「ザ・ファウンダー」限定公開によせて、収録楽曲とそのバックボーンのはなし
ただいま、限定公開中。2nd Album「ザ・ファウンダー」が一気に聞けちゃいます。
当初はツイッターに書こうと思っていた内容ですが、思いのほか分量が多くなりそうだったので
はてなブログにまとめることにしました。
メンバーの歌唱についての言及を先にしようと思いましたが、予定を変更してこちらのテーマを先に。
「ファンキー・バット・シック」をキーワードに制作をしているフィロソフィーのダンスですが、
とはいえそのアプローチは、ファンクにとどまらず、いままでも「告白はサマー」「DTF!」におけるロック要素や、「ソバージュ・イマージュ」「熱帯夜のように」のようなシンセポップなど、様々な音楽要素を軸にしています。
サンプリング文化が発達し、どういったエッセンスを盛り込むかが最も重要になった現代の音楽制作においても、「意図的なオマージュ、パスティーシュ」「無意識の類似と一致」などの境界線はいまだに曖昧です。
とはいえ制作にあたって、古いものをただ模倣するだけではおもしろくないので、そのなかでも特に楽曲の根幹ともいえる「メロディー」については、「~ふう」といったことは意図的に出来ても、メロディそのものが被らない(同じにしない)ことは、強く意識しています。
ふまえて、これから音楽をつくるにおいて、「元ネタさがし」を、音楽を語る上でのメインの話題にしたくないな、という風にも常々感じています。
この記事には、具体的な楽曲もかなり挙がってきますが、それで完結させることなく、
僕が大切にしてきた音楽と、フィロソフィーのダンスでこれからつくる新しい曲。それを両方好きになってもらえれば、これほど嬉しいことはありません。
純粋な気持ちで、楽曲が出来上がった背景について思いを馳せることができれば、という思いで、少しだけその影響について触れることとします。
音楽的な解説という性質上、メンバーのことや歌詞、振り付けなどの世界について触れることがあまりできませんでしたが、主に歌詞とそのあたりのエピソードについては先程公開されたヤマモトショウさん(@yamamoto_sho)の記事、
僕目線でのメンバーとグループについての言及は追って後日公開する(予定の)第二弾の「楽曲と歌唱のはなし」をご覧ください。
1.ダンス・ファウンダー
制作においての僕自身の(あるいは、もしかしたらフィロソフィーのダンスとしての)楽曲群の根幹になってきた影響は、1977年にCHICというバンドでデビューし、その後も数々のプロデュース楽曲を世に送り出してきたナイル・ロジャースに他なりません。
今まで「すききらいアンチノミー」「アイム・アフター・タイム」「アイドル・フィロソフィー」がそれぞれ、ナイル・ロジャースが残してきた作品を時系列順的にトリビュートして制作されたことも、今やメンバーインタビューなどでも取り上げられているのはご存知のとおりです。
(それぞれ、70年後期のCHIC時代→80年代のプロデュース時代)
ナイル自身は2014年にダフト・パンクとコラボレーションした「Get Lucky」2015年にはCHICを復活させその最新楽曲である「I'll Be There」をリリースし、自分のダンスミュージックを更新しています。
踏まえて、今回もグループの代表曲を目指して制作された本楽曲だからこそ、その系譜をきちんと辿る必要があるな、と感じたことをサウンド・イメージに反映させています。
ベースラインに関しても、彼の(あるいは最大のパートナーであるバーナード・エドワーズの)残した楽曲のなかで最も印象的なものを、少しだけ要素として盛り込んでいます。(あとは、気になる方だけ見つけて楽しんで欲しいので、これに関してはまだ具体的な曲名は記しません)
この曲は音楽的な解説以外にも触れずにはいられないんですが、歌詞も振り付けも、初めて見た瞬間に「きた!」と感じました。チームとして一緒に結実させられたと思います。もちろん、歌も。
CHIC feat Nile Rodgers - "I'll Be There" [UK Version]
www.youtube.com
Daft Punk - Get Lucky (Official Audio) ft. Pharrell Williams, Nile Rodgers
2.ライク・ア・ゾンビ
アレンジにおいて最も大切にしていることは、イントロから2秒でもうその曲が何かわかること、それを聴いた瞬間にわっと心が熱くなること。
この楽曲のイントロはまさにそのために作られたと言っても過言ではありません、このイントロが思い浮かんだときには、曲が出来上がったも同然です。
モチーフは、尖ったピアノリフとブラスが活躍する、80年代初期のLAのサウンドイメージ。
マイケル・ジャクソンの名盤「オフ・ザ・ウォール」などにも参加している、ジェリー・ヘイ・ホーンズ(またはシーウィンド・ホーンズ)というホーン隊がいるんですが、この時期のこうした音楽には、驚くほど彼らが参加しているんですよ。
Earth, Wind & Fire - And Love Goes On(ジェリー・ヘイではありませんが)
Michael Jackson - Don’t Stop 'Til You Get Enough
Airplay - Bix
3.はじめまして未来
もうこの曲はいろいろなところで語られてしまった。
隠すこともなく、EW&Fの「September」「Let's Groove」のモチーフがたくさん使われていて、このグループはファンク/R&Bの中でも誰でも聴いたことがあるぐらい代表的なグループで、ある意味ではもっとも"ファンクな"モチーフとも言えるのですが、この楽曲のもつポップ性と、メンバーの声質も相まってなのか、「今までよりもポップ」「アイドルっぽい」というコメントが見受けられたのも、個人的にはいい意味で面白かった。
この曲は実は「アイドル・フィロソフィー」を作った前の日に作って、一瞬ボツにしかけました。もしかしたら、これがFUNKY BUT CHICのタイトル曲だったかもしれなかった。それはそれで、面白かったのかも?
