関連データ・研究者

推定分野 関連度TOP5

哲学文学言語学文化・地理学歴史学人類・考古学教育学社会学経営学政治・経済学法学心理学基礎医学臨床系内科学臨床系外科学看護・健康科学薬学歯学生物学農学環境学畜産・獣医学水産学スポーツ科学数理科学物理学化学地球惑星科学宇宙科学情報学総合工学機械工学材料工学建築・土木工学人間工学電気電子工学人文科学社会科学医歯薬学生命科学理学工学推定分野

推定分野について  

関連研究者

関連研究者

京都大学 農学研究科 特別研究員(DC2) - 2014年度
推定分野

<本研究成果のポイント>

  • 日本から侵入したオオハリアリが北米の森林で在来のアリを駆逐しつつある。
  • オオハリアリは原産地の日本ではシロアリ専門食だが、北米では小型無脊椎動物を広く捕食するジェネラリスト捕食者に変化していることが判明した。
  • 外来種が蔓延する仕組みとして、侵略地における餌メニューの変化の重要性を実証した。
  • 餌メニューの変化は、過去の核実験が大気中に放出した放射性炭素同位体に注目することで明らかにされた。


<概要>

辻瑞樹 琉球大学教授(ペンネーム辻 和希)、松浦健二 京都大学大学院農学研究科教授、末廣亘 同博士後期課程学生、兵藤不二夫 岡山大学准教授、ロブ・ダン ノースカロライナ州立大学教授、エドワード・バーゴ テキサス A&M 大学教授らの日米共同研究グループは、日本から米国に侵入したオオハリアリの食性が侵入地で変化し、他のアリを追いやって分布を拡大していることを日米両国での野外調査と放射性炭素分析による食物年代測定から明らかにしました。今回の研究成果は、外来種の生態が原産地と侵入地で変化することにより、原産地の状況からは予測できない大きなインパクトを侵入地の生態系に与え得ることを示しており、さまざまな外来生物の問題に取り組む上でもきわめて重要な意味をもちます。本研究は辻 瑞樹が代表者をつとめた2つの科研費(「外来アリの侵略機構の一般的解明:日本からの侵入者に焦点を当て」「日本由来侵略的外来アリに注目した侵略機構の研究」)の中心的研究成果です。


本研究成果は、2017 年 11 月 3 日 10 時(英国夏時間)に、英国の科学雑誌「Scientific Reports」にてオンライン掲載されました。


研究者からのコメント

今年はヒアリの国内侵入のニュースが世の中を騒がせましたが、逆に日本から海外に侵出して問題になっているアリがいることをご存じでしょうか。本研究は、日本のオオハリアリが米国に侵入して在来アリ種を追いやりながら分布を拡大している背景に、餌メニューの拡大があることを突き止めました。原産地の日本で主にシロアリを捕食しているオオハリアリが、侵入先の米国ではシロアリだけでなく、土壌節足動物や植食性昆虫なども幅広く捕食していることが示されました。


人の物流に乗って知らぬ間にたくさんの生物が海を越えて往来しています。なぜ、ある種は侵略的外来種となって猛威をふるい、またある種は定着できずに消えていくのか。その本質的な問いに答えるためには、原産地と侵入地の研究者が密に連携し、地道な研究を積み上げていくことが不可欠だと実感しています。


背景

人間の活動によって、意図的あるいは非意図的に、多くの生物が本来の生息場所ではない場所に持ち込まれ、在来の生物に悪影響を及ぼすことが大きな問題となっています。この外来種問題は、種の絶滅を引き起こす重要な要因の一つとして知られています。特にアルゼンチンアリやヒアリをはじめとする外来アリは侵入地で爆発的に増殖し、さまざまな在来生物に壊滅的な影響を与えており、大きな問題となっています。しかし、どんなアリでも侵入先で定着し、広まることができるわけではありません。では、どのような特徴をもっているアリが、侵略的外来種になりやすいのでしょうか。近年注目されている特徴の一つが、食性の柔軟性です。一つの餌しか利用できない種は、侵入先でその餌を巡る在来種との競争が激しい場合には定着が容易ではありません。しかし、さまざまな餌を利用でき、侵入先でより利用しやすい餌メニューに変えることができれば、有利に繁殖できると考えられます。


日本でシロアリの捕食者として知られるオオハリアリ Brachyponera chinensisは森の朽ち木の中などに巣を作ります。オオハリアリは頻繁にシロアリの営巣木に同居し、その毒針でシロアリをハンティングしながら生活しています。ヒアリ同様に毒針で人を刺してときにアレルギーを起こさせます。そのオオハリアリが米国に侵入し、その分布を拡大しています。本研究では、まず、原産地の日本と侵入地の米国で朽ち木に営巣するシロアリとアリの採集調査を行い、オオハリアリの米国への侵入が在来種にどのような影響を与えているかを調べました。また、安定同位体分析と放射性炭素分析*によりオオハリアリの食性が原産地と侵入地で異なるかどうか調べました。



図1.ヤマトシロアリをハンティングするオオハリアリ(写真)。日米の各採集プロットにおける半径 10 メートル以内の朽ち木から採集されたオオハリアリの巣と他種のアリの巣の数。オオハリアリが多い場所ほど他のアリの巣は少なくなる。


