ビクビクすること、クヨクヨすることをなくす「マインドタフネス」

クヨクヨしても仕方がないとわかっていてもクヨクヨしてしまう場合はどうすればいい?(写真:アフロ)

ビクビクするとは?

将来の具体的な出来事が不安で、心が落ち着かない状態を「ビクビクする」と表現します。

「明日はお客様の前で重要な商談だ。不安でしょうがない」

「仕事で大きなミスをした。明日の朝一番で部長に謝ろう」

高いところが嫌いな人はジェットコースターに乗る前、バンジージャンプをする直前に「ビクビクする」ことでしょう。とても不安になり、動悸が激しくなる感覚を覚えます。

まったくの初めてのことなら不安な気持ちに襲われるのは仕方がないと言えます。「来週から社会人になる。なんか怖い」「来週いよいよ出産予定日に入る。とても不安だ」……このように。

しかし、日ごろから繰り返し起こることに不安を覚えるようではストレスが溜まります。こんな自分を変えたい。もっと強くなりたいと誰もが思うことでしょう。

「昨日イベントに来たお客様50人に電話フォローする。慣れないけど何とかなるだろう」

「来週から新プロジェクトがスタートする。リーダーに任命された以上、責任もってやろう」

このように慣れないことでも怖がることなく、「がんばれば何とかなる」「たとえ失敗しても、それも経験だ」と思えたらいいのです。

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。これまで何年も事業目標を達成できていない組織に「最低でも目標達成」という風土に変えていく支援を行っています。しかし、意外に大変です。なぜなら、クライアント企業の皆さん「ビクビク」しているからです。「目標を絶対達成しよう!」と問い掛けると「ひえええ!」「そんなのムリ!」「簡単に言いますけど、うちの業界では難しいんですよ」などと激しく抵抗する人ばかりです。

まだコンサルティングがはじまる前から、ビクついて「いったい何がはじまるんですか?」「絶対達成コンサルティングなんて恐ろしい」「今の時代、ノルマを上から押し付けるような言い方はまずいと思います。若い人の心が離れていきますよ」……このように、いろいろな質問、意見をいただきます。

まだ具体的なことを何も説明していないのに、「絶対達成」というフレーズだけで不安を覚える人がたくさんいます。ほとんどが中堅以上のベテラン社員からです。意外にも若い社員のほうが堂々としていて、「確かに今のままではよくない。いつか組織を変えなくちゃいけないんなら早いほうがいい」などとドッシリと構えています。新しいやり方を受け入れようとするのです。

バンジージャンプやスカイダイビングならともかく、ビジネス上の慣れない出来事にいちいち「ビクビク」していたら必要以上の「ストレス負債」を貯めて疲れてしまいます。そしてあまりに「ストレス負債」を抱えていると「自己肯定感」が落ちていくのです。

※参考記事「自己肯定感」と「自己有用感」の違い、それぞれの高め方

クヨクヨするとは?

終わったことを何度も思い返しては、心が落ち着かない状態になることを「クヨクヨする」と言います。ほとんどの場合、今さら心を悩ませても意味がないことですから、周囲からは「もう終わったことじゃないか」「いつまでクヨクヨしてるんだ」「もっと未来に意識を向けていこう」と言われたりします。クヨクヨするのは、期待どおりにならなかった責任が自分にあると受け止めているからです。

ただ、あまりに大きな出来事なら、多少のクヨクヨは仕方がありません。5年付き合っていた彼女に自分の大人げない一言で別れることになった、悔やんでも悔やみきれない――というのであれば、しばらくはクヨクヨするでしょう。

9回裏ツーアウトまで勝っていたのに、自分のエラーで逆転サヨナラ負けをしてしまった。あの試合に勝っていたら優勝できた――という出来事があったのに、翌日からケロッとしていたらちょっとおかしいでしょう。

しかし、日常のちょっとしたことで、いちいちクヨクヨしていたら「ストレス負債」が蓄積していきます。そして何より、あまりにクヨクヨしていると、自己肯定感が落ちていきます。

「昨日のプレゼン、うまくいかなかった。どうしてあんな風に緊張してしまったんだ」「次のプレゼンもうまくいかないに違いない」「今度は上司に代わってもらおう。自分にはムリだ」