ちなみにこの「はじめまして未来」、配信版は本当に9月(September)に配信された。狙ってか偶然かは、僕は知りません。
Earth, Wind & Fire - September
Earth, Wind & Fire - Let's Groove
4.エポケー・チャンス
この曲は、届いたデモがストレートなファンクサウンドだったことにぐっときて、「一番ファンキーな曲に仕上げよう」という意気込みで編曲にあたりました。
ビヨビヨビヨ!とかビューン!みたいなシンセの飛び道具が出てくるのは、70年代ファンクのお約束。
そして、Bメロで一気に雰囲気が変わりますが、これはタワー・オブ・パワーのキレのあるタイトなサウンドをイメージ。
余談ですが、前作「FUNKY BUT CHIC」収録「VIVA運命」でハルちゃんの歌声がガツンと歪んでいたのが気持ちよかったので、この曲は全員、ヴィンテージサウンドを意識した過激なセッティングで歌の処理をしています。
Bar-Kays - Money Talks
Brass Construction - Music Makes You Feel Like Dancing
Tower of Power - Only So Much Oil In The Ground
5.夏のクオリア
これは届いたデモの時点で夏らしい爽やかな楽曲という印象を受けたのですが、
夏といって避けて通れないイメージが、巨匠たちがイラストとして描いてきた、見たこと無いぐらい真っ青の絵の具で描かれた空。というと、モチーフはもうこれしかないであろう。ということで。
御大、すみません!最大限の尊敬と愛を込めて。
山下達郎 – SPARKLE
ちなみに「夏のクオリア」のサックスソロはアルバム収録にあたって、前田サラさんに参加して頂きました。素敵な演奏をバッチリ決めて頂いて、レコーディングの現場でもテンションが高まってました。
6.ニュー・アタラクシア
「ダンス・ファウンダー」以外で、久々に作曲を担当した楽曲。
実はこの楽曲、時期にして「告白はサマー」より前、2015年の9月に出来上がっていた曲でした。
しかし、あまりにもこのラテンビートの持つ雰囲気が夏らしかったため、夏に出そうといって先延ばしになりました。(翌年「告白はサマー」がリリースされたので、また先延ばしになったのは説明するまでもない。)
今回発表にあたって、アレンジをすべてやり直しました。2年という月日でメンバーみんなの歌唱と自分の音作りが成熟したことを実感して、逆に2年経ってよかったのかもしれない。でも、あわやお蔵入りになりかけていた曲、出せてよかった。
この曲のアレンジにはラテンフィール以外には明確にこれとイメージしたものは無いのですが、前述の「夏のクオリア」にも現れる80年代日本の素晴らしい楽曲群のサウンドの雰囲気と、ラテンビートの融合が夏らしい爽快感を出せたかな、と思っています。
7.バッド・パラダイム
2016年、前作アルバムを発表した翌年の一発目。今年のフィロソフィーのダンス、どうしようね?という葛藤の中で、今年はより力強い、モダンなエッセンスを取り入れようと考えました。
楽曲じたいの下敷きはおそらく反対にオーセンティックなファンク楽曲で、作曲者の野戸さんの愛情がとても詰まっているように感じてます。
このことはいずれ、またどこかで。
特にこの楽曲が、というわけではないのですが、近年のモダンテイストのファンク楽曲といえば、この曲に触れないわけにはいきませんね。
Bruno Mars - 24K Magic
8.ミスティック・ラバー
「シティポップ」っていう言葉がもう一度使われ始めた近年、大概の人が「シティポップ」って何よ?って思ったときに真っ先に思い浮かべるサウンド感。
でも実際のところこれ、よく聴き込んで行くとその根幹にあるのがアシッド・ジャズと呼ばれる音楽だとよくわかる。
中でも最も象徴的なグループはジャミロクワイと言えるでしょう。
普段、編曲を担当している他の楽曲では自分でベースパートも弾いていて、この曲もそれでも良かったのですが、
今「7セグメント」というバンドを僕と一緒に組んでいるベーシスト、武宮優馬は
「ジャミロクワイ芸人」を自称するほどの入れ込みようで、
それならば、とシャレの気持ちもあり彼にベースを任せました。
