ところが、このプロジェクトに対して「天文マニア」からはかなり否定的な反応が多数。そのギャップの理由は何か?
人工流星の技術・エンタメ・ビジネス面からの価値と実現性はいかに?それらを整理してみました。
目次 [非表示]
「人工流星」とは?
ここで話題にしている「人工流星」とは、宇宙ベンチャーのALE(エール)社(東京・港区)が計画しているもの。
ITmediaNEWS・人工流れ星、2019年に広島で実施 ベンチャーら民間宇宙事業で
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1702/10/news106.html
同社らが開発している人工流れ星は、特殊な素材の粒を人工衛星の軌道上から宇宙空間に放出し、地球の大気圏に突入させて粒がプラズマ発光しながら燃焼することを誘発。燃える素材が地上からは流れ星のように見える現象を発生させる仕組み。素材と放出装置共に現在開発中としている
人工衛星から「流星の素」となる1cmほどの金属球を放出し、それが大気圏に突入し燃えながら光るという仕組み。
「人工流星」というものは実はこれが初めてではありません。
星空の旅人・人工流れ星を創る本当の意義
http://www.junkstage.com/abe/?p=704
このブログはALE社でプロジェクトに携わっている阿部新助・現日本大学理工学部航空宇宙工学科 准教授のものですが、
- 人工的に流れ星を作るアイデアは1940年頃からある
- 最初の成功は1957年、米国空軍によるもの
- 1960年にNASAラングレー研究所が0等星の明るさの流星を発生させる実権に成功
- 20世紀末に日本大学理工学部のグループが衛星の具体的な設計検討まで行っていたが実現には至らなかった。
などの記述があります。
(上記記事は長文ですが、人工流星の報道とそれに対する否定的見解も含めた反応、科学的意義、スペースデブリ問題など多角的な視点で人工流星が記述されています)
Naverまとめ・へ?『流れ星』を人工的に降らせることできるらしい
https://matome.naver.jp/odai/2143947912877394001?page=2
上記は「ソースはNAVERまとめ」ですが、人工流星界隈の全体像を知ることができます。
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「宇宙ベンチャーALE(エール)」・これまでと何が違うのか
という人工流星ですが、これまでと何が違うのでしょうか?
ずばり、それは「ビジネス」であること。
IT MediaNEWS・広島に“人工流れ星” 19年実現に向けファミマ、JALが協賛(2017/11/7)
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1711/07/news143.html
上記報道では、ファミマ・JALという大企業が協賛を決めたとのこと。「人工流星」は商品であり、ビジネスなのです。
Yahoo!ヘッドライン・宇宙ベンチャーALE 岡島社長「人工流れ星で見たことのない景色作りたい」(2017/11/8)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171108-00000001-wordleafv-sctch
岡島:人工流れ星事業では、『一粒何円』という売り方を考えていません。人工流れ星の鑑賞を組み込んだイベントとしての展開を考えています。人工流れ星を見るイベントが、たとえばハロウィンのような人気のあるお祭りになれば、イベントを行う地域の人びとに楽しんでもらえますし、宿泊客も増えるなど街の中が活気づくでしょう。このイベントに魅力を感じる方々にスポンサーになってもらって一緒に地域活性化を図っていきたいですし、人工流れ星を見る文化も作っていきたいですね。
文字強調:編集部
Yahoo!ヘッドラインにも出ました。
ビジネストーク的には「星見による町おこし、地域活性化」にも近い印象を受けますね。
でも「文化」云々は一部に反感のみを与える表現だと思います。「自然の」流れ星を見る文化は昨今ネットで「流星群ネタ記事」の人気のせいもあって、かなり広まってきていますし、「人工流れ星を見る文化」ってそれと何が違うの?と正直感じてしまいます。
HAFFPOST・「人工流れ星、東京オリンピックの空に」岡島礼奈さんが宇宙に見つけた、起業家という道(2015/12/31)
