百田尚樹さんといえば、ベストセラーの小説家なのにマスコミでは相当叩かれている人、というイメージがあります。
色々な業界のことを鋭く、容赦無く暴いているので、敵を作ってしまうのかもしれません。
でも、難しいこと抜きにしても、色々な世界観の小説にいつも引き込まれてしまいます。
今回は面白くも、背中がすっと寒く感じた小説を紹介がてら感想を書こうと思います。
ネタバレありです。
モンスター
とんでもなく醜く生まれついた和子。
その外見から、周囲からずっと虐げられていた和子は、一度は捨てた故郷に、ある時帰ってくる。
その理由は、初恋の相手英介に会うこと。
ただ、和子の姿は醜くかった昔の姿とは似ても似つかない、絶世の美女「美帆」となっていたのだ。
手段を選ばずお金を貯め、整形手術にのめり込んでいく和子の執念がすごい。
目、鼻・・・顔だけではなく、体のありとあらゆる場所を整形していくさまは、もはや「整形」というより「改造」です。
整形のやり方などがすごく詳細で、なんだか自分が説明されている気になりました。
整形手術で印象的なのは目だけど、本当に大変なのは顎や口内なんだなと知りましたね・・・。
この本を読んで思い出したのは、昔放送していた「ビューティーコロシアム」という番組です。
容姿のコンプレックスを抱えた女性が出てきて、今までの人生がいかに(容姿のせいで)悲惨だったかを振り返り、整形ドクターやヘアスタイリストなどと変身させていくという内容。
もちろん番組の演出もありますが、 表情も暗くオドオドしていた女性が、整形やダイエットなどを終えてステージに現れた時、顔も普通を通り越して美人になっているのですが、表情まで変わっているんですよね!
この本の中で、整形を繰り返す主人公に、職場の上司が「親からもらった体に傷をつけるのは良くないよ」と諭す場面があるのですが、「あなたのために整形しているんじゃない」と一蹴する和子。
しかし、整形を繰り返して美しくなっていった和子に「今の方がずっといいよ」と顔を赤くしながら言うところは、いい加減な世間の意見を象徴しているようでした。
和子(美帆)の美への恐ろしいまでの執着を読むと、自分がすごく怠けている気持ちになり、何だか整形したい気持ちにもなっていきます(今更だけど)。
和子はどんどん美しくなり、お金も恋人も思うままの生活だったのに、本当に欲しかったのは初恋の相手、英介の心。
でも、英介は・・・。
和子の前に、本当の愛情を持っている人も現れたのに、そしてそれをわかっていながら、そうでない相手を選んでしまう。
和子は自分の表面だけを見て夢中になってくる相手を冷静に分析しているのに、結局自分も初恋の相手に幻想を抱いてしまっていた。
和子がどんどん美しくなり、周りを見返すところはすごく気持ちがいいのですが、結局和子が容姿を変えたようには別人になりきれなくて、ただ一人の気持ちを欲しがったのには、しんみりしてしまいました。
大事なのは中身・・・でも、それは開けてみなければわからない。
夢を売る男
出版界の不況が深刻になる一方で、本を出したい人間はどんどん増えて行く。
出版社の丸栄社はそこに目をつけ、本を売って利益を上げるのではなく、本を出したい人から出版するための費用を徴収することで利益を上げていた。
でもそれにはコツがあって・・・。
実際この話のモデルになった出版業界の「自費出版商法」が一時期大いに流行り、社会問題化したそうです。
本来の目的(消費者に提供すること)で利益を得るだけでなく、養成所・学校の運営や免許を交付することなど(やりたい側から)で大半の利益を得ている業界も・・・。
もちろん正当なものもたくさんあるのですが、最近は「え、こんなものまで学校や資格があるの?」と思うものも多数。
ここに出てくる「自費出版業界商法」の場合、最初から「自費出版しませんか?」と言うのではなく、用意した賞に応募してきた人間の自尊心をくすぐりながら、自費出版とわからせないようにお金を出させるという・・・!
敏腕編集者である牛河原の、作家希望者への対応がすごい。
自分がひどいと思っている作品ですら、うまーく褒めて作者をその気にさせます。
そしてこの本の中で、新たに高額な自費出版のカモになりそうな人物のリストを作っているのですが、それがなんとブロガー!
そしてそのターゲットになったのが、ブログで書評を書いている主婦(笑)でした!
ブログでも、たくさんアクセスのあるブログや、職としてのブログ、自分が書きたいものより、誰かの役にたつ情報を書いているブログは違うのでしょうが・・・。
見ている人もそんなにいないのに、(イラストつきの書評なんか)書いている私みたいなのが一番カモになるとか。
うわっ、寒・・・!
でも思わず書いてしまいました。
私にも「(自費)出版しませんか?」という連絡があったら気をつけよう・・・。
カエルの楽園
タイトルだけ見るとおとぎ話みたいですが、中身は完全に日本と周囲を取り巻く国際情勢を表したお話です。
凶悪なダルマガエルに国を追われたソクラテスとロベルトは、平和に暮らせる地を見つけるため旅します。
そしてたどりついた、優しいツチガエルの住むナパージュという国。
その国は、「カエルを信じろ」「カエルと争うな」「争う力を持つな」という三戒があり、皆それを守ることで平和が保たれていると思い、固く守っています。
そして優しく平和を愛するツチガエルも昔は残虐な国民で、その戒めの心を持つために、何かと言うと「謝りソング」という歌を歌っているのです。
でも、誰に謝っているのかわからないのです。
ツチガエルたちは「三戒」があるために平和が保たれていたと思っていたのですが、実はタカがそばにいて防衛していたのも大きな影響力があったことを、タカが去って行ってから気がつくのです。
どんどん侵略してくる巨大なウシガエルたちを見て「ただ崖を登ってきただけでは?」「彼らは危害を与えない、明日にはいなくなっているはず」・・・と現実を見ないツチガエルたち。
絶対に戦わない!と、断固として三戒を変えることを拒否した結果、ナパージュは・・・。
この後は読んでみてください。
ただ、想像通りの結果になると思います。
日本人の心にしっかり染み付いた「戦うことは悪」という概念。
ですがその理屈が全く通じない近隣の国に対して、どういう対応をしていけばいいのか。
現実的な「防衛」ということを今考えないと、この先老いていくばかりのこの国は大変なことになるかも・・・。
おとぎ話風にすることで、今の日本の状況がどんなにか危ういものなのかがかえって理解できました。
ちなみに百田さんらしい「ハンドレッド」というカエルも出てきます。
3作とも読み始めたら引き込まれて一気に読み終えたのですが、面白いと同時に色々な意味で背筋が寒くなりました。
いや〜怖い。
・・・でも面白い。