彼に言わせればベースラインもいくつかのオマージュで構成されているらしいんですが、そこまではもはや僕でもわかりません。
Samuel Purdey, Lucky Radio
ちなみにこれはグループとも関係ない本当に余談なんですが、優馬くんとはこの前湯河原旅行行きました。
9.ドグマティック・ドラマティック
この曲はデモが届いたときのもともとのイメージはわりとスタンダードなディスコ風味。
でも、グループとしての幅をもたせるためにはひと仕掛け打ちたい、そう思ったときによぎったのが、
90年代、豪華なニューヨークのミュージシャンを起用して作られてきたJ-POPの名曲たち。楽曲はポップでありながらも、多彩なリズムワークで組み立てるアレンジ。そういうものを4人の歌唱で聴いてみたくて、この曲もそんな仕上がりに。
ちなみに、その頃ラジオで取り上げられた「ダチーチーチー」の話題が盛り上がりを見せてたので、この曲でももちろん、やってます。サービスです。
楽曲には直接関係ないですけど、「ダチーチーチー」の代表的な例を取り上げておきます。
Alice Clark - Never Did I Stop Loving You
10.アルゴリズムの海
サウンドイメージ的にはもっとも異色、ともいえる楽曲に思えるのですが、もともとはもう少し、エレクトロライクなアレンジが施されていました。
その後紆余曲折ありアレンジが全体的に変更されることになったんですが、結果的には、このやや東洋チックなテイストが、この地球のどこにあるかわからない「アルゴリズム海」に連れて行ってくれるような気がしています。あれ、そんな海ないんだっけ。
今までの他の楽曲と一番違うのは、実はそういったインド楽器などのテイストだけでなくて、ビートが最初から最後までハーフビートの、いわゆる近年のダンスミュージックに近いノリ方になっているところです。
インドの民族楽器で、「タブラ」という打楽器と、「シタール」という弦楽器が使われているのですが、僕の中ではそうなるとこの曲がイメージに出てきます。
The Beatles - Within You Without You
11.ベスト・フォー
いまやライブでもハイライト、グループの自己紹介のような曲になっているこの曲。
デモが届いたときに思わずニヤリ、ならばとことんやってみよう。ということで、ボズ・スキャッグス「Lowdown」のサウンド感をオマージュ。
でも、それを抜きにして、四人にぴったりのポップな名曲になっているのが、作曲・芦沢さんの素晴らしいメロディセンスによるところだと思います。
Boz Scaggs - Lowdown
12.ジャスト・メモリーズ
「良い曲作ってください」みたいなざっくりした話で、バラードを作曲することになってしまって、頭を抱えているときに、ふとフィロソフィーのダンスならどうするだろう、と考えました。そして、せっかくここまでブラックミュージックを下敷きにしているのだから、と、古くから愛され続けた、ソウル・バラードとゴスペルの要素をふんだんに盛り込んでみたら、これが案外はまった。この6/8という3拍子に近いゆったりしたリズムは、いまや日本では親しみがなくなってしまい、近年では殆ど使われていない。
Aメロの終わりで「アーウッ」というコーラスが入ってくるんですけど、これはアレサがカバーしたことでも有名な「ナチュラル・ウーマン」のオマージュ。細かいディテールまで丁寧に作りました。
レコーディング中はみんなの歌姫としての姿が見えたような、見えなかったような。
Aretha Franklin - (You Make Me Feel Like) A Natural Woman
Alicia Keys - If I Ain't Got You
最後に、これだけのオマージュをしたためた楽曲群は、決して容易に歌いこなすことができないものだと思うのですが、それをあえてアイドルというフィールドできちんと提示できるのは、メンバーのキャラクター性と真摯さがあるから、ということに他なりません。このグループだからこその挑戦ができる、そういう意味で最高の環境だな、ということ、感謝をせずにいられません。
次回はいよいよ、制作の時僕が感じたこと含め、グループやメンバーそれぞれについてももう少しコメントしたいと思います。
改めまして「ザ・ファウンダー」よろしくお願いします。