最近のシンギュラリティに関する議論ではあまり注目されることはありませんが、カーツワイル氏は、コンピューターと人工知能の進歩のみによってシンギュラリティという事象が発生すると主張しているわけではありません。
彼がG・N・Rと呼ぶ分野、すなわち遺伝子工学 (Genetics)、ナノテクノロジー (Nanotechnology*1 ), ロボティクス (Robotics*2 ) の3つの分野が同時並行で進歩していくことによって、人間と社会の革命的な変化が進んでいくと主張しています。
以前のエントリで私が指摘した通り、カーツワイル氏が主張するあらゆるテクノロジーの指数関数的成長は現在のところ実証的には観察できず、指数関数的に成長しているものは情報テクノロジーに限られています。けれども、ここでは遺伝子工学は生命を、ナノテクノロジーは物質そのものを情報テクノロジーの配下に置き、指数関数的な成長を発生させようとする試みであると位置付けることができるでしょう。
ただし、ここで私は遺伝子工学とナノテクノロジーに関して、あまり詳細に取り上げるつもりはありません。
人工知能に関するカーツワイル氏の将来予測においては、拡張されたムーアの法則とヒトの脳のニューロン、シナプスの数という、荒っぽくはあっても定量的な根拠が一応存在していました。けれども、遺伝子工学とナノテクノロジーの研究に関しては実証的な将来予測は存在しません。ただ「あらゆるテクノロジーが情報テクノロジーと融合する」という特に根拠のない信念をもとに、いずれ指数関数的な成長が始まると述べているだけです。この2つの分野で、実際に何が指数関数的に成長しているのか、どのような原理によって情報テクノロジーと融合するのか、いつ指数関数的な成長が開始されるのか、などは全く示されていません。
よって、ここで敢えて取り上げる必要がある論点はそもそも多くありませんが、いくつかの技術と将来予測の妥当性、また、ケヴィン・ケリー氏が思考主義と呼ぶ考え方、すなわち「知能が高い存在は、あらゆる問題を即座に解決することができる」という信念について検討してみたいと思います。