http://www.huffingtonpost.jp/2015/12/31/-artificial-shooting-star-ale-rena-okajima_n_8898834.html
「人の手で、夜空に流れ星を流そう」
まるで夢のような計画の実現に向けて奔走している女性がいる。宇宙ベンチャー企業・株式会社ALEの代表取締役を務める、岡島礼奈(おかじま・れな)さんだ。
岡島さんは東京大学理学部天文学科を卒業後、同大学院に進学し理学博士(天文学)の博士号を取得。卒業後は、ゴールドマン・サックス証券に就職。後に新興国ビジネスコンサルティング会社の副社長として働いたという。
ALE社のCEO、岡島礼奈さんのインタビュー記事。
流星ビジネスに至るまでのキャリア、プロジェクトの概要、意義などが語られています。
個人的には「学者に向いていない」のならDに進む前に自覚するような気もしますが・・でもほとんどの人が反対しそうな案件をここまで進めてお金を引っ張ってくるのは大したもの・・ちゃんと子供も2人つくってるし・・ここまで来ればぜひExitまで成功してほしいと思います。単なる個人の感想ですが^^;
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天文マニアから発せられる「違和感」
前置きがとても長くなりましたが、ここからが本題。
この「人工流星プロジェクト」、天文マニアには極めて評判が悪いようです。
先の阿部准教授のブログにまとめがありますので引用します。
星空の旅人・人工流れ星を創る本当の意義
http://www.junkstage.com/abe/?p=704
- 流れ星は滅多に見られないからこそロマンがあるのに,人工的に流したら意味がないな。
- 流れ星は自然現象だから美しいのであって,いつ流れるか分からないから価値があるんだよ。
- 田舎で1時間も空を見上げれば,流れ星ぐらい何個も見えるのに,何で人工的に作る必要があるのか。
- 技術的にはすごいかもしれないけど,無意味でお金の無駄遣い。
- 塵をばら撒いて環境汚染になる。
- 軍事利用される可能性がある。
- 流星観測の邪魔になる。光害になるようなショーは行って欲しくない(天文家より)。
文字修飾・編集部
そのほか、SNSでの反応を見ると、
- 本物の流星群の魅力と価値が薄れる
- 富士山のプロジェクションマッピングがポシャッたようにこれもポシャることを願う
- 研究目的以外の人工流星は容認できない
- 宇宙が本当に好きなら、制御が出来ない大量の人工物を放出するなんてこと考えない
- 自分の家の庭でやれ
- 抗議文送った
- 根本的には「花火」と同じ、花火以上の感動は無い。一過性で終わるのでは?
- 所定の場所に正確に打ち込む技術が困難すぎるのでは?
など、散々な評価です。
数値的にはこんな感じ。半数近くが怒っていて、泣いてる人を加えれば過半数。
編集子の知人・友人の反応もこれに近く、「天文マニア」の半分近くは否定的であるのが現状のようです。
編集子も天文マニアの端くれなのですが、友人に嫌われたり失ったりするリスクを覚悟で敢えて言います。
この反応には強い違和感を感じずにはいられません。
この反応こそが、特定の信条に強く凝り固まった集団の典型的なものではないでしょうか?
人工流星のコスト・花火との比較
「人工流星」はどれくらいのコストがかかるものなのでしょうか?似て非なるものではありますが、「光り物系」の花火と比較してみました。
いろいろ書いてますが結論は「1個当たりのコストは最大規模の打ち上げ花火「尺玉」を越え、約100万円」です。
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花火のコスト
Walker+ 意外に庶民的? 花火一発あたりのお値段
https://hanabi.walkerplus.com/unchiku/23122.html
上記サイトによると、直径100mの「5号玉」で4000〜5000円。大きくなるほど値段が跳ね上がり、450mの「10号玉(尺玉)」で80万程度。打ち上げ設備・警備費用を含めると、1万発規模で5000万〜1億円くらいとのこと。ざっくり「1発5000円〜1万円」というところでしょうか。
ちなみに「隅田川花火大会(動員95万人)」は2.2万発、日本最大規模の諏訪湖花火大会(動員50万人)」が4万発です。
(出典:https://sp.jorudan.co.jp/hanabi/rank_uchiage.html)
人工流星のコスト
では、人工流星はどうでしょうか?