「今日の会議で発言したら部長に叱られた」「どうしてあんな発言をしたんだろう」「あんな発言をした自分をみんなはどう思っただろうか」「会議ではもう二度と発言したくない」「どうせ誰も自分に期待していないだろうし」

反省すべきことがあれば次に生かせばいいのですが、過去を引きずりすぎて、「自分には力がない」「周りに迷惑をかけるだけ」と「曲解」「誤解」が生じはじめ、「自己肯定感」も「自己効力感」も落としていきます。

「ビクビクする」を減らすために

多少「ビクビクする」のは仕方がないにしても、あまりに多い場合は対策が必要です。先天的に「鈍感」な人ならともかく、通常の感覚の持ち主なら、正しい知識とトレーニングをすれば可能です。

まずビクビクする対象を特定します。たとえば「来週のプレゼン」「上司のプレゼン」「1日20件のテレアポ」……などと。特定したら、その出来事の詳細を書き出していきます。たとえば「お客様に対する重要なプレゼン」というのであれば、「プレゼンの中身」「参加者」「場所」「時間」を詳しく、です。

プレゼンの中身を正しく準備していないのなら不安を覚えて当然。単なる準備不足です。ビクビクする前にしっかり練習しましょう。誰が参加するのかを知らないというのも話になりません。お客様側はどんな人が何人参加するのか、それぞれの役職は? 過去プレゼンでどのようなポイントを評価したのか、調べれば判明することがあれば徹底的に調べます。

場所も大事です。お客様先はどこなのか。行ったこともない場所なら、行く経路も調べます。オフィスは何階にあり、どれぐらいの広さで、どのような配置でプレゼンをするのか。細かいディテールまでイメージできるか、です。

一番大事なことは「時間」の要素。何時から何時までプレゼンをするのか。朝10時から15分間なのか。昼の2時から30分プレゼンして10分間の質疑応答の時間があるのか。正しく頭に入れます。

未来の出来事に不安を覚えている人に限って、不安が漠然としすぎているのです。プレゼンで一番わからないことは相手の「反応」です。これはどうしようもないほど漠然としています。しかし、事前に調べたら手に入りそうな情報は徹底的に調べます。お客先への行き方でさえイメージできるようにしておくことで、漠然とした不安は減っていきます。

「わからないこと」をどれだけ減らすか、にかかっています。これが「ビクビク」しなくなる秘訣です。

「クヨクヨする」を減らすために

自分の責任で失敗したことをクヨクヨするのは普通の感覚です。健全な心を持っている証拠。しかし、たいした出来事でもないのに【1分以上】クヨクヨするのはやめましょう。

私は「ああ、なんてバカなことをしたんだ。穴があったら入りたい。恥ずかしい。申し訳ない。自分に失望する」と思うことがあっても、1分以上はクヨクヨしません。気持ちを切り替えて、今後はこういうことがないように正しく反省し、次に生かそうと捉えします。

「クヨクヨ」という心の状態だと、頭を働かせる力が弱まっています。これでは正しく自己分析ができません。次にも生かせないのです。

「ビクビク」とは反対に、「クヨクヨ」しないためには、起こってしまった過去を詳しく調べないこと。細かいディテールを反芻しては、「あああ、なぜあんなことをしてしまったんだ」と頭を抱えてしまう人がいますが、やめましょう。

起こった事実は忘れなくてもいいですが、どの時間に、どんな場所で、誰がそこにいて、その出来事は起こったのか……そんなことを詳しく思い返さないことです。

「今・ここ・自分」に意識を集中して、過去の出来事を漠然とした記憶に書き換えましょう。不鮮明にさせることが重要です。

過去やってしまったことが漠然としてくれば、大事なポイントを客観的に抜き出すことができます。自分がやらかしてしまったことを他人事のように客観視し、分析すれば正しく反省できます。気持ちを切り替え、次に生かすことができます。

ビクビクするときは、未来の出来事を可能な限り鮮明なイメージとして捉えられるまで徹底的に調べる。反対にクヨクヨするときは、過去の出来事を可能な限り不鮮明に入して「今・ここ・自分」に意識を集中する。

こうすることでタフなマインド――「マインドタフネス」が手に入ります。ぜひ実践してみてください。