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「座間9遺体事件」マスコミはまだ凶悪犯罪をアニメのせいにする気か

にわか専門家のデタラメが野放しに

事件から2週間が経って…

座間事件発覚から2週間が過ぎたいま、被害者の身元がすべて明らかになった。そして、それまで「女性8人、男性1人」と普通名詞でしか報じられることのなかった被害者が、固有名詞に変わった。

当然のことではあるが、被害者1人ひとりには、名前があり、顔があって、家族や友人がいて、仕事をしたり、学校に通ったりしており、それぞれの人生を歩んでいたことが、具体的に伝えられた。

あらためてこの事件が、かけがえのない人々の人生を無残にも断ち切った憎むべきものであることが、リアルに胸に迫ってくる。

一方、容疑者は依然として、事件の核心については供述をしていないようである。また、一見自分に不利だと思われることをペラペラと話したかと思うと、前言を翻したり、「よく覚えていない」とあいまいな供述に終始したりしている。

しかし、われわれが事件のさまざまな情報を得るのは、メディアを通してである。この事件は前代未聞の特異な事件であるゆえに、メディアが事件をどう扱い、どう伝えているかということもまた、われわれは注視すべきであろう。

 

著名人たちの失言・暴言の数々

自民党政調会長代理の山本一太議員が、出演したテレビ番組で、座間事件に対して、次のように発言した。

「最近はこうした猟奇的なストーリーのアニメ等々もありますから、そうしたものに影響を受けている感じがしますよね。ネットで規制するというのは大変ですが、こうした人たちの行動を監視して、こういう犯罪を未然に防ぐ方法があるのか、なかなか難しいけれど、真剣に考えないといけないと思います」

この発言は、大きな批判を受け、直後に本人は全面的に非を認め、謝罪した。

さらに、その後の報道で、容疑者はアニメファンだということが報道されたが、だからといって、アニメの影響かどうかは、わからない。立場のある人が、アニメの影響を直観や印象で語るのは、やはり軽率だと言わざるをえない。

それより前、別の番組では、あるタレントが、「こういう猟奇的殺人は、引きこもっているような人がやるのだったらわかるが、売春斡旋のようなことをする人がやるのはなかなかないケースだと思った」という趣旨の発言をし、これまた大きな批判を集めた。

私も事件の直後には、いくつかの番組に出演したが、その中でも批判の的になるような発言があった。

例えば、ある番組では、コメンテーターのタレントが「両親が離婚し、裏切られた気持ちを抱いたことが事件につながったのではないか」と発言した。

それに対して、別の出演者が「私も両親が離婚しているが、離婚が原因で子どもが変なふうに育ったと言われるのはつらい。家庭環境だけが原因ではない」という趣旨の発言をした。

その発言を受ける形で、私は、「離婚や家庭の事情のせいにするには、この事件は質が違いすぎる。個々のケースをきちんと分析すべきで、親が離婚したとしても、頑張っている人はたくさんいる」と述べた。

また、別の番組では、ある演歌歌手が「こんなやつの心理状態を考える必要はない。そういうことを考えずに、やることをちゃんとやってもらいたい」と述べ、さらに「どういう理由があるにしろ殺してるわけで、容疑もなにも、全部やってるわけだから、間違いないでしょう」とまくしたてた。これら一連の発言に対してもネット上では、相当な批判が寄せられた。

この誰が聞いても呆れる暴論に対し、いちいち反論するのも馬鹿らしく、私はスルーを決め込んだが、横にいた別の専門家はすかさず「背景をきちんと分析しなければ、事件の解明はできないし、対策にもつながらない」と反論し、アナウンサーも「容疑はまだ死体遺棄です」と釘を刺したのを見て、責任感あるその態度に感心した。