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フェイクニュース 作られ方 ブログ管理人が内幕語る

神奈川県座間市の事件の容疑者名と「父親」で検索するとトレンドブログの記事が多く出てくる=11月13日のグーグル検索結果から引用

 神奈川県座間市で9人の遺体が見つかった事件で、話題性の高い情報を載せているトレンドブログに「父親も共犯?」など事実無根の見出しや投稿を載せた管理人が、匿名を条件に毎日新聞の取材に応じた。動機を「収益目的と世間のニュースやその裏を追いたい気持ち」と説明。ブログは個人で運営し、収入は多い月で10万円台後半になるという。「フェイクニュース」生成の現場を追った。【大村健一/統合デジタル取材センター】

閲覧増やすため見出し過激に

 トレンドブログは、事件や芸能人のスキャンダルなど注目の話題を取り上げ、クリック数などに応じて報酬が支払われるネット広告(アフィリエイト広告)を収益源とすることが多い。個人運営だけでなく記者を集めて組織的に運営するものもある。

 座間市の事件を取り上げたトレンドブログは、容疑者名などをグーグル検索すると目立つ場所に多数登場する。投稿の多くは根拠のない臆測やソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のうわさが混ざり、過激な見出しで人権侵害の恐れがある内容も多い。記者は座間市の事件を扱うブログの管理人15人に電子メールで質問書を送付。そのうち1人にメールのやり取りで取材した。

 この管理人は自身を「近畿地方の30代男性」とし、始めたきっかけについて「ネットでできる副業を探している時に見つけた」と答えた。ブログでは「動機は臓器売買?」「犯人は複数人?」など根拠のない内容を多数掲載。断定は避けつつ、ところどころに「犯人が複数人ということで、臓器売買ビジネスが目的ということが浮かび上がる」など論理の飛躍した文章を挿入していた。

 「父親も共犯?」という見出しの問題点を指摘すると、管理人は「検索エンジンから人にアクセスしてもらいたく、クリックしてもらえるようなタイトルをつけることを意識している」「『父親も共犯!』と断言せず、疑問符(?)をつけ事実ではない可能性が大いにあることを示唆しているつもりだ」「投稿内で『父親が共犯などあり得ない』旨の情報を伝えている」などと釈明した。その一方で「今後このような関係者への事実無根のバッシングをあおりかねない表現は慎みます」として、投稿を削除した。だが、伝聞で得たという事件関係者のプライバシーを暴く投稿を他にも多数載せており、削除しないままブログの運営を続けている。

後ろめたさを告白

 「近畿地方の」この管理人のブログはマスコミのニュースサイトのような体裁だが、当局や関係者に取材した形跡はない。投稿はマスコミ報道で都合のよい部分をつまみ、つなぎ合わせた印象だ。

 座間市9遺体以外の事件についても取り上げ、今も多いときには1日に数本を投稿。加害者のプライベートを探る内容が多い。匿名報道を原則とする少年事件で「少年の名前や顔写真は?」という見出しを掲げて読者の関心を引き、投稿で「未成年なので報道されていない」とするような「釣り記事」もある。

 昨年の「保育園落ちた日本死ね」のように政治や世論を動かし、社会問題について優れた分析や見方を堂々と発信する個人ブログは多数ある。一方、管理人は取材のやり取りで「サイト名は伏せてほしい」「サイトが特定されるような文言も控えてほしい」と何度も念押しする。自分の編集や発信に誇りを持っていないのかと疑問に思い、「運営に当たって後ろめたさのようなものはあるのか」と記者が質問すると次のような釈明があった。

 「報じられていない情報をSNSなどで見つけ、いち早く記事にできた時は、検索ユーザーの需要に応えられた気がして、うれしくはあります。しかし、他人に『こういうブログをやっている』と胸を張って言えないことは確かです」

 実際、臆測やうわさに基づく投稿で実害も出ている。東名高速道路で6月、ワゴン車が大型トラックに追突されて夫婦が死亡し、男が危険運転致死傷罪などで起訴された事件で、男の勤め先としてネット上で名前が挙がった無関係な会社に抗議が殺到した。

 この騒動について「近畿地方の30代男性」の管理人は取材に「私と似たようなサイト」がかかわっていたと言及。「根拠に乏しい情報でバッシングをあおりかねないと言われても仕方がない」と、ブログの問題点を認めた。

