もちろん焼き芋は焼いた芋でスイートポテトはお菓子で全く違うものなんですけれども、あらためて違うものであるということや役割の違いを分かっておきたいなと思って。
いまスイートポテトについて語ろうか
ここ数年、焼き芋機で上手に焼いた焼き芋を売るスーパーが増えている。労せず手軽においしい焼き芋が食べられるようになった。
紅はるかやシルクスイートのようなねっとり甘い品種の芋が気軽に手に入るようにもなっている。なんとありがたい時代だろう。 そんな甘くておいしい焼き芋を食べるごとについ「あー、もうこれスイートポテトいらないな~」と声にまで出していってしまう。 もちろん焼き芋とスイートポテトは違うものだということは分かっているが、承知の上でなおそう思うのだ。 いま改めて、スイートポテトを食べ見直してみたい。
1979年東京生まれ、神奈川、埼玉育ち、東京在住。Web制作をしたり小さなバーで主に生ビールを出したりしていたが、流れ流れてニフティ株式会社へ入社。趣味はEDMと先物取引。
前の記事:「エンジニアがいらないものを持ち寄ったら懐かしいだけじゃなかった」 人気記事:「決めようぜ最高のプログラム言語を綱引きで」 > 個人サイト まばたきをする体 Twitter @eatmorecakes 焼き芋2品種とスイートポテト5品を食べた用意したのは焼き芋を2品種とスイートポテトは5品。
焼き芋は、輪切りにしただけのものに、スイートポテトの仕上げである「卵黄を塗って焼く」を施したものを作って見た目はスイートポテトのようにした。同じ土俵で食べ比べてみたい。 ねっとり甘い品種の「紅はるか」と関東ではおなじみ「なると金時」
ホイルにまいて160度のオーブンで60分焼いたよ
切って、卵黄を塗り
焼き目をつける。おお、スイートポテトっぽい
スイートポテトは専門店である「らぽっぽ」と「松蔵」、スイートポテトが有名な洋菓子店「シェ・リュイ」から1品づつ(後半でセブンイレブンのものも2品追加した)
そして試食する人間サイドは、デイリーポータルZの芋担当者(好きというだけです)3名が集まった。
左からべつやく、筆者古賀、石川
芋への思いの熱い3名がそろったのでここからは対談形式でお伝えしていこう。
焼き芋とスイートポテトの違いをわかっておきたい
焼き芋っていまやもうすごく甘いじゃないですか。だから食べるたびに「スイートポテトはいらない」って思ってしまうんです。
もちろん焼き芋は焼いた芋でスイートポテトはお菓子で全く違うものなんですけれども、あらためて違うものであるということや役割の違いを分かっておきたいなと思って。
すみません、スイートポテトってどういうお菓子なんでしたっけ。原料は。
やわらかくしてつぶしたサツマイモに砂糖とあと生クリームとバターとバニラエッセンスを混ぜて成型して卵黄を塗って焼くのが一般的なレシピかな。
じゃあバターと砂糖と生クリームを引いたものがこれってことですか。
これ(スイートポテトからバターと砂糖と生クリームを引いたもの)
そうです。スイートポテトからしたら、足りてないのが焼き芋なんですよね。
まずはなると金時からいきましょうか。 (もぐもぐ)スイートポテトだと思って食べると甘くないですね。 焼き芋をスイートポテトっぽくしただけのもの、試食してるだけなんですが2人とも顔があほになった
甘くない!でもしっとりはしてる。
卵黄がはがれちゃうとこれただの芋ですね。
硬さがあるのでフォークを入れると卵黄部分がもっていかれてしまう! ただの芋だ
紅はるかのほうはどうかな。……あれ? あんまり甘くない……紅はるかなのに!?
「焼き芋がスイートポテト並みに甘い今、スイートポテトはどうなっているのか」を考える記事だというのに用意した焼き芋が甘くないという痛恨のミス。
しかし、だからこそ次に食べるスイートポテトの良さに気づけるのではないか。 ちなみに紅はるかは本気を出すとめちゃめちゃに甘い(べつやくさんによるこちらの記事より)
甘いのではなく風味があり柔らかいのがスイートポテト?
ここから間髪いれずにスイートポテトいってみましょう!
まずは「らぽっぽ」のスイートポテトから
らぽっぽは大学時代によく食べましたよ。関西はけっこうあって、行く先々にあるんですよ。
今日は新宿の駅の中にあるとこに行きました。
新宿駅の構内にある店、とおくからかおりがして近くにあることをめちゃめちゃにアピールしている
切れ味は焼き芋にくらべるとこっちのほうが断然いいね、柔くてスプーンでさくっと切れる。あれ、でもそんなに甘くないね。
ほんとだ甘くない!
