuchs, D et at. : Weight loss with a low⁻crebhydrate, Mediterranea, or low fat diet N Engl J Med, 359(3) : 229,~2008.
4)  Feinman, R, D, Pogozelski W. K. et al. : dietary cardohydrate restriction as the first approch in diabetes management  : critical review and evidence base.
Nutrition, 31(1) : 1~13, 2015

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