 それでもなお、こう釈明する。「ブログは続けていきたい。収益目的もあるし、何より事件や芸能の裏を追うのは楽しい。どうか私のブログや類似のブログの運営を妨げるような記事は控えるようお願いします」。人権侵害の恐れはあっても「趣味と実益」は手放せないようだ。

「ネットの意見まとめただけ」

 このほか、四つのブログの管理人が毎日新聞の質問に回答した。いずれも、座間市の事件で父親を共犯者と誤解させるような投稿を掲載していた。これについて「テレビ等で共犯を強く疑わせる内容が報道されている。あくまでライターの個人的意見」「個人的な解釈で感想を書いた」「ネット上の意見をまとめ、紹介しただけ」などと釈明したが、取材後に4ブログ全てが投稿を削除した。

 著作権法は出典を明示して報道記事や著作物を引用することを認めるが、投稿の大半を引用で構成することは許されない。トレンドブログは引用の割合が大きい上、新聞社やテレビ局の画像を無断で掲載し、出所を明示しない事例が多い。管理人の一人は「出典を付け忘れた」と弁明した。彼らはブログの目的について「30代男性」と同様に「あくまでも趣味」「事件に興味を持ったためで他の目的はない」などとした。

広告サービスと検索エンジン後押し?

 フェイクニュースをまき散らすトレンドブログが後を絶たないのはなぜか。

 広告収入という「実益」をもたらすサービスが後押ししている可能性がある。「近畿地方の30代男性」の利用するサービスの一つがグーグルの「アドセンス」だ。管理人がグーグルに申請しブログ内容の審査に通れば広告がつき、クリック数に応じて金が入る。申請は無料で、汗をかいて広告主を探す必要はない。

 グーグルは自社のサイト上でアドセンスの審査について、著作権を侵害したり不正行為を助長したりするのは違反とうたう。だが、著作権やプライバシーの侵害が疑われるトレンドブログが審査を多数通過しており、基準は不透明だ。

 それ以上に問題なのは、事実無根の情報を含んだトレンドブログが、グーグル検索で上位を占めていることだ。検索にかからなければ存在しないも同然。逆に検索上位なら人々を引きつけ、広告収入が転がり込む。座間市の事件では、容疑者について「実家や父親など家族情報!」とする投稿には約99万ページビューと表示されている。

 検索エンジンで圧倒的なシェアを誇るグーグルは、検索の詳しい仕組みを明かしていない。このため、投稿やページを上位に表示させる「検索エンジン最適化(SEO)」の手法が研究され、それを指南する専門の会社もある。

検索上位に並ぶのはなぜ?

 大手企業のSEOを請け負う辻正浩さん(43)はトレンドブログについて「IT大手DeNAの医療情報サイト『WELQ(ウェルク)』の問題と類似する」と指摘する。ウェルクは著作権侵害や真偽が疑われる記事を多数配信し、昨年11月に閉鎖された。記事はSEOが徹底され、グーグルの仕組みを予測して検索の上位に入っていた。グーグル側は質の低い記事やページが上位に入らないための工夫を進めている。

 辻さんは、座間市の事件についてこう分析する。容疑者逮捕直後のマスコミ報道は短文の速報が中心だった。一方、トレンドブログは勝手な推測やSNSのうわさをまとめ、容疑者名も組み込んだ長文の投稿を素早く掲載。途中に張られた過激な見出しの関連リンクに読者が釣られ、サイト内を「回遊」して滞在時間が長くなる。それを検索エンジン側が「利用者が満足した」とカウントし、検索結果に影響しているのではないか--。

 うわさや臆測に基づくトレンドブログについて、辻さんは「インターネット全体の信頼性を落とすうえ、個人が良い情報を発信しても検索されづらくなる。現状は明らかに問題がある」と警告する。

 グーグルは毎日新聞の取材に「検索結果はアルゴリズムにより生成され、個別の検索結果が表示される理由は答えられない。ウェブサイトに掲載されている内容を確認して掲載・非掲載を決めれば、オープンであるべきウェブにおいて検閲を許すことになりかねない。検索エンジンは常に改善の余地があり、完ぺきではない。信頼してお使いいただくために日々アルゴリズムの改善を行っている」とコメントした。

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