出産後に閉じこもり、外出しない中国系女性たち
アンバー・ハーク記者、BBC番組「ビクトリア・ダービーシャー」
母親が出産後の1カ月間、外出せず、家に人を呼ばず、シャワーを浴びない生活を送る「産後の閉じこもり」が英国の中国系コミュニティーの間で広くみられるという。専門家らは、ほとんどの医療関係者はこのことを知らないと警告する。
「自宅に閉じこもるのは大事」とチン・チン・ターナーさんはロンドンの自宅から話す。28日前に出産してから一歩も家を出ていないという。
来客は許されていないため、ターナーさんはBBC番組「ビクトリア・ダービーシャー」にビデオ電話で出演した。
昔からの教えによると母親と赤ちゃんの免疫力は非常に低いため、閉じこもるのは重要なプロセスだとターナーさんは主張する。
中国系のターナーさんは、「私たちにとって、それを実践しないのはわざわざ損をしているようなもの」と語る。
産後の閉じこもりはアジアではよくある習慣で、中国では母親たちが1カ月間閉じこもるための特別な病院がある。そこでは、1日に1回しか自分の赤ちゃんと会わないこともあるという。
中国の伝統医学では、出産直後の女性たちは冷たい空気に弱く、その結果病気になりやすいと言われているため、閉じこもりが行われている。
ターナーさんはシャワーを浴びるなどして、「閉じこもりを現代のやり方でやった」と考えているが、ターナーさんの願いは、英国生まれの夫には驚きだった。
「夫は(閉じこもりに)いろいろなルールがついてくるとは、気づかなかったと思う」とターナーさん。
「夫は赤ちゃんを見せびらかしたいと思っていたので、彼にとっては少しつらかった」
「でも今はその1カ月も終わりに差し掛かっていて、夫も利点を認めている」
キングス・コレッジ病院の神経科医、キット・ウー医師は、産後の閉じこもりは中国文化にとても深く根ざしてるので、「私ですらやった」と話す。
「その1カ月間は冷たい飲み物を飲んではいけない、シャワーをしてはいけない、髪を洗うのも許されない、もちろん家から出ないなど、かなり厳しい規則がある」
ウー医師は「一部のかなり厳格な女性たちは実際、最初の2週間はベッドから出ず、その後は最低限の運動しかしない」とも話す。
ウー医師は閉じこもりが、産後うつ病にかかっている中国系英国人の母親たちに与える影響を特に懸念している。
ウー医師は「出産後の母親たちはしばしば孤立し、順応するのに苦労するときがある」と説明する。さらに中国系コミュニティーの間で、出産は人生で幸せなときだと見るプレッシャーがあるため、多くの母親たちは医療従事者に対してその症状を隠すと言う。
ウー医師はまた、「母親たちは健康上の問題があるとき」、自分で問題に対処しようとするが、それは母親と子供の健康に悪影響を与えるおそれがあると心配している。
ターナーさんの場合、ターナーさんの母親が娘と一緒に過ごすため、シンガポールからやって来た。
イングランド公衆衛生局は、「保健当局者や助産師は家族のニーズを守りながら、さまざまな文化や伝統を尊重する方法について特別な訓練を受け、技術を身につけている」と述べた。
「よりその人に合ったサポートが必要な場合は、それを家族と話し合って合意していく」
漢方薬で治療
ウー医師は、医療の助けを借りることへの文化的な嫌悪のために、中国系コミュニティーの多くの人が主流の医療サービスから「見落とされている」と指摘する。
BBCは王立助産師協会、保健師協会、それに母親のメンタルヘルスに関わるあらゆるチャリティー団体と連絡を取った。すると英国在住の中国人への医療の専門知識がほとんど、あるいはまったくないというのだ。
クリスティー病院の臨床腫瘍医であるリップ・リー医師は、英国在住の中国系コミュニティーの人は「平気を装う」傾向があるという。特にがんに関してはこの傾向が顕著だ。
「医者が痛いかと聞いたときでさえ、否定する。そういう人たちは『がんになったのは定めなんだ。だから痛みを耐えなければ』あるいは『漢方薬で治療してしまおう』と考える」
専門家は、助けを求めないという選択は一人暮らしの年配の中国人にも害になっているという。
ロンドンにある中国健康生活センターのエディー・チャンさんは認知症がこのような英国在住の中国系の人たちに重くのしかかるかもしれないと指摘した上で、「英国に移住した中国系一世の人たちが、今や非常に孤立している」と述べた。
また言葉の壁もあり、「自分たちのニーズをくんでくれる主流の医療サービスを見つけるのがとても難しい」とした。
化学療法を「断る」
ホン・チャン・タンさん(73)はワンルームのアパートで一人暮らしをしていて、英語は話せない。
タンさんは最近、前立腺がんと診断されたが、すべての治療を断ることを決めた。
痛みが強く、歩けない。中国健康生活センターからのボランティアの介護スタッフがなるべく訪れるものの、食事やコップ一杯の水さえ飲めない日もあるとタンさんは言う。
「ある医者から、このままでは死んでしまうから、化学療法を受けないかと説得されたんです。私は断りました。すべてのがんがそうであるように、確実に死ぬか、または長くは持たないですから」と医学的証拠に反してタンさんは言う。
タンさんの場合、子供たちが看病に加わらないことがますます寂しさを募らせている。
「ある日トイレに行こうとしたら、目の前が真っ暗になり、目まいがして倒れたんです。しばらく床に倒れていて、ベッドが遠すぎると気づいたので、そこまで這わなければいけませんでした。子供たちに電話すると、娘が電話に出たんですが、あまり話さず、結局看病に来ませんでした。あの数日は本当に状態が悪かった。どうやって乗り越えたか分からないです」
英保健省は文書で「誰であっても、どこに住んでいても、その人にどんな背景があっても、国民全員が長く健康な人生を送れるよう、同じ機会を提供したい」と述べ、さらに、「健康に関する不平等を減らすため、包括的で戦略的な手法を取っている。それにより不健康の原因を探り、より健康なライフスタイルを奨励している」と述べた。
しかしウー医師は、中国系コミュニティーを理解するためにもっと手を打つ必要があると考えていて、医療ニーズに関するデータをもっと取るよう呼びかけている。ウー医師は、現在中国系コミュニティーの医療ニーズは「他の民族同様、型にはめられている」という。
また中国系の地域団体への財政的支援も要求している。多くの人にとっては、地域団体が主な、あるいは唯一の助けなのだ。
ウー医師は「私たちが何も言わず、親切だからと言って、無視されていいはずがない」と言う。
(英語記事 Why British Chinese mothers won't go out after giving birth)