洋菓子っぽいかおりはしっかりする。生クリーム感もあってなめらかだね。
リッチさはありますよね。
それにしても甘くない! われわれは「スイート」という言葉にだまされてたのかもしれませんね。これは「芋に風味をつけたもの」ですよね。
あと「やわらかくて食べやすくしたもの」。
甘くないスイートポテトというものがあるのか。まずはそれに3人して衝撃を受けた。
焼き芋との違いは「より甘い」のではなく「風味がありやわらかい」という点だった。意外だ。 ただ甘いだけではない「お菓子」というもののギミックを感じる。 レゲエのスピリットで芋をリスペクトするスイートポテト続いてもスイートポテトの専門店から、松蔵のもの
松蔵は流行りましたよね。
あ…こっちもあまくない…?ガツーンとした甘さがない…。蜂蜜??自然の甘さというか…。
こっちもやっぱりなめらかですね。あとなんだろう、酸味があるね。
酸味ありますね。さわやかにしてるんだ。
そういえばレモン風味のスイートポテトって文化ありますね。まさに「芋に風味をつけたもの」だ。
あと、これは商品として芋の味を大事にしてる感じはあるね。
芋からの逸脱がないですね。
すっごい甘くして、おいしくしてやる、みたいな野心みたいなものがない。
チラシには甘いのがお好きなら蜂蜜や黒蜜を、って書いてあります。
そしていろいろな食べ方を紹介。「芋そのもの」として扱っている感が強い
甘くない自覚があるんだ。
あ、あとこれ、皮のところは芋のままなんだね。 裏っ返すと、芋!
芋をよく揉んでまた芋にもどしておきましたっていう感じだよね。
蟹グラタンみたいな状況。
芋へのリスペクト感じますね。
こっち(らぽっぽ)は形に芋へのリスペクトを感じないもんね。松蔵はリスペクトを感じる。
リスペクトって形を似せるっていことでいいんですかね!? もっとスピリットの部分を論じないといけないんじゃないですか!?
Wikipedia見るとスイートポテトってもともと、芋をくりぬいてその皮に詰めてたって書いてある。
えっ、そういう工夫をしたのって最近のことだと思ってました。
いわゆる昔ながらのスイートポテトってらぽっぽのやつみたいに画一的な形に成形されたイメージですよね。それ以前に皮付きの時代があったのか。 あ! チラシ、裏面に太陽と土にありがとう、って書いてある。 「太陽と土にありがとう」
レゲエの世界観じゃないですか!
スイートポテトと絞り染めに親和性あったとはね…。
つまりこれスピリットの部分も完全に芋をリスペクトしてるってことですよね。
お菓子でありながら、形状、味、そしてパッションまでも原料である芋に寄せてきているというパターンである。こういうスイートポテトもあるのか。
足元を芋にくくりつけてあとは自由なスイートポテト
続いては代官山の「シェ・リュイ」。有名な洋菓子店のやつです。
フランス料理の店がやってる本気の洋菓子店のスイートポテト
あっ!これもリスペクトしてますよ芋を。めっちゃめちゃにリスペクトしている…!
裏がまんまお芋!
皮を残すということが芋に対する敬意なのか。
あ、これ2層になってるんだ。下は皮だけじゃなく芋の部分が厚くとってあって、その上にスイートポテトが乗せてある。
下が焼き芋で上にスイートポテトが盛ってある
これもあんまり甘くない。こっちも酸味みたいなさわやかさはあるなあ。
これ上はすごく洋菓子味ですよね。
なんかこう…らぽっぽと松蔵は芋から逸脱しないように慎重に作ってると思うんですけど、これは足元だけ(芋に)くくりつけてあって、体はもうばーっていってる感じがするんですよね。
スイートポテトという名前を冠するために足元だけ芋にしばりつけてあるんだ。
きびしく洋菓子性を追求しているのがわかる味である。しかし自由に飛び立ってしまうわけではなく、きちっと律儀に足元は芋においているのだ。芋に対しての義理がたさがある。
甘いスイートポテトはコンビニにある
それにしても…どれも甘くないね…。
こんなに甘くないものなのか…?
改めて、スイートポテトと言うのは「焼き芋を甘くしたもの」ではないんだなあ。 「甘さ」をやってるんじゃなくて「お菓子」をやってる。
概念が完全に覆されたね。焼き芋の甘いやつのほうが完全に甘い。
あ、でもコンビニのスイートポテトはちゃんと甘いよ。 撮影終了後セブンイレブンで買ってみました。あ、甘い。私の頭にあったスイートポテトはこれだ。
ちなみに芋餡を使った「和風スイートポテト」もあった。栗饅頭の芋版だと思うのだが、「スイートポテト」をうたうということはやはりスイートポテトに人気があるのか。
甘いスイートポテトというのはもちろんあるわけですよね。その一方で甘くないスイートポテトというものがこうやって存在しているのが驚きだ。
あなた(芋)にとって私(スイートポテト)ってなんなの!?
もしかして…私(スイートポテト)のことはあなた(芋)にとって遊びなの!?
いや、なにしろ、スイートポテトを考えるポイントとして2軸あることが分かりましたよね。 ひとつは、形。皮の有無を焦点とした芋の形との距離感。芋そのものっぽさを抜くか保つか。 もうひとつは、甘さ。 横の甘さ軸と縦の形軸
焼き芋はかつて甘くなかった。スイートポテトは甘かった。
座標の2か所しか埋まっていなかった状態だったのだ。 しかし今焼き芋は甘くなり、そしてスイートポテトは甘くないものがある。 座標の4面がすべて埋まった状態である。 試食を通じ、いよいよ表題の「現代を生きるわれわれのスイートポテトを食べる意義」について考えていこう。 ポイントは「ゴリラ」であった。
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