超ざっくり試算してみます。
週刊アスキー・夜空に流れ星を自在に流せる”人工流れ星プロジェクト”の発案者は理系ママ
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/241/241904/
「人工流れ星」の開発が進む!発案者は東大出身のママ起業家
https://irorio.jp/nagasawamaki/20150219/206834/
上記記事によると、ALEの打ち上げコストは総額5億円で約1000個の「流星素材」を詰めるそう。この計算だと一発100万円となり、尺玉よりもさらに高く、かなり高価であることがわかります。
一方、「打ち上げ」だけのコストを重量当たりで計算してみましょう。
TechCrunch・学生が設計した “Femtosat” は人工衛星の打ち上げコストを1000ドル以下にする
http://jp.techcrunch.com/2016/04/08/20160407student-designed-femtosats-aim-to-bring-cost-of-satellite-deployment-below-1000/
この記事によれば、「一辺3cm重量35グラムの超小型衛星なら1000ドル以下で送り込める」とあります。いろいろ、人工衛星ビジネスが広がって低価格化しているという前提ですが、打ち上げコストだけなら、1グラム当たり約30ドル。
流星素材を含めた打ち上げ重量は65キロとのこと。グラム30ドルで換算すると約2億円。プロジェクト全体で5億とのことですが、3億円は衛星本体の研究開発費用でしょう。
仮に流星素材が直径11mmのパチンコ玉(鋼製・5.4〜5.7g)と同じだとすると、1000個で約5キロ強。打ち上げ重量65キロの大半は素材ではなく射出機材の重量のようです。
人工流星の技術とその課題
これまで公開された情報から、人工流星の課題を挙げてみます。
狙った場所に落とせるのか?
発表資料によると、流星の素は地上約400km上空から7.0km/sで発射されるとのこと。地上到達の誤差は半径100km。
この通りなら視野角120度の範囲なので、放出された流星のほぼ全部を一カ所で見ることができます。
「流星の素」は人工衛星から発射された後、地球を約1/3周して標的地点に到達します。
高度500kmでの人工衛星の対地速度は7.6km/秒。
上記リンク先記事には「約7.0キロ/秒で発射」とありますが、実際には7.6km/秒で動いている衛星から放出システムで「最大400m/s」で発射されます。
この際の放出速度と角度の正確さが目的の場所に正確に到達するかを決定します。SNS上の書き込みでは「実現不可能なほど難度が高い」というのもありましたが、ここが解決すればまずは第一ハードルはクリアです。
ちなみに広島のイベントが「400個」というのはこの放出システムの上限仕様のようです。
人工衛星をつくる−設計から打ち上げまで−
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じゅうぶんな明るさが得られるのか
衛星から毎秒約7kmの速度で放出された「流星の素」ですが、これは毎秒30km〜70kmで地球に突入する自然の流星よりはるかに遅い速度です。
このため、自然の流星よりすっと「ゆっくり」「長時間(5-10秒)」光ります。実際にこれはどのくらいの明るさになるのでしょうか?
あなたの“願い”はかなう? 世界初の「人工流れ星」に驚き (2/7)
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1604/06/news016_2.html
上記リンクによると「当初は3等星くらい」だったものが、「様々な工夫を加えて-1等になった」とありますがALE社の公式HPからは「明るさ」に関する記述はありません。
地上での実験・シミュレーションと本番の結果が一致する保証はありません。何よりALE社自らが「大気圏の中でもっとも謎に包まれた場所の1つ」と言っている「高層大気」の中の現象。
天文マニア的に言い切ると、人工流星の明るさが3等星ではショボすぎて「大失敗」、-1等あれば市街地でもけっこうな壮観になることでしょう。空の暗い郊外であれば、凄い体験になる可能性があります。
正直いって、楽しみです。ワクワクします。
空からモノをばらまくのってどうなの?!
