田中秀臣(上武大学ビジネス情報学部教授)

 間もなく特別国会の審議が本格化するが、野党は相変わらず森友学園・加計学園問題を追及する構えである。最近、加計学園の獣医学部新設を認めるように、文部科学省の大学設置・学校法人審議会(設置審)が答申を行ったことで話題が再燃している。

 筆者は、両学園をめぐる一連の「疑惑」には事実に基づくものではない、という立場である。マスコミの一連の報道も「疑惑」だけをあおるものが多いという印象を強く持っている。両方の学園の問題については前々回に総論的なものを書いた。今回はそのとき触れていないいくつかの問題について簡単に書いてみたい。

2017年11月、岡山市内で講演する文科省の前川喜平前事務次官
 まず「前川喜平問題」がある。朝日新聞の加工された画像で有名になった、文科省から流出した文書に関連して、前川喜平前文科事務次官が批判する、「総理のご意向」が国家戦略特区諮問会議で審査されていた加計学園について「行政をゆがめた」、というおなじみの問題である。

 「総理のご意向」文書自体に証拠となる信憑(しんぴょう)性が乏しいのは、国会での質疑などを通じて明らかになっている。つまり文科省の内部文書であるとマスコミが喧伝(けんでん)していたものは、単なる職員の裏取りなしのメモであった。また萩生田光一官房副長官(当時)、和泉洋人首相補佐官らが前川氏に「圧力」をかけたという点も、当の前川氏の証言以外になにも裏付けが取れていない。安倍政権を批判する人たちや、「疑惑」に事実と論理もなくこだわり続ける人たちは、いまだにこの前川氏の発言を重視している。

 そもそもこの「総理のご意向」というのはなんだったのか。もし単に規制緩和のスピードを速めるように、諮問会議などで発言していたことを指すのならば当たり前である。国家戦略特区諮問会議は、規制緩和が必要な分野についてそのスピードと確実性をあげる制度だからだ。もし反対に、特定分野だけは規制緩和のスピードを手加減すべきだといったのなら、それのほうが大問題である。

 ここで出てくるのが、加計学園の加計孝太郎理事長は安倍晋三首相の刎頸(ふんけい)の友だからだ、という「疑惑」である。友達ならば便宜を図って当然という意見だが、その種の意見がまったく規制緩和の議論において意味をなさないことは前々回に丁寧に書いたのでそれを読んでほしい。

 規制緩和は特定の人間や組織に利益を与え続ける枠組みではない。それこそ獣医学部を申請することは複数校で認めたいというのが、特区会議のスタンスである。前川氏の発言は、あたかも「総理のご意向」で加計学園にのみ便宜が図られて、その結果「1校だけに限る」という結果になったというシナリオに組み込まれて、マスコミなどで宣伝されている。しかし、「1校に限る」動きは、日本獣医師会が安倍首相以外の政治家に働きかけた結果であることは、当の日本獣医師会側も認めているところである。前川氏が本当に「正義の人」ならば、「総理のご意向」で加計学園1校に絞られたわけではないことを認めるべきだろう。