研究手法・成果

まず、オオハリアリが元々生息している岡山県の 7 地点と、侵入地であり岡山県と気候の似通っている米国ノースカロライナ州の6地点で森林内の朽ち木のライントランセクト調査を行い、オオハリアリとその他のアリ、およびシロアリの生息状況を調べました。オオハリアリの巣の数は、原産地よりも侵入地の方が倍近く多くなっていました。興味深いことに、日米ともに、シロアリの捕食者であるオオハリアリが増えても、シロアリの巣の数が減ることはありませんでした。一方、オオハリアリの数が増えると、他のアリの巣は数を減らし、種数も減っていました。また、オオハリアリが他のアリの種数を減らす傾向は、日本よりも米国で強く認められました。つまり、侵入先の米国ではオオハリアリが他のアリを追いやりながら勢力を拡大していることが分かりました。


次に、原産地と侵入地のオオハリアリの食性が変化したかどうかを調べるため、炭素安定同位体比(δ13C)と窒素安定同位体比(δ15N)を調べました。餌生物から捕食者へ栄養段階が上がると生物体内のδ13C とδ15N が高くなることが知られています。δ13C とδ15N の値は日米ともに腐植、シロアリ、オオハリアリの順で高くなり、日米間で差はありませんでした。つまり、オオハリアリは米国に侵入後も原産地と同様に捕食者であり続けていることが分かりました。


炭素と窒素の安定同位体比分析では、栄養段階の変化を見ることはできますが、捕食者として何を食べているかという餌メニューの変化を見ることはできません。放射性炭素 14C の分析*を行うことによって、その生物体内の炭素が植物の光合成によって固定されてから、その生物に利用されるまでの時間、つまり「食物年代」を誤差1~2年の精度で正確に知ることができます。実際にシロアリは木材を食べるので、数十年前に植物によって固定された炭素を利用しており、古い食物年代を示しました。そのシロアリの捕食者であるオオハリアリも古い食物年代を示しました。しかし、大変興味深いことに、米国のオオハリアリは日本のオオハリアリよりもずっと新しい食物年代を示しました。これらの結果から、米国に侵入したオオハリアリは、元々の餌であるシロアリを利用し続けているものの、その他の植食性昆虫やリター食(落葉落枝を餌とする)の節足動物など食物年代の新しい餌も利用するように食性幅を拡大していることが分かりました。



図2.日米のオオハリアリとシロアリの放射性炭素(14C)分析による食物年代比較(左)、および炭素安定同位体比(δ13C)分析と窒素安定同位体比(δ15N)分析による栄養段階の比較(右)。オオハリアリの栄養段階は変わらないが、食物年代は米国で日本よりも新しくなっている。つまり、シロアリ以外の新しい食物年代をもつ節足動物も捕食するように食性幅を拡大している。


オオハリアリが侵入するまで、米国にはシロアリ食のアリがいませんでした。オオハリアリは競争者が少なく、豊富で安定した餌資源であるシロアリを利用することで、米国の森林内に定着し、その分布を拡大し続けています。また、オオハリアリはハンティングのための強力な毒針を有しており、他種のアリとの闘争にも有利だと考えられます。オオハリアリはシロアリを主要な餌として利用しつつ、それ以外の植食性昆虫やリター食節足動物にも食性幅を拡大させることで、在来アリとの資源利用を巡る競合が生じ、結果として闘争に有利なオオハリアリが在来アリを追いやっていると考えられます。


波及効果と今後の展望

今回の研究成果は、放射性炭素分析によってオオハリアリの食性が侵入先で変化したことを明らかにしました。そして、その食性幅の拡大が、さまざまな在来アリにも影響を及ぼし、在来種の種数を減らしていることも分かりました。これらの結果は、外来種の生態が原産地と侵入地で変化することにより、原産地の状況からは予測できない大きなインパクトを侵入地の生態系に与え得ることを示しています。つまり、競争者の少ない安定した餌資源が存在したことに加えて、食性の柔軟性をもっていたことが、外来種の定着と分布拡大を加速させることが示唆されました。


現在外来種として大問題になっている生物の多くは、元々、栽培品種として、ペットとして、有害生物の天敵としてなど、意図的に「良かれと思って」導入されたものです。いずれも在来生物や環境に大した影響を及ぼすことはないだろうという根拠のない楽観が引き起こした悲劇です。本研究は、さらに「生物は侵入先で変化する」というきわめて重要な、しかし、見落とされやすい事実を明確に示しました。今後、あらゆる生物の輸出入や外来種問題を考える上で重要な知見を与えるものです。


<用語解説>

*放射性炭素分析による食物年代測定:

大気中の放射性炭素 14C の経年変動を利用して、生物体内の炭素が光合成によって固定されてからの時間を推定する方法。第二次世界大戦後の大気圏内の核実験により大気中に多量の 14C が放出され、1963 年にピークに達した後、徐々に減少している。この減少パターンから、生物体内の炭素がいつ光合成によって固定されたものか1~2年の誤差範囲で推定することができる。


<書誌情報>

[DOI]

10.1038/s41598-017-15105-1

論文タイトル:

Radiocarbon analysis reveals expanded diet breadth associates with the invasion of a predatory ant

著者:

Wataru Suehiro, Fujio Hyodo, Hiroshi O. Tanaka, Chihiro Himuro, Tomoyuki Yokoi, Shigeto Dobata, Benoit Guenard, Robert R. Dunn, Edward L. Vargo, Kazuki Tsuji, Kenji Matsuura*

*)責任著者

著者の所属機関

京都大学大学院農学研究科

ジャーナル名

Scientific Reports


研究期間 2011年度~2014年度 (H.23~H.26) 配分総額 19,630,000 円
代表者 辻瑞樹 琉球大学・農学部・教授
研究期間 2015年度~2019年度 (H.27~H.31) 配分総額 17,550,000 円
代表者 辻瑞樹 琉球大学 農学部 教授