これが一番の問題です。
おそらく確実に「流星の素は大気中で燃え尽きる」でしょうから、地上や低空の航空機上に落下して物理的な被害が出る確率はゼロに近いものでしょう。(総重量65kgのこの衛星そのものが地上に落下しても燃え尽きるはず)
ただ、地上500kmより低空には多くの人工衛星が回っています。射出した「流星の素」がそれらに衝突して何らかの問題になる危険性はゼロではありません。
このあたりには公式HPのFAQに「あっさりと」書かれていますが、未知の新しい試みですから「リスクがゼロでない」ことを理由に論陣を張れば、原発や環境破壊の問題と同様に、永遠に終わらない問題です。
本稿ではこの件はここまでにしておきます。
スペースデブリ: 宇宙活動の持続的発展をめざして
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地上の天候の問題
地上が雨や曇りだったらどうするのか?これについてはどこにも記述が見つけられませんでした。
花火大会は曇りや小雨でも問題ありませんが、流星はそうはいきません。スポンサーを巻き込んだ大規模なイベントになったとき、悪天時にどんなオペレーションになるのか?想像すればするほど、担当者様の胃の痛みを感じずにはいられません。
「2019年初夏」がいつなのかは不明ですが、好天を祈るばかりです。
人工流星のエンタメ価値
ALE社のプロモーション動画。
実際に流星が流れるシーンが乏しく派手でないのは、スポンサーの期待値を上げすぎないための配慮なのか、想像するしかない中で断定的に絵を作れないためなのか不明です。再生数も11/13現在で830、地味な動画です。
ここでは想像力を満開にして、「人工流星がどう見えるか、その見どころ」を考えて見ました。
「遅い流星」はどう感じられるか
人工流星は発光時間が「5秒〜10秒間」と長いため、天然の流星とはずいぶんと違った印象になる可能性が大です。天然流星は1秒以内で消えてしまうため、残像が残って線状に見えますが、人工流星は飛行機のように「間延び」したものになる可能性があります。
ただ、プロモーション動画のように「尾を引いた流星がごくゆっくり、同時に一方向を向いて流れる」のであれば、これは見たことがない体験になる気がします。「宇宙からの物体飛来」感が満載。
天然流星固有の現象はあるのか
マイナス等級クラスの明るい天然の流星は、流星によって電離した大気中の酸素が緑色に発光し、ごく短い尾(短痕)を引きます。また、飛行機雲のように数十秒にわたって跡が光ることがあります(永続痕)。
このような現象が起きれば、より美しい光景になることが考えられますが、人工流星は速度が遅いためあまり期待できないと推測します。(天然の流星では、対地速度が速いほど痕が明瞭に観測されます)
また、経路の最後で爆発的に輝く現象は明るい天然流星ではよく見られるのですが、これが出るとアピール度大。どうなんでしょうか・・・
流星の光度と色は一様なのか
公開記事では、「流星の素」は同じ大きさのボールのように見えます。おそらく空気抵抗を一定にしおなじ場所に到達させるための要請でしょう。
なので、「個性のない流星」ばかりになる可能性があります。
公開記事では炎色反応で多様な色を出すことができる、とありますが、2019の広島では実現するのでしょうか。
400個同時に飛ぶのか、順番に飛ぶのか
素人考えですが、毎秒400mというピストル並みの初速で射出することから想像すると、順次に飛ばすことになるのでしょう。1秒間隔なら400秒、7分間。毎秒10発連射なら、40秒間。
花火大会のように、メリハリを付けた演出は可能なのでしょうか?複数の射出装置がない限り難しいかもしれませんね。
2017/11/14追記)
朝日新聞デジタル・人工流れ星輝くか、19年初夏に実験 広島・瀬戸内地域
http://www.asahi.com/articles/ASKC761MWKC7UBQU010.html
上記記事に「一度に5個以上を連続して放つことができる。」「シリウスの明るさに近いマイナス1等星くらいに見えるという。」という記述があります。
さらに妄想全開!
素人妄想をさらにヒートアップさせていくと、そもそも「人工衛星から射出する」というのはベストな解なのか?と思えてきます。超高度まで打ち上げて、自由落下で落として高度100kmで爆発させれば・・・あ、これってほとんど「弾道ミサイル」ですねw失礼しました・・・
人工流星は「何か」を破壊するのか?
ふたたび(ようやく)本題に戻ります。
天文(マニア)クラスタの冷たい反応についてです。
人工流星に対しては、天文マニアは「自分がこれまで一番大事にしていたこと」を破壊する、と感じているのではないでしょうか。
それは年々失われてゆく「自然」であり、自分たちが一般人と違うレベルで感じる「ロマン」であり、ある種の「変人」であることを暗に認める価値観です。
このことについては、編集子は全く否定しません。
しかし「天文マニア」以外のコミュニティではこのことは「大いに」理解されていません。
それを認めた上でなおコミュニティに閉じこもるならそれもよし。一つの生き方です。
でも、コミュニティの外にも理解されるように、自分たちの価値観を発信していきたいなら、コミュニティの内外にあるギャップを意識し、それを埋めるような行動と戦略が必要なのではないでしょうか。
大人げないと思いつつも、以下一つづつ反論しています。
-
流れ星は滅多に見られないからこそロマンがあるのに,人工的に流したら意味がないな。
1個100万円もかかる人工流星は、自然の流星以上に滅多に見られないですが。
毎日人工流星が流れるようになったら、「自然の流れ星」のロマンはなくなるのでしょうか?
