現場の頑張りが日本経済の強さの秘訣、そんな「神話」が揺らいでいる。鉄壁のプロジェクトマネジメントを誇った日揮がプラント建設に手を焼き、IHIはモノ作りの基本である溶接でつまづいた。背景には何があるのか、人材マネジメント論が専門の学習院大学の守島基博教授に話を聞いた。
様々な大型プロジェクトが「失敗」する背景には何があるとお考えでしょうか。日本企業の現場に異変が生じているとの見方もあります。
守島基博教授(以下、守島):問題には「相対的」な面と「絶対的」な面があります。
まず相対的な面でいえば、現在の競争環境において、プロジェクトの規模や複雑性が大きくなり、納期やコストの要求が厳しくなっています。つまりは経営からのプレッシャーが過去と比べて高まっている中で、日本企業の現場管理の手法が付いていけていないのが一因でしょう。
日本の現場力が強かった時代は高度成長期です。現在に比べれば、という条件付きですが、比較的余裕のある状態でプロジェクトが動いていたと思います。もちろん納期はありましたが、極端な話、それに間に合わなくても、何とかなった時代ではあります。
三菱重工業が挑んでいる国産旅客機「MRJ」の開発など、日本企業が現在直面しているプロジェクトでは、グローバル化を背景に納期や品質管理などの条件が複雑化・高度化しています。つまり環境変化が激しくなり、それに対応できていない、というのが相対的な面です。
絶対的な面というのは、日本企業の人材育成力の低下です。現場の人たちが仕事のやり方を学び、実際のビジネスを展開していく力が低くなってきたといえます。企業内の様々な事情によって起こっています。
相対的な面と、絶対的な面によって、日本企業のプロジェクト遂行力が低下しているというわけですか。
守島:もう少し細かく説明しますと、日本企業の強さは現場への権限委譲によって成り立ってきました。悪く言えば「現場任せ」です。これまでは自立的な現場が人を育て、最終的に成果を出してきましたが、その現場の力がどんどん落ちています。
現場への権限委譲は美しい言葉ですが、それは現場がしっかりしている、うまく回っているときに効果を発揮します。そうでないときに権限委譲すると、混乱が避けられません。記憶に新しい神戸製鋼所や日産自動車などで発生した品質問題も、結局は経営側が現場に依存しすぎていることの表れです。余裕がない中で、現場が勝手に対応してしまいました。逆説的ですが、「現場は正しい」という日本企業にありがちな前提に基づいて起こったといえます。
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