-
流れ星は自然現象だから美しいのであって,いつ流れるか分からないから価値があるんだよ。
プラネタリウムやISSはお嫌いですか?いつ流れるか分からないものを待ち続けそれに出会うことの価値には大いに同意しますが、2001年のしし座流星群で間断なく流れる流星にも貴方はたぶん感動されたはずです。
-
田舎で1時間も空を見上げれば,流れ星ぐらい何個も見えるのに,何で人工的に作る必要があるのか。
なぜ、世の中の多くの人は「田舎で1時間空を見続ける」ことをしないのでしょう?
-
技術的にはすごいかもしれないけど,無意味でお金の無駄遣い。
貴方のお金なら無駄遣いかもしれません。でもこれはある会社と起業家が自力で集めたお金です。無駄かどうかを判断するのは出資者・協賛者ではないでしょうか。
- 塵をばら撒いて環境汚染になる。
400個、約2kgの塵が大気にばらまかれます。それは事実です。その意味では反論の余地はありません。
-
流星観測の邪魔になる。光害になるようなショーは行って欲しくない(天文家より)。
人工流星を科学的に観測し、流星の研究に寄与できるまたとない機会だと思うのですが。高々1時間、400個の-1等の流星は光害でしょうか?
-
本物の流星群の魅力と価値が薄れる
逆だと思います。これによって「本物の流星群」の魅力がより認知されるのではないでしょうか?
-
宇宙が本当に好きなら、制御が出来ない大量の人工物を放出するなんてこと考えない
制御できない多数のスペースデブリが存在する現状、傾聴すべきご意見です。でも「宇宙が好きかどうか」との相関についてはよくわかりません。
-
根本的には「花火」と同じ、花火以上の感動は無い。一過性で終わるのでは?
傾聴すべきご意見です。個人的にも、これは当該プロジェクト最大の課題になると感じていますが、これは初回の見え方でかなり方向性が見えてくるでしょう。
ALE社は科学発展に貢献できるのか
もうひとつ。
ALE社のHPには「エンターテインメントとしての試みと同時に、 様々な科学発展にも貢献していきます」とありますが、これは2019年広島のプロジェクトでどのように実現されるのでしょうか。
プロジェクトのHPには全く記述がありません。
協賛社にも大学・研究機関などの名前は含まれていません。
高層大気中での人工流れ星の挙動を観測するのであれば、「観測者」が必要。それはいったい誰がどのようにやるのでしょうか?観測者のコストは誰が負担するのでしょうか?
複数地点での位置観測はまずマストでしょう(射出精度を向上させるためにこれは当然なされるはず)。
高解像度の望遠鏡で流星の挙動を動画でとらえたいし、成分の分かっている人工流星でスペクトルの観測をすれば、大気起因の発光だけを分離できるはず。でもそもそも「企業秘密」である「流星の素」の成分は公開されるのか?
2019年広島のプロジェクトでは、ビジネスを前に進めるための活動だけ行い、科学研究はもっと先で・・という話なのかも?と邪推してしまいます。
ALE社が「科学発展への寄与」を看板に掲げるのであれば、2019広島でのこの点の立ち位置は明確にすべきです。
また、その時に一番協力を求めるべき先は、人工流星を一番嫌っている「天文マニア」となるはずです。天文マニアに嫌われている現状を看過してはならないと思います。
まとめ
多様な価値観を包含できない限り「天文界」の発展はない
「変態推し」の天リフ編集部です。
天文界の「変態」は数あるマニア趣味の中でも突出して尖った文化であり、大いに世界に誇るべきものと信じています。
でもその一方で、マニアが殻に閉じこもり、新規参入者を排除するような状況には異を唱えたいと考えています。それは今回の人工流星の問題だけではありません。
マニアには、それぞれ皆心の中に「神聖にして犯すべからず」な聖域を持っています。それは人間にとって最も美しいもの。でも逆に人間を最も縛り他者に不寛容にさせるものでもあります。
聖域に反する他者を排除しても仕方ありません。排除はいつもブーメランです。
月並みな言葉ですが、多様な価値観、多様な「聖域」を受け入れ「アウフヘーベン」していきたいものですね!
※おことわり
本記事は天文リフレクションズ編集部が独自の責任と判断で作成したものであり、ALE社とは執筆時11/13現在、一切の接触および利害関係はございません。